市民も担える救急医療に

プレホスピタルケアの拡大を
AEDで高い効果

 病気や事故など不測の事態から命をどう守るか、救急医療の充実が改め
て注目されている。奈良県で妊婦が救急車内で流産したケースでは、受け
入れを広域で調整するシステムを含む周産期医療体制の構築が大きな課
題として浮上した。救命救急センターなどを核とする地域医療の充実が急が
れる。

 同時に、救急では「プレホスピタルケア」にも一層、力を入れる必要がある。
プレホスピタルケアは「病院前救護」などと訳されるが、救急現場や搬送中に
高度な処置を行うことで、救急・救命効果を高める取り組みと考えれば分か
りやすい。広義にはドクターヘリも含まれようが、日本では主に、公明党が
主張し1991年4月に法が成立して誕生した救急救命士がその役割を担って
きた。

 救急救命士が行う応急処置の拡大とともに、今ではさらに一歩進み、市民が
救急医療で果たす役割も大きくなってきている。最近では、2004年7月から
一般市民の使用が解禁された「自動体外式除細動器」(AED)による救命効
果に注目が集まっている。

 総務省消防庁のまとめによると、昨年(2006年)1年間に病気や交通事故
などで心臓や呼吸が止まって倒れた患者の応急手当てに一般市民がAED
を活用したケースは254件に上り、前年の3倍以上に急増したことが明らか
になっている。

 このうち140件では心筋梗塞など心臓病の手当てに使われ、救急搬送され
た患者の1カ月後の生存率は32.1%と、AEDを使わなかった場合の8.3%
に比べて効果の高さが証明された。

 市民の協力を得て効果が期待できる救急処置では、次の課題としてハチ毒
や食物、薬物などに起因するアナフィラキシーの補助治療剤であるアドレナリ
ン自己注射(製品名「エピペン」)を第三者が使える環境整備が急がれる。

 アドレナリン自己注射は、食物アレルギーなどに起因する重い症状、短時間
のうちに処置しなければショックで死亡する可能性もある呼吸困難や血圧低下、
意識を失った時などに効果を発揮する。ただ、本人か家族しか使えない現状
では、本人が意識を失ったり小さな子では使えないことも多く、そうした子を
預かる学校関係者や保護者などから、周囲の第三者が代わりに打てる環境
を整備してほしいとの声が上がっている。

 こうした声を受けて公明党は昨年(2006年)9月15日、救急救命士が駆け
付けて自己注射を使えることが大きな安心材料となることから、救急救命士
による自己注射の使用を認めるよう、患者とともに厚生労働省に申し入れた
経緯がある。

 先の除細動も、救急救命士は当初、医師の指示のもとで行っていたが、
今では救命士の判断でできるようになり、AEDを使う除細動は一般の人で
もできるようになった。アドレナリン自己注射の使用も当面は救急救命士に
拡大し、さらに養護教諭などに広げていくのが現実的な道筋ではないか。

国は対応を急ぐべき

 プレホスピタルケアでは、医師の指示のもとで救急救命士などが行う応急
処置の質を確保する「メディカルコントロール」が問題になる。アドレナリン自
己注射は診断に基づいて個々に処方され、使用のタイミングも指導されている。
周囲が情報を共有することで一定のメディカルコントロールを確保することもで
きる。救急対応から救急の「予防」へ、国は実効性を高める対応を急ぐべきだ
ろう。

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