「荻窪ラーメン戦争」なる言葉があった。
荻窪は東京ラーメンの名店、と呼ばれる店が今でも数多い。醤油味のスープに鰹節などのダシを合わせた和風スープが主流である。今はなくなってしまったとある店では生のイワシをかくし味としてダシを取っていた。最後に行ったとき、おやじさんがなにげなく寸胴鍋から上げて見せてくれた。見せてくれ、と頼んだわけでもないし、特段親しかったわけでもない。なぜか見せてくれた。まもなくその店はのれんを下ろした。
もともと東京は水そのものがそれほどおいしくない。それをいかにカバーするか、その手段の1つが和風ダシだったのだと思う。さらに蕎麦に慣れている人の口にも合った。そしてなぜだかそういった店が荻窪に集まった。しかし、本当においしい店はひとにぎり。マスコミなどで有名な某店、行列がいまだ絶えることはないが、なぜなのだろう?鰹と昆布でダシを取り・・・などと言っているが、少なくとも私の口には合わなかった。2度と行かない。カウンターのみのごく狭い店で「子供お断り」としている店もある。味は普通だ。しかしそういう奢った態度がイヤだ。それは店側が言うことではない。昼時混雑の中、子供が迷惑をかけると思えば親、すなわち客の方が気をつかうことであり、店から言われることではない。子供だって客である。そんな中、荻窪でラーメンを食べるなら、というより東京で食べるなら、わたくしはこの店をおすすめする。
場所は駅からやや離れたところである。駅と青梅街道を挟んだ側、「教会通り」という細い道を入った奥にある。
メニューは実に気持ちがいい。ラーメン、チャーシューメン、ワンタンメン。以上。
炒飯も餃子もない。ラーメン勝負である。ボリュームもなかなか。学生のときは平気だったが、先日行ったとき「チャーシューメン大盛り」をやったら途中でギブアップしそうになった。でもうまいからやっぱり全部食べた。かつ値段は安い。
スープは醤油ベース。豚骨と鳥となにか魚のダシ。鰹とイリコではないかと思う。さっぱりしつつコクがある。麺もいい。
なんでもご主人がいろいろな店を回って研究し、この店を開いた、と聞く。冬場には柚子がひとかけら入り、これがなんともいい(賛否両論あるが・・・わたくしは肯定派)。
そしてなにより。
この店のスープはコショウを一切必要としない。
たいていの店ではコショウをかけてもよしかけなくてもよしなのだが、この店は違う。かけない方が間違いなく美味い。
すなわち、スープが完成されている、ということである。
あまり知られていない店かもしれない。しかし知られている店よりははるかにうまい。
学生時代、割と近くに住んでいたこともあり、頻繁に通った。就職し東京を離れて数年後、ネット上で知り合った人から(二葉が縁で知り合った)「ご主人が亡くなった」という話を聞きショックを受けた。まだ若かったのに・・・。そしてあのラーメンがもう食べられないのか・・・。しかし甥御さんが修行をされ店を継がれた。「最初はお客さんも少なかったけど、今では昔どおりです。」しばらくして上京する機会があり、とにかく行ってみた。大丈夫、スープも全部飲み干した。
「美味しんぼ」で「先代の味と変わらぬ味を出しても客は満足しない」というエピソードがあった。味も記憶の中で美化されるかもしれない。しかし間違いなく「二葉」は大丈夫である。
自分の知っている店が有名になると嬉しくもあり残念でもあり、というのが心理である。しかしそれでもわたくしはこの店をみんなに知って欲しい、と思う。
ちなみにこのページに掲載している画像 は「二葉」のチャーシューメンである。 |