バカ漫画 其之参拾四
「怪艇ポセイドン」
〔創美社・JUMP
SUPER COMICS〕
@1978年12月30日発行 A1979年2月28日発行
枡谷タケシ
ン十年ぶりに、東京に行ってまいりました。
マイミクさんとオフ会も理由の一つですが、メインの用事はトンデモ本大賞2007
参加してまいりました。そして、死ぬほど笑わせて頂きました。
トンデモ本大賞エントリー5作品のうち、最も破壊力があり、おそらく大賞間違いなしと思わしめた作品。
実際、ブッちぎりで大賞を獲得したんですが、それがこのトンデモ本、『人類の黙示録〔文芸社〕』
 (ちなみに版元は自費出版社。別件で会場に来てた社員曰く「残念。この本、会場に持ってきてれば売れたのに」とのことw)

サブタイトル・「2012〜2030年世界最終戦争のすべて」 が示す通り、未来を予測している本です。
その大爆笑な内容については、「トンデモ本の世界V」参照のこと。次の年鑑にも載るでしょう。
が、ま、ちょっとだけ→第16回日本トンデモ本大賞山本弘のSF秘密基地より)。
  壮大な架空の歴史を構築した努力、著者自ら描いた「司令官M2」「反キリストO」
  「米軍総司令官H」などの予想図のインパクトが、人気を集めた理由ではないかと思われます。
で、このトンデモ本の作者の枡谷猛先生。様々な職を転々とされてたらしいのですが、
著者自ら描いた という解説からも分かるように、この先生、漫画家だった時期もございます。
いや、この方の名前を聞いた時に、どこかで見たことがある名前だとは思ってたんですよ。
ちなみに最初に思い浮かんだ作品は、『四丁目の怪人くん』(集英社JSC)でした。

しかし、『四丁目の怪人くん』はあくまでギャグ漫画でありますから、イッちゃってる解説なども
どうにか不条理ギャグとして見ることはできましょうが、この漫画はリアル路線(ハードSF???)。
以下の設定や科学解説やストーリーなどは、かなりの部分マジだと思われます。



さて、本題に入りましてバカ漫画レビュー第34弾に参ります。
このバカ漫画のタイトルは「怪艇ポセイドン」
その名の通り、色々な意味で怪しい作品です。



其の壱  乗組員が怪しい

まずは、1巻の表紙をご覧下さい。これが怪艇ポセイドンと、その乗組員たち。

←右の少年が主人公(らしい)です。
名前は、石田入鹿(通称・イルカ)くん。

←その左の分かり易い人が艦長です。隻腕です。
その名も、赤間天雷。怪艇作った怪しい人。
  「そだちも死に場所も この太平洋だ。
   トシなどはわすれた……」
  (P.57)
台詞まで妙に怪しいです。
結局、最後までこの人の過去も経歴も謎のまま。

←その更に左の、見るからに脇役な二人は、
ハチマキが
荒本さんで、角刈り三角頭が村田さん。
何故か、物理学軍事関連に詳しい漁民さんたち。

更に更に、表紙には載ってませんが、「旧制中学から漁師一筋」 の
土方さん、て人も居ますが、ほとんど本編では無視されてます。

赤間天雷さんを除く方々は、元々は小型漁船・東明丸の乗組員。
激しい時化(シケ)で、沈没寸前のところを怪艇ポセイドンに救助されるのですが、その際、

赤間天雷 「わしがこなければ、おまえたちはこの海で死ぬ運命にあったのだ。
       一度死んだつもりで、このポセイドン号の乗務員になれ!
  (中略)
      
ここで死ぬか…それともわしの手助けをするか
 (P.19)

……無茶苦茶です。 しかし、背に腹は変えられないと、ポセイドン号に乗り移る4人。
沈没寸前だった東明丸は、乗り込んだ荒本村田さんが勝手にポセイドン号を操縦した結果
大暴走を引き起こし、艦首を横っ腹にぶつけられて真っ二つ。哀れ、海の藻屑と化すことに。

土方さん  「先代からの船だったのに…。わ…わし、これからどうしたら…」
赤間天雷 「海神ポセイドンがしめされたのだ。今までのことは、すべて忘れろ、とな」
イルカくん ポセイドン号、一隻撃沈!! 初陣だね!」

……ホント無茶苦茶です。なんじゃこいつら?



其の弐  艇そのものが怪しい

続けて、2巻表紙をご覧下さい。ポセイドン号の甲板には、こういうの↓が装備されてます。
なんというか、すげえセンスのデザインです。

更に驚くべきことに、これは砲は砲でも
 レーザー砲 なのです。

対空レーダー&海上レーダーを砲台に直結した
レーダーレーザー砲 なんだそうで。
          (ちなみに『四丁目の怪人くん』にも同じ構造の発明品が…)


右図の如く、石田入鹿少年が砲術係です。
最初は間違えて、近寄っただけの海上保安庁の
巡視艇のアンテナマストをぶち抜いたりしてました。
  「だって、いじってるうちに…つい…ははは…わりいわりい」
  「ちえっ。ちょっと手がすべっただけなのに。
   なにも、しろうとに撃たせることないじゃんか…」
しかし、その後はこのすげえデザインのレーダーレーザー砲、大活躍します。
海上保安庁の巡視艇の放ったアスロックを撃ち落し、体長8mもあるカジキマグロを射殺し、
国籍不明の戦闘機を撃墜し、極めつけには、テロリスト(?)の画策により、アメリカから東京に向けて
発射された核ミサイルまでも見事に迎撃。この辺、なかなか臨場感あって燃えます。素晴らしい。
   (海上保安庁の巡視艇に、どうしてアスロックなんぞが装備されているのかなど、深く考えてはいけない)

しかし、このポセイドン号の機能で最も怪しいのは、最高時速170kmまで達するその動力。
かのドラゴン・トライアングルの中心部(?)において、満月の夜だけ発生する巨大な大渦から
  (『トンデモ本の世界U』
参照のこと)       この動力のため逃れること可能だったわけですが、
冒頭の遭難寸前の東明丸前で長々と(w)、赤間天雷の口からその驚愕の事実が明らかにされます。

赤間天雷 「プロペラは、わたしの発明した反重力エンジンで作動する。 (中略)
        エンジンの燃料は、地球上ならどこにでもある
磁力をつかうため……
        
エンジンは半永久的に動いて船を動かすのだ。 磁力は電力を生み
        各室の照明から機関室の計器類にいたるまで、すべての電源になる」
 (P.18)
           ・
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           ・
  なんと素晴らしい!!
反重力エンジンで動く魚雷艇!!


しかし、「たとえどんな高性能をもった船でも、船板一枚下は地獄だということを忘れるな!」 (P.82)
…とか言うくらいなら、最初から反重力で空を飛んだらいいんじゃないかと思ってしまうんですが。

発言中の「地球上ならどこにでもある磁力…ってのは、おそらく地磁気のことでありましょう。
   「ポセイドンは磁気力で作動している。あのレーザー砲磁気力で動いている……
    
磁気力について、人類はまだ、無知にひとしいのだ
  (P.94)
つまり、地磁気を膨大な電力に変換する装置!!
          (ちなみに、作中では「九千V・A(ボルト・アンペア)以上の発電機」 との表記あり)
   そしてそれを利用した、永久機関!!
          (おそらく、これの元ネタになってるのは、こちらだと思われます)


どれを取っても、ノーベル賞は確実な大発明!!
地球上のエネルギー問題を一挙に解決し、
宇宙開発まで視野に入れるのも可能となります。
そんな偉大な発明家でもある艦長・赤間天雷氏。
しかし…




其の参  艦長その人が怪しい

これだけの大発明を、彼・赤間天雷氏がどう活用するかといえば、
艇の威力を海上保安庁の巡視艇に見せつけ、「このポセイドンを海上保安庁に雇わせる」  (P.41、P54)
そして、「海におこるすべての事件は、このポセイドンが解決する。この青い大洋があるかぎりな!」 (P.73)

……………
小さいです。なんか小さいです。使い道、もうちょっと深く考えた方が良いと思います。ああ、勿体無い勿体無い。


てゆーか、最初から海上保安庁に所属する必要があったのか、本人にその気があったのか疑問です。
海上保安庁に所属前から、あっちゃこっちゃで領海侵犯やってますし。アメリカにそれ咎められると、

赤間天雷 「ポセイドンの領海は七つの海だ…アメリカこそ、わが領海を侵犯していることになるな」

…と、どこぞの沈黙の艦隊が言いそうなことを(笑) あ、勿論こちらが先口です(独立宣言はしてないですが)
なんか、責任だけを日本に押し付けて、自分らは好き勝手やってるだけのような気が…。
とにかく、この赤間天雷艦長の奇想天外・支離滅裂な言動が、この作品の中で最も怪しいのです。

その極めつけはラスト。100年も続く内乱に喘ぐKからの難民受け入れを、出入国管理会(←ママ)
盾に、頑なに拒み続ける海上保安庁長官に対しての赤間天雷氏の言。てゆーか、これ完全に脅迫

赤間天雷 「わしは総理大臣と話がしたい。
        
いやなら、ポセイドンは日本国の敵になるぞ! かまわんのか?
        
レーザー砲は戦略上、核ミサイルなど足もとにもおよばん威力がある……
        わからんなら、いますぐ保安庁との契約はきって、
領海を侵犯してやる!
        
緊急発進でとびだす哨戒機やミサイル、護衛艦を破壊して……
        ついでに房総沖から
東京タワーをまっ二つにしてやってもいいんだぞ!」

                 (中略  首相官邸とのホットライン)

総理大臣 「なにっ!? 東京タワーをまっ二つにするだと!? キミ! なにをいいだすんだ。おちつきたまえ」

赤間天雷
 「大臣!! 自衛隊が戦闘機を一機買うのをやめれば、数億の予算がうくはず。その金で、
        この難民をうけいれる施設をおつくりなさい。つまらん戦闘機より、この難民を救うのだ。」

総理大臣 「たとえ政府が承知したところで……難民をうけいれる自治体が承知せん!!」

赤間天雷
 「では、東京都知事と交渉しろ」

総理大臣 「ことわる!!」

赤間天雷
 「一機、数億円のF4EJ戦闘機のほうが大切か! そんなチャチなものは、
        
千歳上空で全機、このポセイドンのレーザーで破壊してやるぞ!
        
ついでに、自衛隊の護衛艦も五、六隻、沈めてやろうか!    (AP.67〜68)
赤間天雷さん、いいことを言っておるのですが、手段はハッキリ言って無茶苦茶です。
しかも一つ前の話で、この人、安易な核開発・核競争への警鐘を鳴らしてるんですが……。
武力を背景に、相手から強引に譲歩を引き出すのって、その某大国と変わらないんじゃないかと。


……かくして、赤間天雷脅迫要請は承諾され、Kの難民受け入れの確約を取り付ける。
大喜びの難民たちに向かって、主人公の石田入鹿少年は難民たちに呼びかけるのだった。

イルカくん 「政府が約束をたがえたら、いつでもポセイドンを呼び出すんだよ!
       レーザー砲でやっつけてやるからな――っ!」
   (AP.70)

                              めでたしめでたし。「怪艇ポセイドン」おわり






最後に、このレビュー書いてて最も感じたこと。

其の四  枡谷タケシ先生が最も怪しい






【注】   ちと惜しむらくはこの作品、科学やら軍事やらの細かい(そして怪しい)記述がかなり見受けられ、
      理系の人、もしくは軍事マニアから見れば、もっと大量の、しかも的を得たツッコミができただろうこと。

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