ちょっと アドバイス
労働安全衛生法を守っただけでは、安全配慮義務を完全に履行したことにはなりません。
労働者を雇用管理下に置き、その労働力を利用して企業活動を行っていることから、
使用者は労働者の労働内容や健康状態を把握し、
その過程で労働者の生命・健康が損なわれないよう安全を確保するための
措置を講ずる義務があります。
これを安全配慮義務(債務不履行責任)といい、労働基準法や労働安全衛生法、
民法などの規定はなく判例により確立されたものですが、
近年、労働契約法第5条という法律が施行され、
使用者は当然に労働者に安全配慮義務を負うことが規定されました。
※労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者、労働契約に伴い、労働者がその生命・身体等の安全を確保しつつ
労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
元請け事業者は、雇用契約関係のない下請け業者の被用者に対して安全配慮義務を
負うのかが問題になりますが、最高裁は三菱重工業事件判決において
安全配慮義務は必ずしも雇用関係の存在を前提としないとの判断を示し、
下請け業者の被用者に対しても安全配慮義務を負うことを明らかにしています。
これに伴い、事業主は安全配慮義務に違反した場合、
民事上の損害賠償責任を問われることがありますので、具体例を挙げますので、
参考にしてください。
▽従業員が安全衛生法の基づく社内の定期健康診断の受診を拒否した場合
企業は受信を拒否する従業員に対して懲戒処分を行うことが出来ます。
また従業員による健康障害が発見された場合に事業者に対する
安全配慮義務違反の基づく損害賠償を請求する際に、
過失相殺の対象となる可能性があります。
▽精神疾患で自宅療養していた社員から、長時間労働が原因であり、
事業主に責任があると訴訟提起された。
当該従業員の過重労働につき使用者に労務管理上の落ち度があり、それが原因の場合、
企業側に損害賠償責任を負う可能性があります。
これらの例から分かるように、
安全配慮義務という言葉の「安全」が指す範囲はとても広い概念で、
個々の労働者が各々の就業場所で業務に従事する過程で生ずる一切の個別的、
具体的な危険に対応しようとするものであるのに対し、
労働安全衛生法は行政取り締りのための
労働安全の最低基準を設定された画一的ものであるといえます。
たとえば設備機械を扱う企業の場合、
機械の設備点検といったイメージを超えて、労働条件の管理、健康管理、
配置転換など幅広い措置を講じる義務が課せられているのです。
何よりも企業のルールが不明瞭であることが大きな問題につながますので、
まずは最低期限の法令を守ることから始め、
就業規則の整備、女児に各制度の導入、教育、
安全配慮義務違反とならないための対応を広げていくのが良いでしょう。