顎関節の疾患 |
A:顎関節の解剖 |
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顎関節とは下顎骨関節突起上端の下顎頭、側頭骨下顎窩、関節結節の3部分からなる骨部に、
軟部組織(関節円板、靱帯、関節包など)が付随して機能する関節です。
硬組織部の図 : 下顎骨下顎頭部、側頭骨下顎窩

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B:顎関節疾患の分類 |
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1、発育異常 |
先天性と後天性、また異常の性状から無形成、劣形成、過形成に分類できるが、頻度は低く臨床で散見する程度である。
異常はどのタイプでも下顎頭、関節突起に起こりやすい。
発育障害の場合、下顎頭は短小化をみるので、下顎枝 短小化から下顎非対称、小下顎をきたす。
また、発育過剰では、下顎頭の巨大化が目立ち、そのため下顎の非対 称か巨下顎症になる。
この異形成では、形態の異常のほかに雑音、開口障害、開口の非円滑性が合併することがあるので、ときに
顎関節症と誤認することがありそうだ。
しかし、先天性の場合は鰓弓症候群などの合併症が多く、後天性では発症の動機が明らかなことからして、
顎関節症との鑑別は容易であろう。
これまでに発育障害は実験でその発症に関しての危険因子が明らかにされている。
放射線、薬物、外傷により臨床類似の形態変化が報告されているのは興味深い。
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2、外傷 |
1)骨折(関節突起、下顎窩)
顎関節部外傷で最も一般的にみられるのは、下顎頭、関節突起の骨折である。
介達性骨折として頻度は高い。
この骨折症例には保存的または観血的処置により対応しているが、ときにいわゆる骨折後遺症候群
といわれるような開口時疼痛、雑音と側方運動の障害を生じ、顎関節症と類似する。
しかし、こうした症例では病歴により顎関節症とは区別されよう。
2)捻挫(顎関節部)
顎関節でも、噛みそこね、オトガイ部の打撲などが原因となった捻挫がある。
関節軟部の損傷なのでX線像からの情報は少ないが、開口障害、関節部疼痛を訴えることがある。
この病態は骨折や脱臼にいたらない軽度外傷であり、円板、包内外に軟部外傷が生じ、
開口時疼痛を主とした症状を示す。
これらの症例も顎関節症と判別しがたい場合があり、後述の顎関節症のU型に入れてもよいものであろう。
3)顎関節脱臼
一方、顎関節の脱臼、亜脱臼、習慣性脱臼は日常の臨床でよく遭遇する疾患である。
このうち脱臼と習慣性脱臼については症状は明瞭であり、当然顎関節症と区別される。
しかし亜脱臼は過剰運動症もいわれ、前2者に比べると症状に不明確さがある。
大きな開口域をもつが、それだけでは気づかず、雑音、疼痛を合併するとはじめて受診する。
この雑音と顎運動の非円滑性がときに顎関節症として取り扱われるのであろう。
このような過剰な顎運動が開口だけに限られず側方運動にまで及べば、関節は各方向に可動域が広がり、
いわゆる動揺関節となる。
こうした病態はおそらく関節支持機構の緊迫力劣化に基づくのではないかと推定され一部の顎関節症の原因と
同じものと考えることができる。
顎関節完全脱臼:口を全く閉じることが出来なくなります。
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3、炎症 |
顎関節の中の炎症では、外傷性顎関節炎と顎関節の変形性関節症、顎関節リウマチが問題となろう。
外傷性顎関節症のなかでも炎症症状が強いものは当然顎関節症から除くが、原因があいまいな症例の軽度例は
顎関節症のU型に入れられる場合もある。
また、従来顎関節症として取り扱ってきた症例には、異常X線像はないとされていたが、最近の
X線検査では変形性所見が結構認められるようになってきた。そのような症例は本来顎関節症から
分離して変形性顎関節症として取り扱われる。下顎頭の変形が主体で、雑音、疼痛などが加わり
難治の病態に移行する。主として高齢者であるが、ときに若年にみることもある。
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4、腫瘍 |
顎関節部の腫瘍は良性、悪性とも比較的少ない。
しかし、ときには雑音、運動痛なと゜を伴って、あたかも顎関節症を思わせる臨床症状を示すことがある。
病巣が深部にあるので、X線あるいはRIを利用してはじめて病態がわかる症例も少なくない。
諸疾患の後遺症としての顎関節強直症のうち軽度症例は、繊維性癒着または関節包内の繊維症といわれる
病態も含まれるので、その一部は顎関節症と診断されよう。
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5、顎関節症 |
顎関節症とは、「顎関節痛、雑音および異常顎運動を単独または併発して経過する非感染性、顕著な炎症病態を欠く症候群」
につけられた名称である。
本症の主症状である顎関節の痛み、異常な顎運動(開口障害、運動の非円滑性、過剰な顎運動など)は、ほかの関節の
疾患でもよくみられる症状である。
したがって、この顎関節症はとても広くさまざまの関節疾患が包括されているとみてよい。
たとえば、亜脱臼(過剰顎運動)、咀嚼筋異常、円板障害、変形性顎関節症などの疾患のある病期のものが
入り込んでいると思われる。
このことから顎関節症というのは、さらに適当な診断を得るまでの一次診断名と理解するのが妥当であろう。
このような取り扱いをしている疾患はほかにも数多いが、臨床的には便宜的な面をもつものである。
この顎関節症は前述のように顎運動をいろいろの形、程度で障害するので顎機能異常あるいは顎関節機能異常
などとも呼ばれるが、ほぼ同様のものと考えている。
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