食品値上げ 国家戦略の構築が急務に

同時多発的なドミノ現象の様相
食欲の秋に“暗雲”

 ごはんが、うまい。香り立つみそ汁がおいしい。いまが旬の丸々と太った
サンマ、秋ナス、キノコ類、クリ、ブドウといった果実から飲料水まで、ひと口
いただく度に、自然の恵みへの感謝の心が沸く。食欲の秋が真っ盛りだ。

 こんな食欲の秋の感動に水を差すように、身近な食品値上げの報が相次ぐ。
練り物を原料とするチクワなどの減量による実質的値上げは、昨年(2006年)
来、始まっていた。しかし今年の食品値上げは、スケールが違う。大手メー
カーのマヨネーズ、人気チョコなどの菓子類、即席めん、パスタ、小麦粉、パン、
冷凍食品ほか、食用油も1995年比1.5倍以上になった影響を受けて、10
月から一斉に値上がりする。影響は、ファミリーレストランやファストフード店
などの外食産業を直撃し、今月(9月)も1日から値上げラッシュが続いている。

 原因としては、主要な穀物の国際価格上昇が大きい。穀物の国際的取引の
指標となる米シカゴ商品取引所の小麦相場は、今月(9月)4日に1ブツシエル
=8.07ドルの高値を記録。昨年(2006年)来のこうした高値推移に合わ
せて政府は8月24日、輸入小麦売り渡し価格を4月に1.3%値上げしたの
に続き、10月から10%値上げする方針を発表した。

 小麦価格上昇の要因は、三つ挙げられる。(1)天候不順(2)需給の逼迫
(3)投機資金の流入、である。

 (1)については昨年、米国やオーストラリアの小麦産地で干ばつ被害が相
次いだ。今年に入っても、米国や欧州西部の降雨被害と欧州東部の干ばつ
被害が、小麦備蓄の品薄感を助長した。

 (2)では、中国やインドなどの新興国の需要増だけでなく、バイオエタノール
絡みの波及効果が大きい。地球温暖化対策や原油高騰などから、トウモロコ
シやサトウキビなどの穀物を発酵させて製造するアルコールを、ガソリンに混
ぜて燃やすのである。このため米国やブラジルなど主要な穀物生産国では、
大豆など他の穀物から、トウモロコシやサトウキビなどへの大規模な転作ブー
ムが起きた。最貧国で餓死者が絶えない一方で、「食物」が「燃料」に転用され
ている。緑地を「油田」に開拓する構図は、森林の減少、水資源の枯渇化の誘
因として懸念される。

 (3)は、米国の低所得者向け住宅融資(サブプライムローン)焦げ付きを契機
とする国際的な投資リスクの高まりのなか、国際資金が商品市場へなだれ込ん
できた。ニューヨークで原油先物価格が1バレル=84ドルの史上最高値を突
破しただけではない。非鉄金属から、ガソリンを代替するバイオエタノールの
原料となるトウモロコシ市場に資金が流入し、値上がりの波浪は、小麦、大豆、
パーム油、カカオ豆など、他の国際商品全般に及ぶ。

厳しい現実は不変

 穀物市況の高騰は、飼料価格上昇を促す。鶏卵、食肉、乳製品の値上げ圧
力も強い。BSE(牛海綿状脳症)や鳥インフルエンザへの警戒感、和食嗜好で
世界の海産物需要が高まれば、魚介類相場を押し上げる。同時多発的な値上
げドミノのなか、わが国がさまざまな分野で「買い負ける」事態が生じてきた。
問題は金融政策の国際協調や、個別的物価対策といった対症療法の枠内にと
どまらない。穀物、食料、エネルギー、水資源などに対する、地球環境問題と整
合的な国家戦略の構築が急務である。「油の一滴は血の一滴」。第2次大戦の
引き金となった、国際社会の厳しい現実は変わらない。

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