摂食嚥下障害に関与するようになった1998年3月から、その後の約2年半の経過について、歯科開業医の見地から検査・評価・治療の概要と、現状の問題点、今後の展望等について簡単にまとめてみました。
図表とあわせてご覧下さい。
目 的
今日の高齢者人口の増加は著しく、同時に歯科医が行う訪問診療の機会も増加する傾向が予測されます。
訪問診療を行うにあたっては、その対象者は何らかの疾患によって通院が困難になった、いわゆる「有病者」であると認識しておかなければなりません。
その原因疾患としては、脳血管障害、脳変性疾患、神経・筋疾患など各種の病名が挙げられますが、同時に嚥下機能の低下を併発する疾患が少なくないことも念頭に置くべきではないでしょうか。
従ってわれわれ歯科医が行う訪問診療の対象者は、全身管理と摂食嚥下機能の評価が必要な患者さんとして対処しなければならないと考えられます (図表1) 。
そこで、摂食嚥下障害の有無、症度、問題点の解明等を目的とし(図表2) 、かつ特殊な診査器機を必要とせず、ベッドサイドで簡易的に行える診査法を模索して実施を試みました。
以下にその概要を示します。
図表2:目的
摂食嚥下障害の簡易的な診査・評価方法の模索
特殊な診査器機を必要としない
往診先のベッドサイドで簡易的に実施可能
摂食嚥下障害の有無・症度および問題点の解明
チームアプローチの円滑化、治療の効率化
主たる診療内容 | 男性 | 女性 | 計 |
義歯 | 23 | 71 | 94 |
摂食嚥下障害 | 23 | 24 | 47 |
歯周疾患 | 8 | 15 | 23 |
う蝕症 | 3 | 6 | 9 |
外傷 | 3 | 0 | 3 |
炎症 | 3 | 2 | 5 |
悪性腫瘍 | 1 | 1 | 2 |
粘膜疾患 | 3 | 2 | 5 |
顎関節疾患 | 0 | 3 | 3 |
口腔内出血 | 0 | 2 | 2 |
合計 | 67 | 126 | 193 |
基礎疾患 | 症例数 | 嚥下障害保有者 | (%) |
脳血管障害 | 73 | 35 | 47.9 |
脳変性疾患 | 11 | 3 | 27.3 |
認知症 | 6 | 4 | 66.7 |
神経疾患 | 1 | 1 | 100.0 |
骨格系疾患 | 33 | 1 | 3.0 |
悪性腫瘍 | 23 | 0 | 0.0 |
循環器疾患 | 12 | 1 | 8.3 |
呼吸器疾患 | 5 | 0 | 0.0 |
消化器疾患 | 2 | 0 | 0.0 |
腎疾患 | 9 | 1 | 11.1 |
代謝性疾患 | 5 | 0 | 0.0 |
血液疾患 | 5 | 0 | 0.0 |
その他 | 8 | 1 | 12.5 |
合計 | 193 | 47 | 24.4 |
Group A | 明らかな摂食嚥下障害を有し、通常の経口摂取が不可能な患者(14例) |
Group B | 過去に摂食嚥下障害の既往(2週間以上)はあるが現在は経口摂取をしている患者(14例) |
Group C | 何らかの全身疾患を有し、病院・施設あるいは居宅療養をしているが、通常に経口摂取している患者(15例) |
氏名 | 生年 M T S 年 月 日 歳 | |
初診 年 月 日 | 性別 | |
現病歴 | ||
既往歴 | ||
内服薬 | ||
身 体 障 害 |
視力障害 : 有 無 | |
聴力障害 : 有 無 | ||
言語障害 : 有 無 | ||
運動障害 : 有 無 | ||
ADL | 移 動 : 自立、一部介助、全介助 / 独歩、杖、歩行器、車椅子 | |
食 事 : 経口(自立、一部介助、全介助) / 普通、粥、刻み、ミキサー、その他 | ||
排 泄 : 自立、一部介助、全介助 / トイレ、ポータブル、尿器、おむつ | ||
更 衣 : 自立、一部介助、全介助 / | ||
入 浴 : 自立、一部介助、全介助 / 一般浴、特殊浴、シャワー、清拭 | ||
痴呆 | 痴呆の程度 : 有 無 (軽度、中程度、高度、非常に高度) | |
具体的症状 : |
A | B | ||
食事全般について 1.食事が出来ない 2.拒食がある 3.食欲が低下している 4.通常に可能 |
5 |
2 2 0 |
|
食 事 ・ 咀 嚼 に つ い て |
食事時間の延長 1.摂食不可能 2.食べるのが遅くなった 3.変化なし |
5 |
2 0 |
食事内容の変化 1.摂食不可能 2.トロミの添加によって摂食可能 3.硬いものが食べられない 4.食べられないものがある 5.変化なし |
5 |
3 1 1 0 |
|
捕食・咀嚼について 1.摂食不可能 2.歯がない 3.入れ歯が合っていない 4.痛い歯がある 5.残存歯で咀嚼可能 6.口を開けない 7.口から食べ物がこぼれやすい 8.口の中に食べ物が残りやすい 9.よだれが出る 10.口が渇く |
5 |
1 1 1 0 1 2 2 2 1 |
|
飲み込みの様子について 1.飲み込みが不可能 2.飲み込みが困難である 3.ムセたり咳き込んだりする / ごくんの前、ごくんする時、ごくんの後 4.飲み込んだ後に声が枯れる 5.喉に詰まった感じがある 6.食べ物が舌の奥や喉の引っかかる 7.飲み込む時に痛みがある 8.水分の飲み込みについて 他の食物と同じ 水分の方が飲みやすい 水分の方が飲みにくい 9.嘔吐がある |
5 |
2 2 2 2 2 2 0 1 1 2 |
|
肺炎・気管支炎について 1.しばしば繰り返す 2.かかったことがある 3.ない |
3 2 0 |
||
体重減少について 1.ある (期間: 年 ヶ月 kg減少) 2.ない |
2 0 |
||
その他 | / 25点 |
/ 45点 |
得 点 | ||
全身状態 摂食様式 (経口、非経口:NG、IOC、PEG) 食欲 (良、可、不良) 食物形態 (常食、その他) 嚥下障害に対する心理的訴え (あり、なし) 体重 (普通、るい痩) kg 体重減少 (− 、 + ) kg/週 気管切開 (− 、 + ) 咳 (− 、 + ) 喀痰 (− 、 +、食物含有) 喀出 (可能、困難、不能) 発声 (良好、不良、不能) |
非経口摂食 通常食でない食事 訴えあり 体重<0.9×標準体重 減少>1.45kg 気切部からの食物吸引 |
0 3 0 1 2 0 1 0 3 0 2 0 2 0 2 0 1 0 1 3 0 1 3 0 1 2 |
先行期 意識障害 (なし、軽度、高度) 従命 (良好、可能、不能) 食物接触による開口 (近傍開口、接触開口、 接触非開口) |
軽度JCS1 高度JCS2,3 従命不良例はHDS-Rを施行 |
0 1 3 0 1 2 0 1 2 |
口腔領域 準備期 口唇 口唇閉鎖 (可、否) 口唇突出 (可、否) 頬 腫張 (可、否) 舌 形態 (扁平、塊状) 表面 (正常、異常) 舌位 (正常、異常) 運動性 (良好、不良) 咀嚼筋 開閉口 (可、否) 軟口蓋 (正常、異常) 歯肉粘膜 (正常、異常) 歯牙 (正常、異常) 咬合 (安定、不安定) 義歯 (良好、不適合) 唾液 (正常、異常) |
舌苔、炎症等あり 後退位、偏位あり 前後、左右不良 口蓋垂の偏位、挙上等 発赤、腫脹、排膿、Dul、アフタ 歯垢、歯石、う蝕、動揺、欠損 顎位の不良 義歯不良、義歯の不適合 口腔乾燥状態、流涎あり |
0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 0 1 |
奥舌領域 咽・喉頭領域 (口腔期−嚥下第1相、咽頭期−嚥下第2相) 飲み込みにくさの訴え (有 無) 舌骨の動き (良、可、不良) 軟口蓋反射 (良、可、不良) 咽頭反射 (良、可、不良) 嚥下反射 (良、可、不良) |
0 2 0 1 3 0 1 3 0 1 3 0 1 3 |
|
食道 (食道期−嚥下第3相) 摂食後の嘔吐 (有 無) |
0 3 |
|
その他 下顎 牽引 (可、否) 頸部 硬直 (−、+、++) ROM− 上肢 問題 (−、+) 下肢 問題 (−、+) 体位 (立位、座位、臥位) 体位保持の必要性(有 無) (back、rest、座骨座り、仙骨座り) 呼吸状態 (良、異常) |
立位、座位、臥位 | 0 1 0 1 2 0 1 0 1 0 1 2 0 1 0 1 |
Index 小計 | /71 |
得 点 | ||
一般検査 血液一般検査 : RBC WBC Plt Hgb 血液生化学検査 : BS TP Alb ChE 尿検査 : 尿比重 |
<1002 or>1030 |
0 3 |
胸部X線検査 | 誤嚥性肺炎 : 有 無 | 0 8 |
その他 (総合) RSST (30秒間の繰り返し嚥下回数) 水飲み検査 |
≧5、 3or4、 <3 1、 2、 3、 4、 5 |
0 1 4 0 2 4 6 8 |
Index 小計 | / 23 |
初診時 grade |
基本診査 HY % |
基本検査 HY % |
具体的問題点 | ||
全身状態 | /24 % | /7 % | |||
先行期(食物認知) | 123 | /7 % | |||
口腔領域(準備期) 食物の取り込み(口唇閉鎖) 咀嚼 口唇から奥舌への送り込み |
123 123 123 |
/14 % |
|
||
奥舌領域(口腔期) | 123 | /14 % | /16 % | ||
咽・喉頭領域(咽頭期) | 123 | ||||
食道領域(食道期) | 123 | /3 % | |||
その他 | /9 % | ||||
合計 | /18 | /71 % | /23 % | ||
Grade評価 /18 % | HY /94 % | ||||
問 題 点 |
全身状態 先行期 準備期 口腔期 喉頭期 食道期 その他 |
||||
治癒 ・ 訓練 ・ 概要 |
重症 経口不可 中等症 経口と補助栄養 軽症 経口のみ 正常 |
1.嚥下困難または不能。嚥下訓練適応なし。 2.大量の誤嚥があって嚥下困難。間接嚥下訓練のみ施行。 3.条件が整えば誤嚥減少。直接訓練が可能 4.楽しみとしての摂食は可能。 5.一部(1〜2食)摂食可能。 6.3食経口摂取+補助栄養 7.嚥下食で3食とも経口摂取 8.特別に嚥下しにくい食品を除き3食経口摂取 9.常食の経口摂取可能。臨床観察と指導を要する。 10.正常の摂食嚥下能力。 |
|||
目標 |
問 題 点 | 訓 練 方 法 | |
全身状態 | ||
食物認知 | ||
口腔領域 摂取機能 咀嚼機能 送り込み機能 その他 |
口輪筋 頬筋 ほか ( ) 咀嚼筋 舌 歯 ほか( ) 軟口蓋 舌 ほか ( ) |
|
咽頭領域 | ||
食道領域 | ||
その他 | ||
総括 | ||
訓練詳細 | ||
備考 |
(%) | 全身状態 | 先行期 | 準備期 | 口腔・咽頭期 | 食道期 | 四肢・体幹 |
Group A | 65.8 | 50.0 | 68.9 | 75.0 | 7.1 | 76.1 |
Group B | 36.3 | 28.6 | 43.4 | 22.9 | 7.1 | 48.3 |
Group C | 5.8 | 7.6 | 27.6 | 0.0 | 0.0 | 27.1 |
2.基礎的嚥下訓練
A.基礎訓練
過敏症状の除去、姿勢、鼻呼吸の整備
先行期障害に対するアプローチ
B.受動的訓練
口腔清拭、ブラッシング、歯肉マッサージ
筋刺激訓練 1 (Vangede1−A)
寒冷刺激療法、輪上咽頭筋弛緩法
バルーン訓練法、 理学療法1
C.自律的訓練
嚥下体操、ブラッシング
筋刺激訓練 2 (Vangede1−B)
筋刺激訓練 3 (Vangede2)
間接的嚥下訓練、言語療法 理学療法2
直接的訓練へ
1.摂食・嚥下訓練準備
患者説明
口腔ケア : 口腔清拭、ブラッシング、義歯の取り扱いなど
歯科治療 : う蝕、歯周疾患、抜歯、補綴
嚥下補助床、スピーチエイド
〜診査・評価から方針決定、準備まで〜
〜再評価後、直接的訓練へ〜
3.摂食訓練
A.段階的摂食訓練
構成要素の決定−姿勢、食物形態、一口量、回数、嚥下方法、介助実施
水の試飲、ゼリーの試食、嚥下訓練食、移行食、常食
摂食状況の評価、食事アップの基準
段階的摂食訓練の留意点
B.各期における重点的直接訓練
先行期障害、準備期障害、口腔期障害、咽頭期障害
C.代償的アプローチ
点滴、経管栄養、 栄養・調理、食器類
(%) | 全身状態 | 先行期 | 準備期 | 口腔・咽頭期 | 食道期 | 四肢体幹 | 能力 |
治療前平均 | 50.4 | 50.0 | 56.4 | 62.8 | 10.0 | 66.5 | 4.3 |
治療後平均 | 38.4 | 29.1 | 34.3 | 43.2 | 0.0 | 53.8 | 5.7 |
1.診査・評価 診査表とVFの比較 画像診断とABR(Auditory Brainstem Responsとの比較 危険因子、予後因子の検索 |
2.治 療 Erectrical Stimulation 直接訓練の充実 各種薬物療法の検索 |
「歯科開業医の役割」 口腔機能と摂食嚥下機能の関係に関する検索 ![]() 健康な口腔機能の維持 ![]() 摂食嚥下障害の予防 |
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