○売り一色の不動産市場
平成2年のバブル崩壊以後、不動産投資に対しては基本的に融資しないと言う方針が打ち出されて久しい。
さて、不思議な事もあるもんだ。今まで融資に関しては担保主義が取られていた。
担保は何かと言えば不動産である。いろいろと取りざたされてはいるものの、その姿勢は未だに変わっていない。
今や日本中で毎日どこかで倒産騒ぎがあり、その度に担保物件である不動産が売りに出されるけど、
この不動産投資に対しては融資しないと言う基本姿勢は変わっていない。
となると、いったい、誰が債券処理の為に売りに出された不動産を購入するんだろ。。。
理想を言えば、現金または現金ででも買える人(法人)に買って貰えれば良い訳だが、
今や生命保険会社でさえ、不動産は売却したいと考えている。
○不動産所有の善悪
さて、このような状態になると不動産価格は下落する一方である。もはや、とどまる所を知らないと言っても過言では無い。
だって、考えても見てください。仮に土地代がこのまま下落するとすれば、あるいは下落しないまでも上昇する事は無いとしたら、
遊休不動産を保有してると固定資産税、面積によっては土地保有税の対象になる。
あわせて不動産には管理が必要だ。土地も使わないでほっておくと草だらけになって、近所からクレームの嵐だ。
建物は言うに及ばずである。競売に出て何年も売れずにいるうちに、とうとう屋根が崩れ落ちてみじめな姿を晒してる物件がある。
○土地の保有形態
そのような事にならず、節税にもなって一石二鳥と持て囃された不動産の保有形態がかつてあった。
それこそが社員の福利厚生施設である。例えば、社宅や保養所等である。
もともとこれらは社員の福利厚生がメインで購入された訳では無い、
福利厚生施設として保有していれば管理費は経費に計上され、
そのうちに地価が上昇すれば固定資産税売却益を生む。
売却しなくてもそれらは含み資産として、会社の経営に有利に作用してしたのだ。
○バブル型土地保有形態の崩壊
しかし、前述したように地価が上昇しないとすればどうか、それらは含み益を生むどころか、含み損さえ発生させる。
しかも管理費は経費として保有している限り発生し続けるのだ。
したがって、生保を始めとした今まで不動産を好んで保有していた法人が一斉にその保有資産を売却し始めたのだ。
○矛盾
このように不動産の売り手はいくらでもあるにも拘わらず、不動産投資には基本的に融資をしない訳だから、
買い手はキャッシュを不動産に変えるしかない。一体、誰が何の為にそういう事をするのだろうか。
○再利用と利回り
ここに社員用に建設した社宅があるとしよう。これらを改装して社員に限らず一般に賃貸する借家に転換したとする。
改装に要した費用と帳簿の簿価を分母に、賃貸収入と保有に関する経費を分子にした単純利回りが
年率で10%を超えたとするとどうだろう。
きょうび国債を買うより、株式に投資するより確実に利益をあげる事ができるのでは無いだろうか、
もしも、わたしが社長なら絶対にそういう利回り計算をしてから売却するかしないかを判定するし、
もしもわたしが銀行の頭取であったとすれば基本的に利回りが一定の基準を超える物件には融資をすべきだと考えるがどうだろう。
○横並び思想の弊害
しかし、銀行はそんな事は考えはしない。あくまで担保価値であり、しかもその価値が下落すると言う発想を変えようとしない。
本質は下落するもしないも銀行次第なのだが、そういう発想は、もともと持ち合わせてはいないのだ。
それよりもついにあの大手生保が福利施設を含めた不動産の売却に出たと言う情報に接すると、
うちも早く売却しなければと言う発想しか生まれてこない。
そしてようやく買い手を見つけても、そこへ融資したいとは思わないのだ。
殆どの銀行が優良融資先が見つからなくて四苦八苦しているにも拘わらずである。
まったくもってアンビリバボーとしか言い様が無い。
○お金を借りて返済する人が良い人なのでは?
もともと貸し金業と言うのは、お金を借りたい人間が、それを返済できるかどうかその能力を調査する事に
その基本があったのでは無いだろうか、それならば、利回りが一定基準を超えれば、
どう考えても返済できるとは思わないのだろうか。
現在の金利水準は元は0に等しい水準を保っている。貸し出し利息は3%ほどである。と言う事は、
利回り10%の不動産物件は、その不動産から今後10年間予想した収益があがるかどうかを判定すれば良い訳である。
そして10年後、その不動産の売却価値がどれくらいになっているかを予測すれば良い訳である。
もちろん精緻な予測は不能であるが、基本的には10年後に価値が7割ダウンの3割になっていたとしても、
利息分を含めて返済はできる筈なのである。はてさて、この最低の不動産不況の中で、売りに出された物件が、
更に10年後に7割以上も値をさげている事がありえるだろうか。。。
○賃貸金額も下落する
このように書き進んでいくと、賃貸金額も下落するでは、無いか。との声が聞こえてきそうである。
いや、実際に賃貸金額も必ず下落するとわたしは考えている。賃貸業も常に競争の中に居るのである。
現在の利回りが単純に10%だったからと言って何十年もその水準が保持できる訳では無い。
まったく、その通りである。ならば判定基準を切り上げよ。12%ではどうか、それでも駄目なら15%では、どうか。。
○下落に歯止めがかかる日
極論すれば何%でも良いのである。いろんな事態を想定して行けば良い。
しかし、そこに一定の基準があるのと、無いのでは大きく違う。銀行が担保主義から利回り主義に変わり、
不動産投資を利回りで判断するようになれば少なくとも下落に歯止めがかかるのである。
つまり底が見えるのである。そしてそれが今の日本経済にとって、一番必要な事では無いだろうかと思う。
○先に底を見せれば、そこまで下がる
仮に金融機関が、利回り15%以上なら保証人なしで購入予定物件だけを担保に融資しましょうと言う一定の
判断基準を示したとする。そうすると、そこまで下がらなくても良い物件まで、価格が下がるのでは無いかと
言う反論もありそうだ。確かに。。。また工場物件や個人住宅等利回り判定の困難な物件もあり、
わたしの言う所もそう単純で無い事は、承知である。
では、例えば地方銀行は、その地方の賃貸住宅の相場に関して何らかのデータをお持ちか?
工場物件や、店舗、事務所の家賃について何らかのデータをお持ちか?
わたしは今までに一度のそのような調査やデータに触れた事は無い。
○何もしないで居れば、そのうち良くなるのか
何度も申し上げるようだか、バブルに与えた金融機関の力は巨大であったと思う。
そして今、この不動産不況に与える力も絶大なのである。
不動産を現金で買う人など、限られているのだ。すべては金融機関にかかっていると言っても過言では無い。
担保主義から利回り主義へ、新たな融資基準を必要としているのは、金融機関だけでは無い。