時間治療

A.気管支喘息に対する時間治療

気管支喘息は深夜から早朝にかけて症状が悪化しやすい時間生物学的特徴があり,ピークフロー値を利用して病態を客観的に把握し時間治療を行える.


夜間に悪化しやすい原因として,元々の人間の日内リズムが背景にある.
喘息でないヒトでも以下の日内リズムがあるため,喘息患者さんが調子を崩すと悪いバランスがさらに大きくなる.
1)ヒトの内在性ホルモンのコルチゾールが深夜に低下する(炎症を防ぐ作用が低下する).
2)気道平滑筋を拡張させる作用のカテコールアミンが深夜から早朝にかけて低下する(気管支が収縮しやすい).
3)気道の炎症細胞(好酸球など)が深夜に増加する.
4)ヒスタミンなどアレルギー物質が血中に増加する.
5)気道平滑筋を収縮する作用の副交感神経機能が夜間睡眠中に働きが活発になる(気道収縮させる).
6)夜間睡眠中は体温が低下する(気道収縮させる)

これらが重なり合って,深夜から早朝に気道が収縮しやすくなっている.

1日,6−8時間お世話になる布団も環境因子として大切である.
チリダニなどが喘息の原因のアトピー型喘息の患者さんは寝具がダニに汚染されていると,発作を生じやすくなるので,寝具の管理も重要である.





現在,夜間に1回のみ投与するだけで有効な気管支喘息治療薬が開発され,臨床応用されている.
アドヒアランスにもすぐれており,自宅で容易に気管支喘息治療ができることからHOUSE療法
と名付けている.

その後,1日1回吸入の吸入ステロイド薬に吸入長時間作用性β2刺激薬を加えた配合剤のFluticasone furoate + Vilanterol = レルベアが発売され,気管支喘息の時間治療薬の日本語名の頭文字をとって,HOURS療法と名付けている.


気管支喘息の特徴

 気管支喘息は気道の慢性炎症と気流制限により特徴づけられ,発作性の咳,喘鳴および呼吸困難を呈する.時間生物学的に深夜から早朝にかけて症状が増悪しやすい特徴がある.夜間症状が強い患者群を“夜間喘息”と呼称する.喘息症状の発現が偏る現象と薬物の時間薬理学的情報を利用して,より有効な治療を目指すのが気管支喘息の時間治療である.

 



気管支喘息の症状変化をいかに客観的に判断するか?

 喘息の病態を客観的に把握するため,喘息治療のガイドラインはピークフローメーターから得られたピークフロー値(PEF: peak expiratory flow)の利用を推奨している.PEFは呼吸機能の指標の1つである.喘息患者自身の呼吸困難を感じる感覚は健常者に比べて低下していると報告されている.患者の主観的な訴えのみでは夜間の状態を過小評価してしまう可能性があるため,客観的指標であるPEFを用いることは重要である.

 

気管支喘息の時間治療

 時間薬理学的には薬物血中濃度の時間動態を調べ,喘息の症状が悪化している時刻帯に濃度を上昇させれば治療の有用性が増すと予想される.喘息の時間治療は主にテオフィリン薬またはβ2-刺激薬などの気管支拡張薬を用いて行われる.喘息のPEF値の低下は症状悪化に比例するためPEF値の日内変動および日差変動を測定し,客観的に投与計画や効果判定をする.日本には喘息の時間治療用に開発された気管支拡張薬があり,薬物血中濃度の時間動態情報が明示されており,喘息患者のPEFの日内変動を調べ時間治療の適応を決定できる.すなわち生体リズムのバイオマーカーとしてPEFの概日リズムを利用して喘息の時間治療計画を設定できる (1-3).

 


気管支喘息に対する時間治療の注意点

 現在,気管支喘息の最も重要な病因は慢性気道炎症と考えられている.したがって吸入ステロイド薬を用いて慢性気道炎症を治療しながら気管支拡張薬による時間治療を考慮すべきである. PEFの日内・日差変動測定から時間治療の適応症例を選択する必要もある.


B.閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対する時間治療
 
 
睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は高血圧症,脳卒中,冠血管障害,不整脈,左心不全,肺高血圧症,交通事故に対する重要な基礎疾患である.持続気道陽圧(continuous positive pressure: CPAP)呼吸療法の有用性は以前から報告されている.睡眠中のみにCPAP呼吸療法を用いる点から,時間治療の一種と考えられるOSAS患者の血清 IL-6は上昇しており,循環器疾患などのリスクファクターになっている(4).OSAS患者の血清 IL-6がCPAP呼吸療法によって低下し,日内変動パターンも正常化することを初めて報告した.





コサイナー法
古いMACで動作するプログラム作成しているグループは以下の
URL
http://www.tsc.uvigo.es/BIO/Bioing/ChrLDoc1.html


文献

1. Burioka N, Shimizu E. Biological rhythm in respiratory disease. Asian Med J 43(5): 214-221, 2000.

2. Burioka N, Suyama H, Sako T, Shimizu E. Circadian rhythm in peak expiratory flow: Alteration with nocturnal asthma and theophylline chronotherapy.  Chronobiol Int 17 (4): 513-9, 2000.

3. Burioka N, Miyata M, Endo M, Fukuoka Y, Suyama H, Nakazaki H, Igawa K, Shimizu E. Alteration of circadian rhythms in peak expiratory flow of nocturnal asthma following nighttime transdermal b2-adrenoceptor agonist tulobuterol chronotherapy. Chronobiol Int 22(2): 383-390, 2005

4. Burioka N, Miyata M,Endo M, Fukuoka Y, Shimizu E: Circadian variation of serum interleukin-6 in patients with severe obstructive sleep apnea syndrome before and after continuous positive airway pressure (CPAP)
Chronobiol Int 25: 827-835, 2008.