バカ漫画 其之弐拾七
「鋼鯨〔ザ・タンカー〕
〔主婦と生活社・Gigaコミックス〕
(平成3年6月1日発行)
青柳祐介
 バカ漫画特集は、四回に渡って「死者に鞭打つ」シリーズ。
お亡くなりになられた作家さんの特集です。ファンの方には最初に謝っておきましょう。ごめんなさい

 まず登場されますのは、青柳祐介先生(1944〜2001)
 『土佐の一本釣り』『鬼やん』『川歌』などを描かれた、高知県出身の人気作家です。
故人の描く、その男らしい生き様と、無骨だが味のある絵柄には、根強いファンも多いので、
こんなところで採り上げるのは非常に心苦しいのですが……
でも、この作品、やっぱりヘンなんですよ。


 主人公・鳥越領市は、山梨県の山奥で17の時に嫁いできた婆ちゃんの、今わの際に
「海を一度でもいいから見たかったよ」と言ったその言葉を受け、婆ちゃんに海を見せるため、海の男に
なることを誓う。そして数年後、タンカー・時光丸(ときみつまる)の新人船員となった領市
        (時光丸 全長331.5m 幅54.8m 載貨重量25万9千7百62トン 四日市湾に停泊中)
「七つの海を!世界の海を!ばあちゃぁん。見せてやるからね」(P.13)

 そして、石油を輸入するためペルシア湾へと旅立つ時光丸
しかしその船の内部では、甲板部機関部の船員たちが、お互いにいがみ合う関係となっていた。
そんな不仲を解消するため、船長が提案した唯一無二のルール、それが甲板野球!!
すなわち、航海中に甲板で野球をし、負けたチームは勝ったチームに絶対服従!
「負けた方は船上での優先権を失う。娯楽室も風呂もメシも、すべて勝った方が優先する」
甲板機関のケンカだ!」(P.80) それが甲板野球なのだ!!
領市は、甲板部の投手として機関部の猛者たちに戦いを挑むのだ!!

 海の男の漫画なんだか野球漫画なんだか、よく分からん作品です。
しかも、この甲板野球。作中の表現を借りれば
「我々の甲板野球はこのインドの沖でやると決まっている。ここは海の墓場と呼ばれるぐらい
 強風が吹き荒れるところだ。巨大タンカー・
時光丸が大きくきしむほどだ。
 
風速20〜30はザラ。時に40メートル、それ以上にもだ
(P.76)

何と凄まじい野球だろう!! 
 ちなみに、風の強さの目安はこちらこちら

☆風速20〜30m(暴風)
……立っていられない。屋外での行動は危険。樹木が根こそぎ倒れはじめる。

それが、甲板野球の最低条件なのだ!! もっと凄いことには、
☆風速40m、それ以上(猛烈な風)
……屋根が飛ばされたり、木造住宅の全壊が始まる。
列車も倒れる。

そんな環境でも続けられるのだ。繰り返す。何と凄まじい野球だろう!!
時光丸の幅は、せいぜい50m強。そんな中で屈強な海の男たちによって行われる甲板野球
正に、男の中の男のスポーツ!! 
多分、一試合につき何人か、死者が出ているに違いない。


 そんな過酷極まりない状況で野球をするのだ。通常のボールではお話にならない。
硬式ボールは飛びすぎる。軟式ボールソフトボールは甲板に跳ねすぎる」(P.76)
よって、鉄球の芯に強力のりで牛革をかぶせた特殊ボールで行われるのだ。
 ボールの重量に加えて、風速20m以上の風に遮られ、ボールはキャッチャーまで届かない。
甲板部の猛者たちの肩は、相次ぐ甲板野球での無茶が崇り、もはやズタズタに潰れているのだ。
球のスピードでは誰にも負けないと豪語する領市でも無理だった。ただ一人を除いては………

それが機関部投手の、こりゃまた海の男らしくない…てゆーか怪しさ極めつけの人物
こいつ(爆)
ヤツの名は
「風の鬼丸」
(伊賀の影丸? がっぷ力丸?)

ちなみに、腕に留まってるのは
彼のペットのカラス(名前不明)。

彼が機関部に配属されてから、
甲板部はもはや甲板野球で一勝も
できなくなってしまったのだ!

何もかもが機関部の思いのままになり、
フラストレーションがたまる甲板部の面々。
 そんな中、船はマラッカ海峡を抜けつつあったが、突如飛び込んできた大ニュース
「船長、大変なことが起こりました。イラクがクウェートに侵攻しました!」(P.144)
つまり、湾岸戦争の発端となる事件が連載中に、リアルタイムで進行していたわけですな。
青柳先生、かなり挑戦者(チャレンジャー)です。このような現実問題とストーリーを同時進行させるような
漫画で、成功した例などないのですが(例 『四角いジャングル(梶原一騎&中城健))。

 話を戻します。
「アメリカも太平洋艦隊をペルシャ湾に集結させています」 
「全面戦争か?」
「そうなればペルシャ湾は火の海だぞ」 
「我々は、そのペルシャ湾に向かっているのだぞ」

 騒然とする船内。「落ちつけ!」と船長が制するも船内落ち着かず。

 そこに突如、蝶の大群が現れる。いぶかしむ船員たち。
 更に今度はにわかに空が掻き曇り、時光丸の甲板上に猛烈な火山灰が降り注ぐ。

船長 「このあたりは火山地帯だ。の移動やあの火山灰から見て、
     かなりの爆発が繰り返されてるみたいだな」


その夜、時光丸決死の覚悟で乗り込んできた者たちがいた!
それが彼ら→

え〜っと………
踊っておりますが(笑)


博学な船長曰く、
「彼らの化粧は死に化粧だ」
「民族のために死を覚悟した
誇りある
戦闘戦士だ」

…ということらしいので、お間違えなきように。

どんなにマヌケに見えても、彼らは
誇り高き戦闘戦士ですので。


…で、彼らが死に化粧までして時光丸
乗り込んだその訳は、
「この船が欲しい」
らしいのです。
いや、乗っ取りではないですよ。彼らは誇り高き戦闘戦士↑ですから。
つまり、彼らの島が火山の爆発の猛威に曝されているので、この船で助けてたいということらしいです。
どうして踊らにゃならんのだとは思いますが、まぁ彼らは誇り高き…以下略。

 彼ら誇り高(略)の決死の思い海の男たちのが応える。
火山弾津波にも負けず、彼ら部族の子供、年寄り、女たちを次々と救出し、
時光丸に収容していく海の男たち。危機一髪で彼らの部族は救われた。

その夜、彼らは感謝の標(しるし)を体で表現するのだった

     ↓↓↓↓↓
 
              ・
              ・
              ・
              ・
              ・

って、やっぱり踊るんかい!!(笑)




 そして、問題は当初の話へ。ペルシャ湾に行くべきか否か
「アメリカ、ペルシャ湾を海上封鎖。停止しなければ武力行使。サウジへ米軍派遣。
 空挺部隊4千、空母・インディペンデンス、アイゼンハワー、サラトガ」
「イラク、機雷敷設。外国人人質、化学兵器使用準備」
(P.188)

 船員たちも喧々囂々、侃々諤々
「しかしフセインはたいした奴やのう」
「なんだぁと?」
「考えてみろ。アメリカ・ソ連にいいなりの今の世界情勢で、
全世界相手にくるならやるぞ、なんて構える国が!
男が!いるかよ」
          ↑あぁ、このセリフを今のフセインに聞かせてやりたいものだ(笑)
「何を言っているんだ。フセインは侵略者だぞ」
「そんな事はアメリカもソ連もずっとやってきたことだ。いまさら正義ぶるこたぁない
 いつもいつも大国の思い通りに世界は動かんぞとフセイン民族の誇りをかけて立ち上がったんだ」

  ↑これも聞かせてやりたいな(笑)。 現実には、クウェート侵攻は別に民族の誇りとかあまり関係ないのだが。
「小理屈ぬかすな!世界は平和を目指しているんだ。あいつは悪党だ」
「今の平和は、大国がうまい汁を吸うため、いいように動かしてる平和だ」

 議論は白熱して止まず。しかし、船長はそのままペルシャ湾に行くことを宣言する。
船長 「本船は当初の予定通りペルシャ湾バーレーンを目指す」(P.190)
 当然のことながら、船員からは非難轟々。またも議論は白熱し、止まる気配も見えない。


……と、ここでいきなり領市が割って入り
「船長、甲板野球をやりましょう!」

          ……って、なんでやねん!!(爆)

「バカ!何が野球だ。今、俺達の生き死にがかかっている時だぞ」
   ごく、まっとうな反論。 しかし領市くん怯まず

「だからこそ野球です」

    ……もはや、反論にすらなっちゃいねぇ(笑)



 何故か船長、この提案を受け入れ、甲板野球を始めることに。
守備につく甲板部の面々。しかし、肝心の言いだしっぺ、ピッチャーの領市の姿がない。
            ・
            ・
            ・

            ・
            ・

いぶかしむ甲板部と、野次る機関部。そこへ領市くん、颯爽と登場!!

 ↓↓↓こちら(
爆!)
  な、なんてシュールな(笑)
領市 連中に借りました。 へへ」

笑っちゃいけません。
←この格好には科学的根拠があるのですよ(笑)
つまり、鬼丸のあの格好は、
の動きを理解するための作戦だったのだ。

領市 「どんな強い風だって、そのが吹きっぱなしと
     いうことはありません。鬼丸さんは、その長い髪
     カラスの動き風の強弱をよんでいたのです」
     「僕も今から全精力を傾けてを読みます」


そして、領市の投げた球は、見事キャッチャーまで届く。
ここに、真の甲板野球がスタート!!

甲板野球の最中、領市は叫び続けるのだった。
「日本は石油に頼った国です。その現実はどうしようもありません。石油がなければ、
 庶民の生活はパニックです。冬、北の人達は灯油がなければどうなるでしょう」
「僕らが命がけで運ぶ石油は、
特定の人間を!会社を!
 儲けさせるためのものであってなるものですか

「僕は、僕らの命がけで運ぶ石油は、日本の庶民の
命の明かりだと思っています」
「それが僕らタンカーの、鋼の男の誇りだあ――っ!!」





 おお、良いことを言うなぁ。あんな格好でなければ、もっと説得力あったと思うが。

もはや、海の男にも鋼の男にも見えやしないぞ(笑)

このレビューに感想でも書いてやろうという奇特(ヒマ)な方は、バカへの一言にお願いします。
トンデモねぇコーナーだ!怪しからん!文句言ってやる!という方はこちらへ。