国字の字典  飛田良文 監修 菅原義三 編  東京堂出版

kokuzi.jpg (42614 バイト)日本語ほど「文字」の多い言語もそうはないだろう。英語では文字は1種類。ブロック体と筆記体という書き方の違いはあっても、文字そのものはアルファベットのみである。アルファベットそのものには意味というものがない。音を表すだけの文字、いわゆる「表音文字」である。世界中のほとんどの文字がこれだ。中国語はもちろん漢字。こちらは文字そのものに意味がある「表意文字」。朝鮮半島では漢字と、表音文字であるハングルを使用する。そして日本語は漢字と2種類の表音文字。ひらがなとカタカナである。
ひらがなもカタカナも元は漢字である。ひらがなは漢字をくずしたものが元であり、カタカナは漢字の一部を取ったもの。工夫好き、というより加工好きの日本人の特性がここにも出ているわけだ。

ところが日本人というのは素晴らしいというかおそろしいというか、これだけでは飽き足らなかったらしい。新しい漢字をでっちあげてしまった。それが「国字」である。
国字の成り立ちには種類がいくつかある。
中国同様、略字としてできたもの。まさか、と思われるかもしれないが、「国」は国字である。國を略した字なのだ。中国でも略字を使うが、日本語とは異なった略し方をしたようである。
楽しいのは、漢字と漢字を組み合わせた国字である。これにも2種類あり、音を組み合わせたものと意味を組み合わせたものに分類できる。「麿」は「麻」と「呂」を合体させた国字である。これが音の組み合わせの代表格だろう。
では意味を組み合わせたものは?山ほどある。部首でいうと、魚・木・草・虫・金・鳥。このあたりは国字のオンパレードだ。弱い魚だから「鰯」、平べったい魚だから「鮃」、もっと乱暴なところでは「蛯」、曲がった様が老人のようなので「海老」だがその「老」を持ってきた、というわけである。
たいていの国字はなるほどなぁ、と納得させられる字である。衣ヘンに上下で「裃」(かみしも)、神に供える木だから「榊」。ダジャレの世界ではある。「働」という字も国字だし、「鞄」もである。革で包むからカバン。この字、実は意外に新しい字で、あの有名な「吉田カバン」の創始者が作った字だと言われているのだが、なぜかこの字典には載っていない。単位を表す字もそろっている。「粍」「瓲」などだ。

残念ながら、パソコンでこれらの字を表示するのは非常に困難である。インターネット上ではなおさらだ。ぜひともこの字典を手に、「こんな国字もあったのか」「えっ、これが国字だったのか」という驚きと発見を楽しんでいただきたい。なお、この字典の見出し語(もちろんすべて国字)も活字がほとんどなかったらしく、非常に愛らしい字が「書いてある」。