口腔軟組織の外傷

顎・顔面領域、特に口腔周囲は外界と内界の境界部位であり、皮膚と粘膜が混在する場所でもあります
外界と接する部位(皮膚面)では組織の欠損や瘢痕による変形、醜形を最低限にとどめることが大切であるといえます。
内界に接する部位(粘膜面)では、審美性の回復も然りですが、発音、摂食、咀嚼、嚥下などの機能回復をはかることが重要です

軟組織外傷とそれに対する処置
挫 創
鈍的に強い力が加わると表皮に裂傷がなくとも軟組織の挫滅によって腫脹をきたします。
骨折を伴わないものでは特別な処置を要さないことが多い。
内出血や皮下溢血斑は当初青色を呈し、漸次黄色に変わって褪色し腫脹も消え、あとになんら障害をきたさない事が多い。

擦過傷
表皮が剥脱されるため疼痛が著しい。
出血は少ない。
真皮にまで至っていなければ瘢痕は残らないが、砂や塗料などの微粒子を付着したまま放置しておくと外傷性入墨となります。
局麻下に滅菌ガーゼまたはブラシでていねいに刷掃除去します。

裂 傷
顔面軟組織では最も多い。
感染予防、瘢痕形成防止の観点からすみやかに縫合閉鎖し一期治療をはかる。
受傷後24時間以内、できれば6時間以内に処置することが望ましい。

創表面を消毒液を浸したガーゼでぬぐい、異物や遊離軟組織片、血腫などを除去する。
ガラス片や木片が深部に埋入していることも多いので精査する。
Debridementについては、明らかに壊死に陥った軟組織は除去するが、生着するか否か不明な部分は保存を試みる。

組織片を整復し、死腔を残さないように皮下埋没縫合、筋層縫合を確実に行う。
交通事故による裂傷は揚げぶた状(trap door flap)になっていることが多い。
筋層の整復を十分に行わずに皮膚縫合のみを行うと、異常な膨らみを残すこととなる。

応急的に皮膚縫合のみがなされて来院した患者で創縁の適合状態が不十分な場合は、ただちに抜糸し縫合しなおすほうがよい。
処置後1週間以内であれば、創は容易に離開させることができる。

耳下腺部、頬部の裂傷でStenon管が断裂されている場合唾液瘻を残すことがある。
両断端を確認し端々吻合を行う。
吻合が不可能なときは皮膚側を密に縫合し、口腔側にはドレインを留置して口腔内への瘻孔形成をはかる。