第三章 「セリア・フォールス」

「た、助けてくださ〜〜〜〜い!!」
悲鳴が聞こえる。
旅に出るための買い出しを済ませ、町を出たばっかりのリオと ノヴィスは、謎の悲鳴を耳にした。
「な…何だ!?」
リオがそう言うと、ノヴィスも続けて喋る。
「気をつけろ……何か来るぞ……!」
危険を感知した二人は、自分の剣のつかの部分を手に取り、前 方の街道から来る『何か』に集中していた。
次の瞬間
「お……女の子ぉ!?」
前方から走ってくる少女に二人はビックリした。
少女は二人を 見つけると、さらに凄いスピードで走った。
そして、そのスピ ードを保ったまま、リオに抱きついた。

ガシッ!!!!!!!!

凄いスピードで抱きつかれたリオは少女もろとも吹き飛んだ。
「のわぁっ!!」
「お願いしますぅ〜〜!!助けてください〜〜〜!!」
ぎゅううっと抱きつきながら少女は言う。
「痛い痛い痛い!!わかったから離してくれぇぇぇ!!」
痛そうな顔をしながらリオは叫んだ。
「あ……す、すみません!!」
少女が立ちあがると、手をリオに差し伸べる。
リオはその手を つかんで立ちあがると、少女に問いかけた。
「一体どうしたんだい?」
「モンスターに追いかけられてたんです。助けてください〜〜 〜」
少女がそう言うと、近くの茂みからがさがさっと音がした。
「……来るぞ!!」
ノヴィスがそう言った瞬間、目の前にモンスターが現れた。
鋭 い牙、すばしっこそうな足、そして、狼に似た体型のモンスタ ーが二体。
「ハウンドドックか…」
ノヴィスはそう言いながら自分の剣を抜いた。
「危ないから、どこかに隠れてるんだ!」
「は…はい!」
少女はそう言いつつ、近くの木の裏に隠れた。
リオはそれを見 届けると、自分の剣を抜いた。
しかしリオは、大切な事を忘れ ていた。
自分の剣は上半分が折れていることを…
「あ゛あ゛あ゛!そういえば俺の剣折れてたんだっけ!別の剣 買ってくんの忘れた〜!!」
「バカ!今思い出してどうする!!!」
ノヴィスがすばやくツッコミを入れる。
「あぅぅぅ…どうしよう……」
「落ちつけ!『格闘術』があるだろ!」
言われてリオは思い出す。
「あ、そうだった。」
「たく……頼むよ、『格闘剣士見習い』殿!」
「わかったわかった。だからフォロー頼むよ、『魔法剣士見習 い』さん!!」
折れた剣をしまいながら、リオはハウンドドックに向かって走 っていった。
それと同時に、ノヴィスは魔法の詠唱を始める。
向かって来る者を始末しようと考えた一匹は、向かってくるリ オ目掛けて突進を仕掛けた。
しかしリオは、ハウンドドックの 突進をかわして敵の懐に入り、強烈な連続技を仕掛ける。

ビシィィィ!!

一発目がヒットする。
その瞬間、リオは下段蹴り、上段蹴り、 後ろ回し蹴りと攻撃を放っていく。
ハウンドドックはすべての 攻撃を受けることになった。

ズシャァァァァァァ!!

地面に叩き付けられたハウンドドックはしばらく痙攣し、動か なくなった。
「よっし!まずは一匹っと」
リオはそう言いつつ、もう一匹の方を見る。
すると、もう一匹 の方もリオ目掛けて突進してきた。
「リオ!!あいつを浮かせてくれ!!あとはオレが何とかする !」
魔法の詠唱中に、ノヴィスはリオに命令する。
「OK!!任せとけ!」
敵の攻撃を避けたリオは、すぐさま攻撃を仕掛けようとした。
「くらえ!『ランスアッパー』!!」
懐に入ったリオは体勢を低くし、右手の拳を敵に向かって勢い よく突き上げた。
それは、まるで槍で突き上げている様に見え た。
リオの攻撃は見事に命中し、敵は宙に浮く。
それを見過ごすノ ヴィスではなかった。
「風の精霊ストームよ……汝の力を我に示せ!!」
呪文の詠唱が終わり、ノヴィスは呪文を唱える。
「エアスラスト!!」
ノヴィスがそう言うと、彼の周りから四つの真空の刃が現れた 。
真空の刃は標的を定め、ハウンドドックを切り裂いてゆく。
そして、その役目を終えた真空の刃は、静かに消えていった。
切り裂かれたハウンドドックは、鳴き声を上げつつ地面に倒れ た。
「ふう」
自分の剣をしまい、ノヴィスはリオの方へ歩いていく。
「もう大丈夫だ。でておいで」
リオが言うと、少女は木の裏からおそるおそる歩いてきた。
年は十五・六歳ぐらいだろうか。
背中まである髪を赤いリボン で結んでいる。
そのしぐさは、誰が見ても『かわいい』と思う ような姿をしていた。
「あの…助けていただいてありがとうございます!」
少女はそう言って軽く一礼する。
「いやいや、困ってる人を助けるっていう当たり前のことをし ただけだよ。」
ノヴィスにナイフを借り、ハウンドドックの毛皮を取りつつリ オが言った。
「そういえば…名前、まだ言ってなかったよね。オレの名前は リオ・スウィール。そして、あっちの奴は…」
「ノヴィス・セレスティだ」
リオとノヴィスは共に自分の名前を教えた。
「リオさんと、ノヴィスさんですか。申し遅れました。私、セ リア・フォールスって言います!」
少女セリアはそう言った。
そしてセリアは続けて言葉を話す。
「あの、お二人に是非ともお礼がしたいんですけど…」
「お礼なんて別にいらないよ。それに、オレ達急いでるんだ」
「そんな事言わないで、ほら、もうすぐお昼時ですよ。一緒に お食事でも…」

ぐきゅるるるるる〜〜……

食事という言葉に、二人はつられてしまった。
しかも、腹の虫 まで鳴ってしまった。
「ほら、お腹の虫さんは正直ですよ♪」



「で、セリア……だっけ?」
「はい♪何でしょうか?」
リオは目の前の御馳走を食べながらセリアに質問した。
「さっきは何でモンスターに追いかけられてたんだい?」
「実は、私の住んでいる村では、16歳になったらこの大陸を 旅して、大陸について学んでくるという掟があったんです。一 昨日16歳になった私は、その掟にしたがって旅に出ました。 それで、村から一番近いスイデーン城下町に行く事にしたんで す。その途中でモンスターに襲われて……」
「鍛冶屋の主人が言ってた事は本当だったんだ…」
ノヴィスが口をはさむ。
「リオ、マズイぞ。早くクラソナ洞窟にいって『ノアストーン 』を取ってこなければ…」
突然、セリアがぴくんと動いた。
「ああ、そうだそうだ。のんびりしてる場合じゃなかったんだ 」
「え?クラソナ洞窟って……?」
セリアの頭上に大きなクエスチョンマークが浮かんだ。
「あ……ああ。そういえば説明してなかったな…」
リオとノヴィスは、これまでの事を少女に話した。
修行の途中 にリオの剣が折れてしまったこと、その剣を直すためには、『 クラソナ洞窟』などの場所から剣の材料を取ってこなければい けなくて、そのために旅をしている事。
「と言う訳で、オレ達はクラソナ洞窟から行こうとしたんだ。 」
「はぇ〜……そうだったんですか……」
セリアの頭上からクエスチョンマークが消えていった。
それと 同時に、大きな豆電球がピカッと光った。
「あの!私も連れていってくれませんか?」
二人は突然の発言にビックリした。
「ちょ、ちょっと待った!!いきなりそんなこと言われても… …」
慌ててノヴィスが喋る。
「お願いします!大陸のことを学ぶために行かなきゃいけない んです!」
「しかしだなぁ……」
「お願いします!!」
セリアは頭を下げた。
そんなセリアの一生懸命な姿を見て二人 は沈黙する。
〜彼女は女だ。
そんな危ないところに行かせていいのだろうか ?
そんな事が、二人の頭の中によぎった。
「お願いします!!私を連れて行ってください!!」
セリアは必死の思いで話す。
「なあ、リオ。どうする?」
「う〜ん…………」
リオは必死に考える。
「命が危なくなるかもしれないんだぞ。それでもいいのか?」
「そんな事は承知の上です」
「行くところは他にも一杯あるんだぞ?」
「大丈夫です。逆に勉強になります」
「野宿とかもやるんだぞ?」
「私、そう言うの大好きですから」
「そうか………」
リオはしばらく考えた。そして、ある一つの答えが見つかった 。
「ノヴィス。買い出しに行こう」
「はっ?」
「ほら、もう一人仲間が増えるんだし、食料も買い足しとかな きゃ。それに、俺の剣の代用品も買わなきゃいけないし、セリ アの武器も買わなきゃいけないだろ?」
「え……それじゃ……」
セリアは頭をゆっくりと上げた。
すると、セリアの視点にリオ の人差し指がビシィィィ!!っと突きつけられた。
「ただし!条件が一つ」
リオは条件を突き出した。
「実はオレ達、料理って苦手でさ。やってくれる人がいると助 かるんだけど……」
その言葉を聞いた瞬間、セリアは目が輝き出した。
「はい!頑張ります!こう見えても私、料理得意なんです!」
「よし♪」
リオは立ちあがって、セリアにこう言った。
「それじゃあ、今日からセリアはオレ達の仲間だ!意見はない な、ノヴィス。」
「オレがいつ意見を言ったんだよ。賛成に決まってるだろ。」
二人の言葉に、セリアはすごく感動した。
「あ……ありがとうございます!!」
「よし、それじゃあ早速買い出しに行こう」
ノヴィスが立ちあがった瞬間、リオはノヴィスにお願いをした 。
「ねえねえノヴィス〜。食料に『いちごミルク』も入れようよ 〜♪」
「阿呆が!そんなもん自分で買え!自分で!」
「あ、ひでぇ!『いちごミルク』をそんなもん呼ばわりしたな !!とっても美味しいんだぞ!!」
二人の言い争いを聞いて、セリアは笑ってしまった。
「ふふふっ♪」
「お〜い、セリア〜!はやくいくよ〜!!」
遠くからリオの声が聞こえる。
「は〜い!今行きま〜す!!」
セリアはそう言うと、急いで二人のあとを追って行った……