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NPC細胞での脂質輸送障害

NPC細胞の最も顕著なフェノタイプはそのエンドゾームでの遊離型コレステロールの蓄積である。哺乳動物細胞へのコレステロールの供給系は2つに大別され、ひとつは細胞外からの供給系でありもうひとつは内因性の合成系である。このうち外からの供給は主にLDL (low-density lipoprotein) による。LDLに含まれるコレステロールエステルは、クラスリン被覆小胞を介してエンドゾーム系にはいり、加水分解されて遊離型コレステロールとなったのち、さらに細胞内の他の場所(細胞膜、小胞体など)へ輸送されなければならない。NPC 細胞ではこの輸送がうまくいかず、後期エンドゾームとライソゾームの両方のマーカーを持つ異常なエンドゾームが生じ、その中に病理学的にMVB (multivesicular body)と呼ばれる膜構造が蓄積する。

正常細胞では、LDL由来コレステロールはエンドゾームから細胞内のほかの場所へ輸送される。NPC細胞では、この輸送がうまくいかず、エンドゾーム内にMVBが生じる。内因性の合成(水色の矢印)は常に亢進している。
 

Note. 1 膜の蓄積
”脂質の蓄積”というときに、どのような形態でたまっているか、が重要。脂質は普通の細胞でもためる。特に肝細胞、脂肪細胞、さらに乳汁分泌を行っている乳腺上皮細胞などでは、それが顕著である。しかし、これらの細胞は脂質をlipid dropletに溜める。lipid dropletの内部には膜構造はなく、そのなかでは、脂質はエネルギーの貯蔵に最も適した分子構造をとる(主にtriglyceride)。NPCは”脂質の蓄積を特徴とする”と記載されるが、”膜がたまる”と言うほうが事実に即している。もうひとつ注意すべき点として、MVBは正常の細胞のエンドゾーム系でも生じるので、これがあること自体は異常ではない。それが処理されずに、大きくなり、たくさんあるというのが異常。

この排出障害の結果としてNPC細胞では LDLに対する反応が遅延するのだが、この表現型は、あらかじめリポ蛋白を除いた血清で培養した細胞にLDLを負荷することで実験的にとらえることができる。外液中のリポ蛋白を除くと、細胞はより多くのコレステロールを取り込もうとし、合成しようとする。この適応は主にLDL受容体とHMGCR (HMG-CoA還元酵素)の増加による。この状態から細胞に LDLを負荷すると、正常細胞では逆向きの反応、LDL受容体とHMGCRの down-regulation が起きる。NPC細胞では遊離型コレステロールがエンドゾームにとどまるため、細胞内でのエステル化反応が正常細胞に比べて遅れ、LDL 受容体とHMGCR の down-regulationも遅れる。当然予想されることだが、SREBPの核からの消失も遅れる。

NPC細胞での脂質の蓄積はコレステロールに限らず、糖脂質をはじめとする種々の脂質が蓄積する。特に脳ではコレステロールの蓄積は軽微であるのに対して、糖脂質の蓄積が顕著であり、これがコレステロールの輸送障害に二次的なものか否かの議論がある。どちらにしても、糖脂質の蓄積のためこの疾患は生化学的にはスフィンゴリピドーシスに分類されるのだが、コレステロール輸送障害という点から考えると、この分類は誤りである。さらに病理学的にはライソゾーム病に分類されるのだが、厳密には脂質の排出障害はエンドゾームにあり、この分類も誤りである。ライソゾーム病ではなくエンドゾーム病であるというコンセンサスが得られた理由の第一はNPC1が後期エンドゾームに局在するという事実(1,2)であるが、NPC 細胞でコレステロールが蓄積する小胞に後期エンドゾームマーカーが存在することを示した小林らの報告(3)の寄与も大きい。これに関連して、我々は NPC 細胞の早期エンドゾームにガングリオシドGM1が蓄積することを報告し(4)、脂質排出障害は広くエンドゾーム系一般に及ぶことを証明した。

以下、脂質分布の解析に用いられる自然毒をまとめる。このうち、フィリピンは診断目的で使用されている。

 
真核細胞の脂質解析に用いられる自然毒
 
シータ毒素のNPC細胞への結合
毒性をなくし、ビオチン化したタンパク質(BCtheta)を用いて、生きている細胞に結合させた。NPC細胞では、細胞表面のベジクルが染まる。
(Ohsaki et al., Histochem. Cell Biol., 2004 [5])
 
NPC1欠損CHO細胞によるコレラ毒素の取り込み
上はホロトキシン、下はB subunit。コレラ毒素はGM1に結合する。シータ毒素とは異なり、コレラ毒素は細胞に取り込まれ、early endosomeにたまる。 (Sugimoto et al., PNAS, 2001 [4])
 

初代培養プルキンエ細胞によるコレラ毒素の取り込み

NPCマウス脳からプライマリーカルチャーを作製した。Calbindin染色で形態の変化は認められないが、NPC1欠損細胞では細胞表面および直下がコレラ毒素Bサブユニットで強く染まる。

コレステロール輸送に絞って考えると、欠損細胞の表現型からNPC1/NPC2がエンドゾームからの遊離型コレステロールの排出に必要であることは明らかである。細胞内での脂質輸送の機序は小胞輸送とキャリアー蛋白質による輸送に大別されるが、問題はこれらの蛋白質が分子レベルで脂質輸送のどのステップにどのように関与するかということになる。

(1) Neufeld, E.B., Wastney, M., Patel, S., Suresh, S., Cooney, A.M., Dwyer, N.K., Roff, C.F., Ohno, K., Morris, J.A., Carstea, E.D., et al. (1999) The Niemann-Pick C1 protein resides in a vesicular compartment linked to retrograde transport of multiple lysosomal cargo. J. Biol. Chem. 274, 9627-9635. [Pubmed]

(2) Higgins, M.E., Davies, J.P., Chen, F.W., & Ioannou, Y.A. (1999) Niemann-Pick C1 is a late endosome-resident protein that transiently associates with lysosomes and the trans-Golgi network. Mol. Genet. Metab. 68, 1-13. [Pubmed]

(3) Kobayashi, T., Beuchat, M.H., Lindsay, M., Frias, S., Palmiter, R.D., Sakuraba, H., Parton, R.G., & Gruenberg, J. (1999) Late endosomal membranes rich in lysobisphosphatidic acid regulate cholesterol transport. Nat. Cell Biol. 2, 113-118. [Pubmed]

(4) Sugimoto, Y., Ninomiya, H., Ohsaki, Y., Higaki, K., Davies, J.P., Ioannou, Y.A. & Ohno, K. (2001) Accumulation of cholera toxin and GM1 ganglioside in the early endosome of Niemann-Pick C1-deficient cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98, 12391-12396. [Pubmed]

(5) Ohsaki Y., Sugimoto Y., Suzuki M., Kaidoh T., Shimada Y., Ohno-Iwashita Y., Davies J.P., Ioannou Y.A., Ohno K. and Ninomiya H. (2004) Reduced sensitivity of Niemann-Pick C1-deficient cells to theta-toxin (perfringolysin O): sequestration of toxin to raft-enriched membrane vesicles. Histochem. Cell Biol. 121, 263-272. [Pubmed]

last updated Feb. 2009

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