バカ漫画 其之拾
「オーム伝」
〔光伸書房・ハイコミックス〕全3巻(未完)
昭和42/9/15〜発行
関一彦
 バカ漫画も、第10弾になりました。10番目なのに実質16番目とは。えらく遅くてスマソm(_ _)m
え〜、第10弾記念しまして、普通の人では絶対に読むことの出来ない作品を・・・・・・
・・・・・というわけで、うちの超高額商品より「オーム伝」をご紹介します。

 この作品、うちではとりあえず¥80.000というバカ高い価格をつけております。
 何故ならばこの本は、
@光伸書房というマイナー貸本系出版社でして、発行部数はおっそろしく少ないこと。
A更に、光伸書房のコミックは、流通するほとんどが貸本状態(穴あき、糸綴り)であること。
Bにもかかわらず、うちにある在庫は貸本でもなく、発行から35年以上経過しているにも
関わらず、物凄く状態が良いのです。

ボトッ・・・・・と床にでも落としたら、数千〜数万円ほど吹っ飛びそうだな、こりゃ。
読むのにも、レビュー書くのにも苦労しそうだ。大事に、大切に、慎重に、そお〜っとですな……

何故、これほどまでに苦労してレビューを書き続けなければならないのだろう。
やはりこれも、崇高な使命感故だろうな。
すなわち笑いを取るため漫画の素晴らしさを後世に伝えるためです。

そのためなら、例え火の中、水の中……超高額な本であっても例外はなし。



 とりあえず、作者・関一彦のプロフィールのご紹介。
昭和16年生まれ、高松市出身。在住のまま、ホームラン文庫(東考社)でデビュー後、
日の丸文庫に移る。
SF劇画に本領を発揮。すでに二児のパパ。

 SF劇画ってぇとつまり劇画作家の描くSFってことです。それまでSFというジャンルは
手塚・石森・藤子などトキワ荘の住人の天下でございました。

そこに新興勢力であります劇画が食い込もう…ってぇ寸法です。
代表作としては、さいとうたかを『サイレント・ワールド』あたりがメジャー(?)ですが、
どうも今ひとつだったようで。SF劇画という言葉自体、それ以降あまり耳にしなくなってしまいました。

 この作品も、当時のその流れを受けたSF劇画超大作になる予定でした。
長編劇画そのものが珍しかった上に、テーマがSFです。
それも大長編となる旨、宣言しております。おそらく、周囲にかなり期待もされていたのでしょう。
1巻のあとがきに小松左京氏が、かなり熱いエールを送っております。





 前置き長くなりました。レビューの方に参りましょう。

 まず、この作品には素敵なサブタイトルがついております。
「21世紀の日本」
……そう、現在の日本のことです!!

話の内容などから推測するに、21世紀後半のようです。
1960年代から約100年後の近未来を想像すると、こんな風になるのだよ、明智くん。
今が2005年ですから、あと50年も過ぎればこんな世の中になるのですか。う〜む……やだなぁ


 更に冒頭のページには、いきなりオマージュらしき一文が添えられております。

「この作品を手塚治虫氏と白土三平氏に捧げる」
   手塚氏からは手段
   白土氏からは方法を学んだ男より
・・・・・おお!意味はよく判らんが、なんかカッチョイイな(笑)

手段ってのは、おそらくSFを話のベースに取り入れたことにより、未来を劇画的に表現したことだろうと思います(ホントにできているかどうかは別として)では、「方法」ってのは???


 ここで、あらすじです。長いし、話がかなり飛躍するので、ちょっと説明しにくいのですが・・・

 地球に飛来してきた2隻の宇宙船の戦闘から、この物語は始まる。片方の宇宙船がもう一方を撃退するも、撃退された悪の宇宙生命体・
トッパーは脱出し、それを追う善の宇宙人・カシオペヤ星人
原子レベルにまで分解する。
そして
トッパーは手近にいたサメを操り、豪華客船忍び込み、客船の乗客・カミ夫人の頭脳を
乗っ取ることに成功する。操られた彼女は、自らの赤ん坊を海に投げ捨て、更に
トッパー本体に
高カロリーの栄養物(
血液)を提供すべく、何度も人間を殺害するようになるのだった。
彼女はやがて、暗黒街の組織を乗っ取り、着々と人間を支配する下準備を重ねていた。

 場面変わり、その頃の陸軍の食糧庫などでは、数々の
超能力を駆使するオームをはじめとする
抵抗組織が大量の食糧を強奪する事件が相次いでいた。21世紀の日本では貧富の差が拡大し、
一部の資本家が大多数の民衆から富のほとんどを搾取する状態が続いていたのだ。
 
カミ夫人も、本来は貧民に救いの手を差し伸べる良識的な人物だったのだが、
トッパーに支配されて以来豹変し、極悪な人物と化してしまった。訝しがる人々をよそに、
テレパスである
オームは、カミ夫人の正体に気付き愕然とするのだった。

 更に場面変わり、刑事の
秋山シンゴは、都内に跳梁跋扈している一人の犯罪者を追っていた。
彼は囚人であるはずなのだが、いつの間にか刑務所内から姿を消し、外で犯罪を繰り返しては
いつの間にか再び刑務所に戻っているのだ。執拗な追跡の途中、その犯罪者は事故死する。
しかし、その裏には陸軍による超能力開発計画が蠢いていたのだ。
 
シンゴも実験材料となるが、極限状態の中超能力(テレポーティション)に目覚め、解放される。
 彼は、貧民街(スラム)の指導者的存在である
トリイと付き合ううちに、自分の仕えている国家に、
そして自分が職業として守ろうとしている体制に、疑問を感じ始めるのだった。

 更に更に場面変わり、オームは、労働者の雇用を奪い、更なる貧富の差を生み出すロボットを
大量生産する超巨大企業・
三石財閥のロボット工場を次々と破壊していく。
三石財閥
の跡取り息子にして、テレパス
三石竜次を易々と翻弄する。そして、更なる富を求め
暗黒街と癒着し、軍事産業へ進出しようとする三石財閥に警告を発する。

 そんな中、トッパーの支配から逃れたカミ夫人は、自らの赤ん坊を海に投げ捨てたことに心を痛め、
悲しみの日々を送っていた。心の中で赤ん坊を呼び続けるカミ夫人
それに呼応するかのように、赤ん坊がちょうど投げ捨てられたその海中において、
トッパーに分解されたはずのカシオペヤ星人の未知の力により、様々な原子が集まり、
赤ん坊は類人種族(ヒューマノイド)として復活していたのだった・・・・・・

…と、まぁこんな感じの話ですが、残念ながら、ここで話はいきなり途切れてしまいます。
なぜなら、全6巻を予定しながら3冊までしか発行されなかったからです。
3巻のあとがきに、作者自ら「人生上の困難がふりかかり」
…と、ありまして、一体何が起こったのか、無茶苦茶気になるところです。
 ご存知の方、おられましたら是非ご一報ください。




 さて、この作品で面白いのは、何かあるごとに逐一解説が入ることです。例えばコマの枠外には、
(1巻 P.61)2019年防衛省はついに幾多の反対をおしきって日本軍隊となった。
(1巻 P.73)先頭の運転手とオームとの会話はテレパシーでおこなわれたことはもちろんである
…などといちいち挿入。 更に解説が長すぎて枠外に収まらない時は、1コマ使ってでも強引に解説。

   (以下、全部原文ママ。本来の文章には改行すらなし)
  1巻 P.9  冒頭のロケット同士の戦闘状態の解説
宇宙においてのロケット対ロケットの戦いはロケットのエネルギー、バリヤー対それを破ろうとする
エネルギー波の戦いである。相手のバリヤーを破らないかぎりロケット自体を破壊することは出来ない。
ここでは追ってきたロケットがバリヤーを破り逃げるロケットの一部を破壊することに成功した。


  2巻 P.149  作中で国家保安員の用いる「神経ムチ」の解説
神経ムチは2018年ロシア人アシモフによって発明され現在全世界の警察官の主武器となっている。
これは皮下神経にのみ作用し皮フ細胞には何の内外傷も与えない。しかしその痛みは強烈で失神、
はなはだしい場合は死亡させることもできる痛みの強弱はグリップのめもりで調セツできるようになっている
これら解説は句読点少なく、しかも横長のコマに縦書きで書いてるんで、まぁ読みづらいこと(笑)

 更に更に、一番笑ったのがこれ↓↓
  1巻 P.35  宇宙生物トッパーカミ夫人の精神を乗っ取るシーン
          宇宙生物トッパーになったつもりでご覧ください

フーッどうやら支配したぞ
いつでも知的生物の頭脳に住みつくには
多少の抵抗はあるものだが・・・
どれ、記憶を調べてみるか
フム、この生物は人間というものか、こいつらが
この恒星系(ここでは太陽系)の支配的生物か。
オレがここまで乗ってきた(トッパーはとりつくことをこう表現するらしい)生物はサメというものか・・・
さて、この人間=カミ夫人か=の状況は・・・
ウム近くに人間が、ギャングという種類か・・・
極度の危険な状態におかれているらしい――――ヨシッ

エート足の神経は・・・・・・と・・・・・・これか

……いやまぁ……その……なんといいますか……
 確かに宇宙人が未知の知的生物の頭脳を乗っ取った場合は、こんな順序で思考することに
なるんだろうけど、それをわざわざ逐一表記しなくてもいいと思うのだが(笑)

これを「親切」と感じるか「あぁもぉ鬱陶しい!」と感じるかは、読む人次第ですな。
                                60年代は「親切」だったのかしらん?(笑)


 ……と、ここまで書いてフト気付いたのですが、
そうか、冒頭のオマージュ
白土氏からは方法を…」
      …ってのは、コレだったんだ!!…ってこと。

つまり、白土氏が忍者漫画忍術について合理的・科学的な注釈・解説を述べるのと同様に、
SF、すなわちこの作品における超兵器・超能力などにも、合理的・科学的な注釈・解説
逐一付け加える。 これが方法ってヤツなんでしょう。


『サルでも描けるまんが教室(愛称゛サルまん")〔相原コージ&竹熊健太郎〕
Lesson19「ウケるエスパーまんがの描き方」で、竹熊健太郎氏が
忍者まんがは、今のまんが界にも脈々と生きているのだ。(中略)エスパーまんがに形を変えてな」
・・・と言っております。正確には、1970年代のユリ・ゲラー来日とブルース・リー映画大ヒットにより、
忍者漫画は、エスパー漫画カンフー(格闘)漫画二極分化されたのだと。

つまり、この漫画(「オーム伝」)は、60年代初頭において既に、
エスパー(SF)漫画忍者漫画的手法を導入した、前衛的・先駆的な作品ではなかったかと。
両者を繋ぐ、ミッシングリンク的な作品とも言うべきか。
(考えてみたら、シンゴが超能力に目覚めるシーンなんざ、もろ「イヤボーンの法則」です)

ただし、あまりに時代を先取り過ぎて劇画読者がついてこれたか疑問ではありますが




 さて、もう一つこの作品で語られるべきは、未来における日本の状況です。
さすがはSF劇画リアリティを追求するだけあって、近未来の設定もかなりシビアです。

 あらすじでも述べておりますが、21世紀における日本では、高度に資本主義化が進行し
一部の資本家国家権力のみが肥え太っており、国民の多くは、スラム(貧民街)での
その極貧生活を余儀なくされております。食うものなく飢えた子供はネズミも喰います。それもで。
 超能力を備えた諜報員を開発するため、国家により人間が売買されるようになります。

ここまで言うと酷い社会のようですが、しかし、その人間を買う金額たるや、何と1億円(!!)でして、
なかなかに豪勢。今でもOK出そうな額。利根川さんなら逆に「高い!」とか吐き捨てそうだ。
あと50年ほどしたら、信じられない1億円が安価になる)ほどインフレが進行するからかもしれません。

シンゴ なにかが狂ってる。金がある奴は無茶苦茶に金がある。ないやつはとことんない。
     なぜだろう、なぜこうなったんだ

署長  それが資本主義の世の中だ。お前の言っていることは共産党のセリフだぞ。
     刑事のお前が、共産党を取り締まるお前が

シンゴ オレには分からない。共産党がなぜ悪いのだ。
     共産主義は誰にとって危険思想なのだ。誰にとって、誰にとって

署長  国家にとって危険なのだ
シンゴ 国家・・・・・・国家とは、国家とは・・・いったい何なのだ

 他にもアカがなぜ悪いんだよ」などというセリフもあり、当時1960年代の日本においては、
共産主義がかなり理想的な思想だと受け取られていたのだろうと推測でき、中々に興味深いモノです。

 逆に、資本家の非情さと悪辣ぶりを描こうとしたのでしょう。超巨大企業・三石財閥の一人娘である
さゆり
(定型的御嬢様・美人・タカビー)が、反抗的だが芯の通った労働者のアキラに嫌がらせしようと
「私の 排 泄 物 よ。
それを
全部食べたら百万円あげる、どう?」

…と、ある特定のマニアなら、大悦びで承諾しそうな提案をする。
もちろん、別の意味で大笑いしたのは言うまでもないぞわはははははははははは_| ̄|○∠))バンバン!


 更に、スラムで流行っているが、これが何ともイカシているのだ。
「♪民族の自由を守れ 決せよ諸国の労働者♪
 ♪栄えある革命の伝統を守れ 血潮には正義の血潮もて♪」
「民族独立行動隊の歌」ですな。こんな曲が、21世紀になっても歌い継がれているとは(笑)


 ちなみに、主人公(?)であるオームも、元々はΩ(電気抵抗)が転じて、
国家=資本主義体制への抵抗、すなわちレジスタンスの意味でつけられた仇名です。
            某真理教とは同じ名前ですが、あちらとは一味違いますな(某真理教はΩ(オメガ=究極)の意)〕


 まさか、社会主義陣営〔正確には、共産主義体制ではないので、念ため〕の方が、
資本主義陣営よりもこの状況に近いことをやっていたとは、当時は考えられなかったのでしょう。




 ただまぁ、この作品を初めて読んだ時(5年ほど前)は、結構笑って読めたのですが、
最近の日本の状況を考えるに、ここ数年でこの作品が少々笑いづらくなってきつつありりますな。
                                     ……気のせいですかそうですか……

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