組織分布
 NPC1-L1の場合、組織特異性が機能に直結している。ヒトとマウスのいずれでも、小腸で発現が高い。マウスを用いた解析によれば、小腸のなかでもその発現は均一ではない。mRNA、タンパク質のレベルはともに十二指腸、空腸で高く、回腸で低い。食事中のコレステロールは主に十二指腸、空腸で吸収されるが、NPC1-L1の分布はこれをうまく説明できる。
注意すべき点として、ヒトとマウスでは肝臓での発現レベルが明らかに違う。ヒトでは、肝臓でも小腸と同等かそれ以上に発現が高いのに対して、マウスでは、肝での発現は低い。
免疫組織染色では、細胞内での局在も観察されている。小腸では上皮細胞のapical側に局在している。この局在は、NPC1-L1が小腸腔内のコレステロールの吸収に直接関わることを示唆する。肝細胞ではbile
canaliculiに局在している。この局在は、NPC1-L1が胆管腔内に排出されたコレステロールの再吸収に関わることを示唆する。
Sane AT, Sinnett D, Delvin E, Bendayan M, Marcil V, Menard D, Beaulieu JF, Levy E. (2006) Localization and role of NPC1L1 in cholesterol absorption in human intestine. J Lipid Res. 47, 2112-2120. [Pubmed]
Temel R.E., Tang W., Ma Y., Rudel L.L., Willingham M.C., Ioannou Y.A., Davies J.P., Nilsson L.M. & Yu L. (2007) Hepatic Niemann-Pick C1-like 1 regulates biliary cholesterol concentration and is a target of ezetimibe. J. Clin. Invest. 117, 1968-1978. [Pubmed]
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コレステロールの腸肝循環でのNPC1-L1(赤丸)の機能
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消化管からの吸収(小腸上皮apical側)、胆管からの吸収(肝細胞basolateral側)を行う。ABCG5/G8ヘテロダイマー(青丸)は逆向きのフローに必要。黄色は食物中のコレステロール・胆汁酸ミセル・カイロミクロン。 |
細胞内局在とコレステロール輸送/培養細胞の発現系でのデータ
 培養細胞での細胞内局在については、当初お互いに相容れない報告がなされた。まず、Shering-PlougのDr. Altmannのグループの報告(1)では、NPC1-L1は細胞表面に局在した。彼らはFlag-tagged
NPC1-L1のCHO安定発現株を作製したのだが、そのセレクションに抗Flag抗体によるflow
cytometry を用いており、細胞表面に存在するのは当然の結果である。次に、Mount
Sinai のDr.
Ioannou のグループの報告(2)では、NPC1-L1はNPC1と同様に細胞内小胞に存在した。これは、HepG2細胞での内因性NPC1-L1の染物、およびCOS細胞でのNPC1-L1-YFP
fusion proteinの発現実験の結果である。この小胞はRab5-positive/lamp2-negativeであり、early
endosome ないしこれから出るrecycling
endosomeに存在することが示唆された。われわれもHepG2細胞を市販の抗体で染めてみたが、細胞内小胞が染まった。
その後、NPC1-L1は細胞表面と細胞内小胞を行き来しており、それが細胞のコレステロール濃度でコントロールされることが報告された(3)。このペーパーでは、ラットの肝癌由来の培養細胞 (MacArdle RH7777) にFlagまたはYFPで標識したNPC1-L1を発現させている。高コレステロール状態ではNPC1-L1は細胞内小胞に局在し、低コレステロール状態では細胞表面に存在した。NPC1-L1を含む細胞内小胞はtransferrin-positive であり、recycling endosome であると考えられた。また、NPC1-L1が細胞表面にあるとき、細胞のコレステロール取り込みが増加した。この実験では、エタノールに溶かした[14C]cholesterol をPBS/1.5%BSAで30倍に希釈してそのまま投与している。つまり、LDL由来のコレステロールの取り込みではなく、可溶性のコレステロールの取り込みを見ている。
Endosome/lysosome へのtargeting
motif を持たないNPC1-L1が細胞表面に出て、さらにrecycling
endosome との間を行ったり来たりするというのはごく自然である。このフローが細胞のコレステロール濃度でコントロールされるとき、次のように問題を設定することができる。
- どこのコレステロール濃度に依存しているのか。Plasma membrane and/or endosome
- どのようにコントロールされているのか。Plasma membraneのコレステロール濃度に依存するという仮定のもとで、低コレステロールで細胞表面からのinternalizationがとまる、または高コレステロールでendosome への輸送が亢進する、のいずれかが考えられる。実験データはないのだが、細胞内へのコレステロールの取り込みという機能から予想すると、NPC1-L1の局在はplasma
membraneのコレステロール濃度依存性にコントロールされていて、低い時にはそこに止まっている(コレステロールがやってくるのを待っている)というシナリオが最も受け入れ易い。
(1) Iyer, S.P., Yao, X., Crona, J.H., Hoos, L.M., Tetzloff, G., Davis, H.R. Jr, Graziano, M.P., & Altmann S.W. (2005) Characterization
of the putative native and recombinant rat sterol transporter Niemann-Pick C1
Like 1 (NPC1L1) protein. Biochim. Biophys.
Acta. 1722, 282-292. [Pubmed]
(2) Davies, J.P., Scott, C., Oishi, K., Liapis, A., & Ioannou, Y.A. (2005) Inactivation
of NPC1L1 causes multiple lipid transport defects and protects against
diet-induced hypercholesterolemia. J. Biol. Chem. 280, 12710-12720. [Pubmed]
(3) Yu, L., Bharadwaj, S., Brown, J.M., Ma, Y., Du, W., Davis, M.A., Michaely, P., Liu, P., Willingham, M.C., & Rudel, L.L. (2006) Cholesterol-regulated
translocation of Niemann-pick C1-like 1 to the cell surface facilitates free
cholesterol uptake. J. Biol. Chem. 281, 6616-6624. [Pubmed]
上海のSongのグループは、上記のYu et al.とほとんど同じ方法でNPC1-L1の細胞内での動きを解析し、コレステロール依存性のNPC1-L1のinternalization にはclathrin/AP2 complex が必要であること、ezetimibeはNPC1-L1のinternalization を阻害することを示した(4)。デンマークのグループは、同じような内容に加えて、HepG2細胞ではインスリン処理によりNPC1-L1が細胞表面に移動することを報告している(5)。これらの報告では、NPC1-L1が細胞内を「動く」ことがコレステロールトランスポートに必須であることが強調されている。この蛋白質が単なるトランスポーターなら、ABC蛋白質と同じように、局所の膜にとどまったまま働けるはずである。NPC1-L1の場合、コレステロールに富む膜ベジクルに乗っていっしょに動くことが必要であるらしい。
(4) Ge L., Wang J., Qi W., Miao H.H., Cao J., Qu Y.X., Li B.L. & Song B.L. (2008) The cholesterol absorption inhibitor ezetimibe acts by blocking the sterol-induced internalization of NPC1L1. Cell Metab. 7, 508-619. [Pubmed]
(5) Petersen N.H., Faergeman N.J., Yu L. & Wustner D. (2008) Kinetic imaging of NPC1L1 and sterol trafficking between plasma membrane and recycling endosomes in hepatoma cells. J. Lipid Res. 49, 2023-2037. [Pubmed]
Songのグループからの続報。NPC1-L1がコレステロールの枯渇に伴いエンドゾーム系から細胞表面に出て行くときに、miosyn Vb, Rab11などがカーゴ複合体を形成する。さらに、GTPase の一つであるCdc42がスイッチ分子として機能する。
Chu BB, Ge L, Xie C, Zhao Y, Miao HH, Wang J, Li BL, Song BL. (2009) Requirement of myosin Vb.Rab11a.Rab11-FIP2 complex in cholesterol-regulated translocation of NPC1L1 to the cell surface. J Biol Chem. ;284, :22481-22490. [Pubmed]
Xie C, Li N, Chen ZJ, Li BL, Song BL. (2011) The small GTPase Cdc42 interacts with Niemann-Pick C1 Like 1 (NPC1L1) and controls its movement from endocytic recycling compartment to plasma membrane in a cholesterol dependent manner. J Biol Chem. 2011 Aug 15. [Pubmed]
摘出標本での観察ではあるが、コレステロール濃度依存性の細胞内局在の変化が小腸上皮細胞でも起きていることが報告された。
Skov M, Tonnesen CK, Hansen GH, Danielsen EM. (2011) Dietary cholesterol induces trafficking of intestinal Niemann-Pick Type C1 Like 1 from the brush border to endosomes. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 300, G33-40. [Pubmed]
小腸吸収細胞での機能
 NPC1-L1は enterocyte の brush border に、すなわち apical 側の膜に局在している。消化管内のミセルに含まれるコレステロールは、小腸上皮細胞のapical側の膜に取り込まれ、basolateral側にカイロミクロンとして放出される。NPC1-L1はapical側の膜で働くとすると、以下のいずれかのステップで働く可能性が考えられる。
- ミセルからapical側の膜へのコレステロールの移動。この場合、NPC1-L1はABCタンパク質と同様のトランスポーター活性を持つことになる。
- Apical側の膜からの内向きの輸送小胞の形成、およびその輸送。
1. の場合、NPC1-L1欠損マウスの小腸上皮細胞のapical側の膜ではコレステロールが枯渇しているはずである。2. の場合、逆にそこではコレステロールが運ばれずに増加しているはずである。上記の培養細胞のデータは 2. のステップで働くことを支持する。
Note. この点に関して、Davisらのペーパー (2) では上皮細胞全体のコレステロール量が低下することが示されている。Apical、basolateral の比較まではされていない。
Note. CaCo-2細胞でコレステロール輸送に対するエゼチマイブの効果をみた実験からは、NPC1-L1がステップ1, 2の両方に働くこと、どちらかというとステップ2の阻害効果のほうが大きいことが報告されている。
Field J.F., Watt K. & Mathur S.N. (2007) Ezetimibe interferes with cholesterol trafficking from the plasma membrane to the endoplasmic reticulum in CaCo-2 cells. J. Lipid Res. 48, 1735-1745. [Pubmed]
Note. マウスのbrush border から膜小胞を作製しin vitroでコレステロールの取り込みを見てみると、NPC1-L1があってもなくても関係なく取り込まれ、ezetimibeは全く効かなかった。このことは、ステップ1はNPC1-L1に依存しないことを示している。
Knopfel M., Davies J.P., Duong P.T., Kvaerno L., Carreira E.M., Phillips M.C., Ioannou Y.A. & Hauser H. (2007) Multiple plasma membrane receptors but not NPC1L1 mediate high-affinity, ezetimibe-sensitive cholesterol uptake into the intestinal brush border membrane. Biochim. Biophys. Acta. ;1771, 1140-1147. [Pubmed]
Note. Npc1b欠損ハエの腸管上皮細胞ではコレステロールが枯渇している。
NPC1-L1のハエのorthologはNpc1bである。Npc1b欠損の個体はステロール吸収の障害のためlarvaのステージで死んでしまう。その腸管上皮細胞でもコレステロールが枯渇していた。
もうひとつこの論文では不思議なデータが報告されている。Npc1a (mammalian NPC1に相当)欠損の個体では腸管からのコレステロール吸収が亢進していた。ここまではいい、体細胞がコレステロールを利用できない状態にあるとすればそのフィードバックで吸収は亢進するだろう。理解しがたいのは、Npc1a/Npc1bを両方欠損する個体で野生型なみのコレステロール吸収を示したこと。これは、Npc1a欠損によるコレステロール吸収の増加と、Noc1b欠損による低下が相殺しうること、言い換えると、お互いに独立した現象であることを意味する。すなわち、Npc1a欠損によるコレステロール吸収の増加はNpc1bに依存しない。
Voght S.P., Fluegel M.L., Andrews L.A. & Pallanck L.J. (2007) Drosophila
NPC1b Promotes an Early Step in Sterol Absorption from the Midgut Epithelium.Cell Metab. 5, 195-205. [Pubmed}
Note.マウス小腸上皮細胞でのコレステロール吸収に、NPC1/NPC2は不要である。
NPC1欠損マウスでは小腸上皮細胞でも遊離型コレステロールの蓄積が証明されるので、この細胞でもNPC1/NPC2がエンドゾーム系からの遊離型コレステロールの排出にかかわることは間違いない。ところが、NPC1欠損マウスで消化管からのコレステロールの吸収試験を行ったところ、wtと比べて変化はなかった 。NPC2欠損マウスでも同様だった。これらの結果は、胆汁酸ミセル由来の遊離型コレステロールの細胞内輸送はNPC1/NPC2に依存しないことを示唆する。
Dixit S.S., Sleat D.E., Stock A.M. & Lobel P. (2007) Do mammalian NPC1 and NPC2 play a role in intestinal cholesterol absorption? Biochem. J. 408, 1-5. [Pubmed]
これらのデータにもとづいて、小腸上皮細胞でのNPC1-L1の機能をもうすこし細かく見てみる。小腸上皮細胞はapical側の膜から胆汁酸ミセルのコレステロールを取り込み、basolateral側にカイロミクロンとして放出する。胆汁酸ミセルではコレステロールはほとんど全て遊離型であるのに対して、カイロミクロンではエステル型である。このトランスポートは、下の図に示すように多数のステップからなる。
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1. |
胆汁酸ミセルの遊離型コレステロールが小腸上皮細胞のapical側の膜に移行する。このステップはNPC1-L1に依存しない。 |
2. |
Apical側の膜からエンドゾーム系へ遊離型コレステロールが移行する。このステップがNPC1-L1依存性。行き先は (培養細胞のデータからは) endosome/lysozome ではなくて、recycling endozome である。 |
3. |
エンドゾーム系からapical側の膜への遊離型コレステロールの逆行性輸送。このステップはNPC1に依存しない。 |
4. |
エンドゾーム系からERへの遊離型コレステロールの輸送。このステップもNPC1に依存しない。 |
5. |
Apical側の膜からのコレステロールの排出。このトランスポートに必要なのがABCG5/G8ヘテロダイマー。 |
6. |
コレステロールの内因性合成系、HMGCoA reductase など、一連の酵素が必要。 |
7. |
コレステロールのエステル化。ACAT (acylco-enzyme A:cholesterol acyltransferase) による。 |
8. |
エステル型コレステロールをカイロミクロンにパッケージするプロセスで、アポ蛋白が加えられる。 |
通常の末梢細胞では遊離型コレステロールは endosome/lysosomeで生じる。これを細胞のほかの場所へ運ぶステップ(上図のステップ3, 4 に対応)はNPC1依存性である。それに対して、小腸上皮細胞での輸送 (recycling endosome -> 他の場所)はNPC1に依存しない。 |