その69
某日
冷たい回廊を歩む者一人。
静かなこの地下墓地に、足音だけが響く・・・
と、足音はそこで止まる。
男の名はArkeye。

その男は、誰もいるはずの無い墓地の中に人の気配を感じて振りかえる。
人はいない。
その代わりに声が、どこからともなく響いてきた。
「情けない顔をしておるの。Arkeye」
やっと聞こえてきた足音。どうやら上から降りてくるらしい。
この声、そして足音でArkeyeは気配の正体を知る。
「・・・『語り継ぐ者』か。何の用だ」

階段からその老人が現れるのを待って言ったArkeyeの言葉。
その言葉に老人はうっすらと笑みを浮かべる。
紫のローブにマント。先端が湾曲に曲がった杖を持った老人は、
やはり紫の帽子を被り直して続けた。
「えらく腕が落ちたようじゃの」
「放っておけ」
即答する。右腕に拳を作りながら。
「ふぅむ・・・お主、いつから己の為に剣を振るようになった?」
「俺が?」
「お前の事ならよく解っておるわい」
老人は先ほどと同じ・・・いや、さらに深い笑みをこぼす。
その笑みはArkeyeの神経を逆なでするのに充分な効果を及した。
「昔、お主が剣を極めようと誓ったその時。
はたしてその剣は何の為に振られていたか。考えてみるが良い」
一瞬の沈黙。
「・・・今は違うと言うのか」
「Arkeyeよ。お主は言ったな。戦士にとって最も大切な物は何かと」
「戦う理由」
「今のお主の戦う理由。それはただ盲目に強さを誇示しようとしているだけじゃ。
人の為に振る剣を持つのでは無かったのか
理由無き剣でを振って得た力など、お主の強さでは無い」
Arkeyeの殺気が止まる。
老人は彼の次の言葉を待つかのように、静かに佇んでいる。
しばらくの間。
そしてArkeyeの口が開く。
「・・・俺は、ただ人を倒すだけの為に剣を振っていた。
自分が強いと言う事で他の人間を導こうとしていた。
そんな生き様をするはずだったのか?俺は。
なら、もういい。俺の右腕はもう、さびついたままなのだから・・・」
「お主のその錆付いた右腕は、盲目の強さに蝕まれた右腕。
人を己の力で導こうという傲慢から生れた右腕。
しかし見よ。その手に持つ剣はまだ輝いているではないか。
これからは己の理由を掛けたを剣振るが良い。そのさびついた右腕でな」
「人の為に振る剣を・・・」
「それこそがお主の強さ。そして生きる理由。
お主の生き様は、その理由があってこそ魅せるものじゃて。
人の為に剣を振る以上、お主は最強である必要は無い」
老人は紫のローブをひるがえし、ゆっくりと元来た階段へ向い歩き出す。
Arkeyeはその背中に呼びかける。
「『語り継ぐ者』よ。俺はまだ・・・まだ戦えるのか?」
「お主の生き様を私は見守るのみですじゃ」
老人はそう言い残して消えた。
Arkeyeが地上に戻ったのは数時間後。
ひどく久し振りに日の光を目に入れるような気がする。