4:口腔乾燥症の治療

A;口腔乾燥症の処置(対症療法)
 対症療法はおもに口腔乾燥に起因した自覚症状や臨床症状の軽減を目的にして行います。
口腔乾燥感や唾液のネバネバ感、分泌低下による口腔の違和感、舌痛症や口腔粘膜の疼痛、義歯の不適合や疼痛、義歯性潰瘍の頻発、アフタ性口内炎や粘膜潰瘍、咀嚼障害、嚥下障害、味覚障害などの症状を軽減して、生活の質を高めます。
 また自浄作用の低下に伴う虫歯の予防や歯周病憎悪の予防に努めます。

@乾燥感に対する対応
 一般に乾燥には水分補給が効果的ですが、重度の乾燥の場合には水分が粘膜に吸湿されにくくなっています。
 このような症例では保湿剤配合の洗口液である「絹水」や「オーラルウェット」が効果的です。
 ただし、唾液がある程度分泌されていて既に保湿している粘膜では臨床的効果はみられません。
 医薬品として販売されている人工唾液は「サリベート」のみで、適応は放射線による唾液腺分泌障害とシェーグレン症候群です。
 健常者の唾液成分を基本に作成されていますので、重度の口腔乾燥症には水と同じような効果しかなく、改善効果は少ないようです。
「オーラルバランス」は粘膜表面に停留しやすいので、義歯床粘膜面や乾燥した口腔粘膜に塗布すると効果的です。
         
A粘膜痛や違和感への対応
 口腔粘膜が乾燥により痛みを生じやすくなっている場合には、舌や口腔粘膜の保湿が必要です。
 そこで湿潤剤配合の洗口剤を用いて、粘膜の保湿を行います。
 保湿は洗口剤のうがいよりもスプレー容器などに移し替えて噴霧する方法、スポンジブラシによる塗布が効果的です。
 乾燥した口腔粘膜や顎堤では、義歯の違和感なども亢進しますので、保湿効果のある製品を用いて義歯粘膜面の保湿を試みます。

B口腔機能障害への対応
 粘膜の保湿は正常な咀嚼嚥下機能の発現に不可欠です。
 口腔乾燥や唾液分泌低下がみられる場合には、咀嚼障害や嚥下障害に対する対応が必要となります。

C口腔ケアの現場での対応
 要介護高齢者などでは、保湿を考慮した口腔ケアが効果的です。
 保湿剤などを利用して行います。


B:口腔乾燥症の処置(原因療法)
 原因療法は、診査の結果から唾液分泌低下や口腔乾燥の原因が認められる場合や推測される場合に、その原因を改善することで臨床症状の軽減や改善をします。
@水分補給
 水分補給は脱水などの急性の口腔乾燥に対して有効ですが、慢性の口腔乾燥や唾液分泌低下では効果が少ないことがあります。体内に水分が吸収されにくくなっている場合には、逆に水分過剰摂取による尿意が夜間睡眠を障害することも多くあります。慢性の口腔乾燥症では、浸透圧調節の正常化を考慮した、漢方薬治療が有用な例は多いようです。

A薬剤の副作用の除去・軽減
 口腔乾燥をきたす薬剤を服用している場合は、副作用の少ない薬剤への変更や薬剤量の軽減が必要ですが、現実には全身疾患との関連などで変更不可能な場合も多いようです。

B口腔機能の改善・リハビリテーション
 口腔機能障害のある人や義歯不適合のある人、経口摂取していない患者さんでは唾液分泌を促すようなリハビリテーションや唾液腺マッサージなどの口腔機能訓練も効果的です。

C唾液分泌を改善する薬剤の使用
 唾液分泌を促進する薬剤としては、シェーグレン症候群による口腔乾燥に適応のある製剤(サリグレン、エボザック)もあります。
 それ以外の口腔乾燥症は適応外です。

C人工唾液
 人工唾液は「サリベート」がありますが、適応症が放射線による唾液分泌障害とシェーグレン症候群です。
 重症の口腔乾燥症では改善効果が少ないようです。
 湿潤剤配合洗口液(絹水、オーラルウェット)には、ヒアルロン酸ナトリウムが配合されているので、その保湿効果から人工唾液的な作用があります。

D生活習慣や体質の改善
 口腔乾燥はライフスタイルと大きく関連しています。
 生活指導は水分摂取だけでなく、栄養学的なバランス、嗜好品などに対するものもあります。
 口腔乾燥症患者では、のど飴やキャンディなどを好んで摂取している例も多く、影響も大きいようです。
 このような食生活についての十分な把握が症状の改善に効果的な場合もあります。まれにアルコール摂取も口腔乾燥に関連していることがあるので注意が必要です。

E口呼吸への対応
 口呼吸やいびきと関連している場合は、口唇閉鎖や口唇テープなどの応用も効果的です。
 いびき患者に用いられる歯科スプリントも口腔乾燥の緩和に有効です。
 鼻閉などの鼻疾患がある場合には、耳鼻科的な治療も必要です。

C:口腔乾燥患者の口腔ケア・舌ケア
@口腔ケアと口腔粘膜の保湿
 口腔粘膜が保湿されることで自浄作用が高まり、唾液分泌への刺激も期待できます。
 口腔ケアだけでなく、口腔リハビリや義歯調整などもあわせて行うと効果的です。
 慢性の口腔乾燥症の場合、水による粘膜への保湿は効果が期待できないので、このような症例では湿潤剤配合の洗口液などの保湿効果のある製品で、2〜4時間おきの定期的保湿が効果的です。
 口呼吸などがある場合は、保湿効果が持続しない傾向があるので、保湿ケアを開始する当初は頻度を多くします。
 およそ1〜2時間に1回の保湿が有効でしょう。継続することで口腔粘膜の水分量も高くなるので、徐々に頻度を少なくできます。
 保湿効果は「口腔水分計」を用いて評価すると便利です。

A食前の口腔ケア
 一般に、口腔ケアは食後の残渣や汚れを除去する目的で行われます。
 口腔乾燥症では、これに粘膜の保湿ケアを加えることが重要です。
 食前、経口摂取の前に粘膜の保湿を行うと粘膜が滑らかになり、口腔機能が十分に発揮できるようになります。
 義歯使用の場合も同様で、義歯使用前に粘膜とともに義歯床も保湿して装着します。
 この場合には水分だけでは粘膜への親和性が少ないので、湿潤剤配合の保湿剤を用います。
 スプレーによる塗布のほかに、乾燥の高度な患者さんではスポンジブラシによる塗布が効果的です。

B口腔ケアによる口腔機能障害への対応
 正常な咀嚼嚥下機能の発現には粘膜の保湿が不可欠です。
 乾燥すると水分摂取時にむせたり誤嚥する場合が多くなります。
 口腔乾燥に関連した咀嚼嚥下障害が認められた場合には、積極的な保湿を目的とした口腔ケアが有用です。
 この場合、要介護高齢者などに対しては、湿潤剤配合洗口液による洗口法よりもスポンジブラシを用いた粘膜への塗布やスプレー容器による噴霧が効果的です。
 口腔乾燥症は、乾燥に起因した口腔症状だけでなく、自浄作用の低下や口腔機能への影響、嚥下障害や構音機能障害などとも関連しており、これらの要因を考慮した対応や口腔ケアが重要です。

C舌ケアの重要性
 舌苔は、ごくわずかの白苔がついているのが正常です。
 全身状態の変化に対する防御機転として発生するため、基本的には全身との関連を考慮してケアすることが大原則です。
 舌苔は、長く伸びた糸状乳頭とそれに付着する老廃物などで構成されています。
 舌ケアは、この老廃物の除去を目的に行います。
 口腔乾乾燥症では舌苔が付着しやすく、口臭が発生しやすい状態になります。
 歯や歯周組織の口腔ケア以外にも、舌苔除去や舌ケアを定期的に行うことが必要です。
 舌苔除去や舌ケアは、カリエスや歯周病の予防にもつながると考えられています。
 実際、歯周病治療後も舌をはじめとした粘膜上には歯周病原因菌がとどまっており、再感染の源になりうるという報告もあります。
 最近、さまざまな舌ブラシが市販されるようになりました。
 しかし、舌ブラシの誤った使い方により、舌粘膜をかえって傷つけることになってしまうケースも見受けられます。
 舌苔は舌背後部に付着しやすく、これを舌ブラシで除去しようとすると嘔吐反射が起こり、十分に除去できないこともあります。
 特に口腔乾燥症の舌苔は「ネットリタイプ」が多いため、思ったように取れないものです。