アフタ性口内炎(Aphtha)

  

口内炎とは 
口内炎とは、口腔粘膜に現れる炎症病変をいいいます。
ただし炎症が解剖学的に一領域に限局しているときには、その部位の名称をつけます(たとえば歯肉炎、舌炎など)。
広義には上記のように口腔内の炎症病変はすべて口内炎ですが、口腔外科的には「○○性口内炎」のように特定の炎症性疾患を示すものです。


口内炎には、原発性と症候性があります。
原発性口内炎は局所的原因に基づくものです(例:潰瘍性口内炎)。
症候性口内炎は、ほかの何らかの疾患に付随して発症してくる口内炎をいいます(白血病性口内炎)。

原発性口内炎には次のようなものがあります。(症候性口内炎は各項参照)
   @カタル性口内炎
   A潰瘍性口内炎
   
B壊疽性口内炎(水癌を含む)
   Cアフタ性口内炎


アフタとは
アフタまたはアフタ様病変は、臨床形態的に「楕円形の偽膜性小潰瘍で、潰瘍の周辺には炎症性発赤(紅暈)・浮腫を伴うもの」とされています。
本症は疾患名とは言えずいわゆる症状名と理解されており、原因も多種多様です。
本症はすでに
Hippocratesの時代に名づけられ、時代とともに概念を変えて今日に至っています。

アフタおよびアフタ様病変
 アフタまたはアフタ様病変を示す疾患には、次のようなものがあります。
    @    孤立性アフタ
    A    再発性アフタ
    B    アフタ性口内炎
    C    Bednerのアフタ

また、口腔粘膜にアフタ様病変を現す全身性疾患には次のようなものがあります。
    @Behcet病
    AReiter病
    B周期性好中球減少症
    CCrohn病
    DFelty症候群

以上のように、口腔内の炎症病変はすべて口内炎であるといえますが通常、口内炎といえば再発性アフタを指すことが多いようです。
以下に、再発性アフタの概要について記載します。

再発性アフタについて
再発性習慣性アフタ(recurrent habitual aphtha)、アフタ性口内炎aphthous stomatitisなどと呼ばれています。
口腔粘膜病変のなかで最も頻度が高いものです。
アフタ形成の経験者は20%(sircus、Shapiro)から、60%(Ship)などの報告があります。

原 因
ウイルス、細菌、食物、アレルギー、消化器疾患、ホルモン、精神的ストレス、免疫学的異常などの要因が現在に至るまで検討されていますが、現在でも明確な原因は証明されていません。

そのうちもっとも有力な説は、免疫機構の関与についてのものです。
これは全身系統的な自己免疫疾患というより、食物その他のアレルギーなどの原因で変性した粘膜抗原による局所的な反応とみる説が強い様です。
細菌については病巣よりの菌の分離、さらに同菌を用いての皮内反応の増強をみており、また菌と口腔粘膜抗原に対する細胞性および液性免疫を検討し、本疾患が細菌と自己免疫の協同作用に基づく可能性を示唆しています。
 
 栄養上で、鉄、ビタミンB12、folic acidなどの欠乏の関与も検討されていますが、直接の原因ではなく、むしろ二次的な促進因子の可能性があるとみられています。
このような因子には他にも外傷、内分泌系、ストレス、異物、喫煙、食物などが関与していると考えられています。

臨床的特徴
アフタ性潰瘍は舌、口唇、歯肉、頬粘膜に好発し、硬口蓋、赤唇部には少ないです。
すなわち、角化層の明瞭な部位には発生が少ない傾向がみられます。興味あることは喫煙者にはアフタの発生が少ないとする報告があります。
これはアフタの発生部位が角化層のない所に好発することより、喫煙による口腔粘膜の角化促進に関係があると考えられています。


臨床症状
 発生は単発性または多発性ですが、1〜3個程度と少ないことが多いです。
 初期、違和感〜軽度疼痛を伴う小赤斑をもって始まり、完成したアフタは3〜5mm程度の類円形の浅い潰瘍で、周辺に紅暈を認めます。通常1〜2週間程度の経過で、治癒後に瘢痕形成はありません。
 また、全身症状もほとんどありません。
 しばしばある期間をおいて再発しますが、再発部は必ずしも同一とは限りません。


再発性アフタの3タイプ
小アフタ型
 径10mm以下のアフタで、口唇、舌、頬粘膜、口腔底などの角化層のない部分に発生しやすいです。アフタの数は1〜5個程度で大アフタ型に比べてやや疼痛は少なく、全経過は4〜14日間、数ヶ月の間隔で再発します。このアフタでは口腔粘膜に対する抗体の存在が高頻度で認められています。
大アフタ型
 径10〜30mmと大きく、1〜10個のアフタが発生し疼痛は著しいです。再発までの期間は短く好発部位以外にも咽頭、軟口蓋に発生します。全経過は長く、6週間にも及ぶことがあります。しばしば瘢痕を残して治癒します。口腔粘膜に対する抗体の存在も高いです。
疱疹状潰瘍型
 100個にも及ぶ小潰瘍が口腔粘膜のあらゆる部位に散在的に発生します。
アフタの径は1〜2
mmと小さく、経過は1〜2週間で、再発は短期間に繰り返して起こります。
治癒後の瘢痕形成も、大アフタ型ほどではありませんが起こりやすく、口腔粘膜に対する抗体の存在は低いです。
この型においてもヘルペスウイルスの存在は確認できません。
以上3型の発現頻度は小アフタ型が最も高く、ついで大アフタ型、疱疹状潰瘍型は最も低いです。


病 理
 潰瘍形成前では上皮で結合織には充血、浮腫、好中球浸潤を伴う初期炎症像をみますが、上皮は正常です。
興味あることは結合織内の小唾液腺周辺にリンパ球の浸潤をみることがであることです。
 潰瘍形成期になると線維素、赤血球、好中球、細胞破壊物を含む偽膜(滲出物)に覆われた潰瘍部には、境界明瞭な壊死層を形成し、その周辺には非特異的な滲出性炎症像をみます。
 近接する上皮内にもリンパ球好中球の浸潤像がありますが、ほとんど正常です。


治療法
@歯磨きなどによる口腔内の保清
A含嗽
B薬物塗布



症例ノート
  症例1
     左舌縁に発症した再発性アフタ(小アフタ)

アフタ性口内炎(小アフタ)画像             

  症例2
     歯肉部に発症したアフタ(大アフタ)

アフタ性口内炎(大アフタ)画像