●「孤独のグルメ」は鳥取出身の漫画家、故・谷口ジローさんの代表作。いろんな名セリフで知られていますが、そのひとつが 「ダブってしまった」。

「ダブる」のは、ストイックな男の美学に反するのです。わかるかな〜
●まあ食材がダブってもありがたく食べてしまえばいいんだけど、言葉がダブる(重複する)とわけがわからなくなって困ることがある。先日、がいな祭りのイベントに招かれていたのは米子出身の女優・山本舞香さん、そうそうこの人と思い出したのはこのコマーシャル(リンク)。細かいところを省いてセリフを書き起こすと、
- 男A: (会社を)やめる。・・・@
- 男B: (俺は)やめるのをやめる。・・・A
- 女 (山本): (私は)やめるのをやめるのをやめる。・・・B
- 男A/B ????
- 男A: どっちだよ!
これよくできてますね、@はわかる、Aもわかる、ところがBになると途端にさっぱりわからない、誰でも「どっちだよ!」と言いたくなる。
これなんでかなあと考えてたんですが、漢字にしてみると気づくことがあって、
- 辞める。
- 辞めるのを止める。
- 辞めるのを止めるのを止める。
となっていて、Aでは「やめる」という音が重なってるけど、意味は区別できる、ところがBでは後ろ2つの「やめる」が音も意味も重複するのでわからなくなる。
●同じような例は身近にもあります。例えばこれは米子鬼太郎空港の北側、境港市夕日丘の空き地に立っている看板ですが、「用」と「地」がダブルでダブってくらくらする。

これ2通りに読めて、
- 事業用 / 借地 / 用地・・・@
- 事業用 / 借地用 / 地・・・A
Aは「地」の一文字に無理があるような気がするので、@だけ考えてみます。
- 「事業用」はいいですね、宅地じゃない、店舗とか倉庫とか建てて下さいと。
- 「借地」もよい、売地じゃありません、借りて下さいと。
そうきて、最後の「用地」には何の意味がある?事業用で、借地で、「そのための土地」である、と?そんなこと言われなくても空き地に立ってる看板なんだから当たり前だろう、とツッコミたくなる・・・のは何かおかしいのかしらん。これくらい自信たっぷりに見せつけられると、こっちが勘違いしてるんじゃないかと弱気になってしまうけど、やっぱりこの「用地」はおかしい、無駄だと思います、「事業用借地」だけのほうがすっきりくっきり。
●次の例では字面はダブってないんだけど、言葉の意味が重複してて意味不明になってる。われらがアレスコ棟のセミナー室入口に掲示されてるポスターなんですが・・・

感染対策は、予防・診断・隔離・治療などの一連のタスクからなり、予防は対策の一部です。包括した表現として「感染対策」はよい、一部を表現する「感染予防」もOK、ところが合体させて「感染予防対策」とすると・・・「〜対策」を素直に読めば「〜に対する策」だから「感染予防に対する策」?これもしかして主語はコロナウィルス?「最近ヒトがいろんな方法で感染予防を試みているから、種の繁栄のためには鋭意対策を講じなければならない」。
●最後に、意味は通じるんだけど、ダブりのためになんとも冗長な例をひとつ。米子鬼太郎空港の南東端に F-4 の実機が展示されていて、フェンスに掲示されているのはその説明。


ダブってるところを示します。

ダブりを省いた推敲例。

同じ場所に、C-1, YS-11 も展示されています。

惜しい。後ろの「美保基地」はいらない。

パーフェクト!文句の付け所なし。
●もしかしてこの記事を読んでくれている受験生へ。小論文の推敲の基本は「捨てる」ことです。大量の答案を読まなければいけない採点者にとって、特に印象が悪いのが語句・意味のダブりを含む冗長な表現。Precise & concise をモットーに、がんばってください。
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