近年、口腔乾燥症がう蝕や誤嚥性肺炎などの発症に関与し、局所的、全身的にも様々な影響を及ぼしていることが
注目されるようになりました。
その原因としては一般的に加齢、基礎疾患、口呼吸、ストレスなどがありますが、特に内服薬の副作用が大きな
比重を占めているように考えられています。
今回私たちの検索でも、加齢に伴う内服薬常用率の増加や、常用率の低い若年者の中では、小児に内服薬の
使用頻度の高いことが判明しました。
そこで、小児患者を中心に内服薬と口腔乾燥の関係、および歯科衛生士が口腔乾燥を有する患者に対して行う
衛生指導の留意点などについて考察を加えたいと思います。
尚、本内容は2004年日本口腔衛生学会近畿中四国地方部会で発表しました。
1:口腔乾燥症と歯科疾患
上記は、口腔乾燥が生じた場合の一般的な口腔内への影響を示したものです。
歯周炎、歯周病と口腔乾燥の関係においては、口腔乾燥症は歯周病発症時の初期のプラークに関する防御
機能を低下させるといわれています。
う蝕との関係では、口腔乾燥によって唾液成分の、リゾチーム、ラクトフェリンなどの抗菌性物質が減少し、抗う蝕
作用が低下します。
また、唾液の流量が少ない場合には脱灰のプロセスが進行して、初期う蝕の再石灰化阻害が引き起こされます。
また、口腔乾燥が義歯の吸着を低下させたり、嚥下障害や誤嚥性肺炎の誘因になることはよく知られた事象です。
このように、口腔乾燥は口腔内に多様な影響を及ぼすものと思われますが、次に今回の検索で得られた結果から、
歯周病、小児う蝕への影響について言及してみたいと思います。
これは成人正常者と歯周病患者の口腔乾燥の結果を比較したものです。
対象とした歯周病患者は、粘膜疾患や義歯の不適合などの他の疾患も併せもっていたもので、高度な歯周疾患
が含まれます。
視診判定では多くの症例の舌と口蓋に乾燥が見られ、唾液の粘性も正常者より高いと思われました。
エルサリボ、口腔水分計による計測でも、歯周病患者は正常者に比べて有意に低い値を示していました。
前グラフで示すように、111症例の内服薬常用率を見ると、60代から70代の高齢者に高い常用率が認められました。
20代から40代の青壮年では、ほとんど薬剤の常用が無かったのに対し、10代以下の小児では内服薬としては、
小児喘息アトピー性皮膚炎、慢性鼻炎に対する薬剤などが見受けられました。
成人の患者では、呼吸器疾患の薬剤によると思われる口腔乾燥が懸念されました。
4:成人との比較
以上のことから、成人正常者と小児29例の口腔乾燥状態を比較してみました。
その結果、視診判定では両者に有意差がありました。視診判定における小児の特徴としては、舌背部に乾燥が
見られる状態でも舌下部には十分な唾液が確認できる症例が散見されたことです。
エルサリボでも同様な有意差がありました。
しかし、口腔水分計を用いた検査では明らかな差は見られませんでした。