マネー・ロンダリング対策 犯罪資金の偽装を許すな

国際的な連携体制の強化を軸に

合法性を装う手口

 「本人確認」。こんな4字熟語の文書が、10月の郵政民営化を目前にして、
利用者に送られている。また今年に入ってから、現金によるATM振り込み
限度額が10万円に引き下げられ、10万円を超える現金での振り込みを行
う際には、窓口で「本人確認」書類の提示が義務付けられた。この「本人確
認」とは、マネー・ロンダリング(資金洗浄)対策の中枢に位置付けられてい
る「金融機関本人確認法」(2003年施行)に基づいて実施されている制度
だ。マネー・ロンダリングとは、犯罪による違法な資金の出所を隠して、合法
性を装う手口をいう。

 先月(7月)28日、在京暴力団の総長が風俗店から、みかじめ料(用心棒
代)を取っていた容疑で逮捕された。暴力団などの犯罪組織は、みかじめ料
から、麻薬・覚醒剤や武器の売買、密輸、売春、賭博、振り込め詐欺、恐喝、
ヤミ金融、窃盗・盗品取引、脱税、贈収賄、殺人などの闇収益を、そのまま表
経済では扱えない。

 警察による摘発を防ぐためにも“洗浄”を偽装し、新たな犯罪活動の資金に
したり、合法的な経済活動に介入して収入源の確保・勢力拡大を図る必要が
生じる。景気回復を受け、暴力団の資金獲得・隠匿の手法も、株から不動産
売買など表経済への多角的な進出が目立つ。経済の国際化により、銀行間
の決済や業務提携等を利用して海外への資金移動も容易だ。マネー・ロンダ
リング対策も国際的に緊密な連携が不可欠になった。内外の新情勢に合わ
せた、制度整備の需要が高まって久しい。

 わが国の犯罪収益の移転に対処する法律は、前記「金融機関本人確認法」
に加え、「組織的犯罪処罰法」(2000年施行)および「麻薬特例法」(1992
年施行)が3本の柱として知られる。国際的には「ウイーン条約」(麻薬及び向
精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約、88年)、「パレルモ条約」
(国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約、2000年)、さらに2001
年9月11日の米同時多発テロを受けて、テロ資金対策を加えたFATF(金融
活動作業部会)「40の勧告」が公表された。

 従来の3法を母体として、FATF勧告を踏まえた新法「犯罪による収益の移
転防止に関する法律」が先の第166国会で成立した意義は大きい。同法は
金融機関に絞られていた「特定事業者」に、ファイナンスリース業者、クレジッ
トカード業者、宅地建物取引業者、貴金属業者、郵便物受取・電話受付サー
ビス業者、弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士を加えた。「特
定事業者」が金融機関に絞られていた従来法でも、「疑わしい取引の届出件
数」(金融庁)は、2006年には11万3860件、今年(2007年)6月までに累
計160件超の摘発に効果を上げた。新法は飛躍的な情報量の拡大を促すの
みならず、FIU(資金情報機関)の機能を国家公安委員会・警察庁が担い、国
際的な連携・協力を深めることが期待される。

取り組みの強化を

 マネー・ロンダリング対策で大事なのは、ローンダラーが罠抜けの研究に余
念がないことである。ゆえに取り締まりシステムも常に更新される必要がある。
犯罪組織と闇資金の公然化を許さない国際的な取り組みの強化だけでなく、
善良な一般市民の権利を擁護するネットワークづくりも、車の両輪として担保
されねばなるまい。

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