口腔癌の進展度 |
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悪性腫瘍は無秩序に広がりながら、周囲組織に進展・浸潤する。
そのためその広がり方が、予後や治療方針に大きく影響する。
そこでその進行度示す指標としてTNM分類が用いられる。
原発腫瘍の拡がりをTの序列コードで、所属リンパ節転移の有無と拡がりをNの序列コードで、さらに
遠隔転移の有無をMの1又は0で記述し、それによって病期分類が為される。
さらに癌の進行度・進展度に応じて、各種の呼称がある。
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粘膜の構造 |
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口腔粘膜は、粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜下組織の三層から構成されている。
これらの上皮組織中には血管は含まれず、口腔粘膜が赤く見えるのは粘膜固有層の血管が透けて見えるためである。
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粘膜の構造 |

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粘膜上皮 |


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進行度・進展度による呼称 |
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異型上皮 |
反応性異型上皮(Reactive atypical epithelium)
炎症や再生時に上皮細胞が異型像を伴うことがある。
上皮組織としてもdysplasia に類似した組織像を示すが,可逆的な変化である。
細胞異型とは
正常では見られない細胞の形態変化で、腫瘍ほどではないが細胞質や核に異型を伴った細胞が形成され、
その結果組織は正常よりも未熟な像を呈する。
前がん病変あるいは良悪性の境界病変の状態で、 通常上皮組織や造血組織に生じる 。
細胞異型の特徴
細胞形の不整 核分裂像の増加 核の増大(N/C比の増大) クロマチンの増量 核形の不整 核縁の肥厚
集塊上出現 相互封入像対細胞

細胞異型の特徴
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前癌状態 |
前癌状態とは
病理学上からは,癌であるかないかの二者択一で,中間状態は存在しないから,明確な定義はない。
しかし臨床的には,放置すると癌ができる確率が高いと考えられるとき,その先行する病的状態を前癌状態という。
前癌状態
口腔扁平苔癬 鉄欠乏性貧血 口腔粘膜下線維症 梅毒 エリテマトーデス
色素性乾皮症 表皮水疱症表皮水疱症
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前癌病変(Precancerous lesions) |
前癌病変(Precancerous lesions)とは
形態学的に正常なものに比べ癌が発生しやすい状態に変化した組織。
WHO(Histological Typing of Cancer and Precancer of the Oral Mucosa
2nd Ed,1997)では,
以下の臨床的分類と組織学的分類に分けている。
臨床的分類
@白板症(Leukoplakia)
他のいかなる疾患としても特徴づけられない著明な白色の口腔粘膜病変。
均一型(Homogeneous)と非均一型(Non-homogenerous)に分けられる。
均一型 :平面型(flat),波状型(corrugated),ヒダ型(wrinkled),軽石様型(pumice-like)
非均一型 :疣型(verrucous),小結節型(nodular),潰瘍型(ulcerated),紅白板症(erythroleukoplakia)
A紅板症(Erythroplakia)
臨床的にも病理組織学的にも他のいかなる疾患としても特徴づけられない鮮紅色の斑状病変。
表面は平滑であったり顆粒状や小結節状を示し,正常粘膜との境界は明瞭である場合が多い。
組織学的分類
@扁平上皮性異形成(Squamous epithelial dysplasia, dysplasia)
上皮内癌ほどではない細胞異型,および正常な上皮の成熟と層状配列の消失を特徴とする
重層扁平上皮の前癌病変。
A扁平上皮内癌(Squamous cell carcinoma in-situ, CIS)
上皮の全層またはほぼ全層にわたって癌の細胞的特徴をもつが、間質への浸潤を伴わない前浸潤期の癌。
上皮内にとどまり基底膜を越える浸潤が認められない状態。
WHO 分類では,この組織像のみをTis 癌としている。
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扁平上皮内腫瘍(Squamous intraepithelial neoplasia, SIN) |
舌粘膜扁平上皮癌の浸潤前期上皮内病変には、WHO 分類において定義される上述のCIS 以外の組織像を
示すものがあるとの認識に立ち,これら全てを含んだTis 癌の疾患概念。
高度の異形成像を呈する浸潤前の腫瘍性病変で,組織亜型により進展期間は異なるが,多くは5年以内に
浸潤癌へ進展する。
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Tis癌(Tis carcinoma) |
UICC分類における上皮内癌のに相当する。
消化管癌における深達度分類の粘膜内癌(M 癌)に一致する。
本来はCarcinoma in-situ(CIS)とも同義であるが,口腔癌においては,WHO 分類により発現頻度の低い特殊な
組織像のもののみをCIS と規定しているために用語の混乱がある。
本指針では,Tis 癌の用語を上皮内癌の意味で用い,CIS はWHO 分類の規定する組織像のみに限定して用いている。
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早期癌(Early cancer) |
舌癌では,病変の大きさが比較的小さく(T1,T2),かつ所属リンパ節転移がなく(N0),粘膜下層にとどまる
深達度SM までの癌を早期癌としている。
T1,2 N0 M0
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初期癌(Early stage cancer) |
初期癌の定義は非常に曖昧であるが,本指針ではT1,2 癌と規定し、N 因子及び深達度は問わないものとした。
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表在癌(Superficial carcinoma) |
T1-2 癌における一臨床型。消化管癌の肉眼型分類における0 型に相当する。
本指針においては,舌癌の表在癌は,深達度MP1 まで,深さ0.5cm 以下と暫定的に規定した。
将来的に,リンパ節転移との相関データを基に厳密に決める必要がある。
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進行癌(Advanced cancer) |
早期癌よりも進行した癌を進行癌とする。
進行癌を中期癌と晩期癌(治療により治癒の見込みのない癌)に分け,さらに晩期のうち、
死の迫っている癌を末期癌とする。
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深達度(Depth) |
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舌癌の浸潤の深さを舌の組織構造により表すもので,一般に用いられている消化管癌の用語と同様である。
M(粘膜上皮内) SM(粘膜下層浸潤) MP(固有筋層浸潤)。
ただし,WG では舌癌においてリンパ節転移が起こる境界を固有筋層へ浅く浸潤した深さとの認識に立ち,
MP1(固有筋層に浅く浸潤),MP2(固有筋層に深く浸潤)に細分類した。
詳細は,臨床所見及び病理所見の深達度の項を参照されたい。
なお,UICC の用語法と同様に,臨床所見は大文字で病理所見は小文字で記載することとする。

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参考資料 |
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舌癌取扱い指針 ワーキング・グループ案(第1版)
口腔腫瘍 17 巻1 号 P13 〜 85 2005 日本口腔腫瘍学会学術委員会
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