Canon EF-M

サブカメラが欲しかった。

撮影に行き、状況に応じてレンズを付け替えるのは、楽しい反面、シャッターチャンスを逃すという危険性も孕んでいる。撮影の回数が増えると、レンズをつけたサブカメラを持ち歩いていれば、という思いをする回数も増える。
メインシステムがEOS-1HS。これ以外にレンジファインダー機、ハーフカメラ、コンパクトカメラはご覧のとおり、その日の気分で使い分けできるほどあるのだが、手許にある一眼レフはエキザクタだけである。さすがにこのクラシックカメラの女王をEOS-1のサブに使うのは・・・・。
かなり悩んだ。
もちろん今使っているCANONのEFレンズ群を活かすことが大前提。となると、EOS-1N、あるいは思い切ってEOS-1Vにヴァージョンアップして、今のEOS-1をサブにするか。それともラインアップ的にもうちょっと下を狙うか。EOS-3はどうも・・・・という気がしていたし、EOS-55ではちょっと物足りない。中古市場でEOS-5を漁るか、ちょっぴり勇気を出してEOS-7を買うか。周囲でカメラを買おうか、と考えている人あればEOS-7を薦めまくった。借りよう、あわよくば安く下取ろう、という魂胆である。他社ユーザにまで薦めたというのはやり過ぎだったか。

EOS kissIIIを売ったことを後悔するまでになった頃、雑誌で見たことも聞いたこともないカメラに出合った。
CANON EF-M。
なんだ、これ?CANON EFなら知っているが・・・・記事を読んで仰天した。
キヤノンにはいくつか、輸出専用モデルが存在する。Elanのように国内モデルからいくつかの機能を省いたもの、そしてT60に代表される輸出用オリジナル。EF-Mは後者だ。
いや、別に輸出専用だったから驚いたわけではない。
キヤノンという会社、カメラに率先して新技術を導入する。ペリクルミラー、実用AF、視線入力、手ブレ補正。お世話になりっぱなしの機能である。これらの新技術の結晶がEOSシリーズといってもよいわけだが、その中に燦然と輝く異端児、それこそがEF-M。
このEF-M、マウントのリングがプラスチックであること、フィルムのプリローディングなどからベースモデルはEOS1000と思われる。すなわちEOS Kissの前身である。ではどこがEOS1000と違うのか。
EOSシリーズ唯一のマニュアルフォーカスカメラなのである。

EOSシリーズおなじみの液晶パネルがない。その代わりに軍艦部には右に露出、左にシャッタースピードダイアルが各々鎮座する。それぞれのダイアルに書かれた「A」の文字、両方これに合わせればプログラムオート、露出はAでシャッターダイアルを回せば シャッター優先、シャッターダイアルAで露出ダイアルを回せば露出優先、両方回せばフルマニュアル。もちろん露出補正も可能。使って楽しいカメラである。



今からマニュアルカメラを買おうとすると、大変な困難がある。ほとんどのメーカーが生産していない。では、と中古市場を探すことになるのだが、どうしてもレンズごと買わねばならぬ。他メーカーであれば当然、キヤノンであってもEFマウントのマニュアルカメラはなく、F-1やT90を買えばFDマウントのレンズを揃えねばならない。EFレンズを使いたければマウントアダプターを買わねばならぬ。そんな状況下、EF-Mは

雑誌で見た途端、欲しくて仕方なくなった。だがなにせ古い上に輸出専用。イナカの中古販売店には登場するはずもない。それなら、と上京したときに有名カメラ店をとにかく回った。期待度ナンバー1の中野フジヤカメラ。
「いやあ、年に3、4台、入って来ますけどねえ。今はちょっとないですね。」
こうなれば意地である。新宿、新橋のカメラ店を次々とはしごするのだが、影も形もない。ないだけではなく、「キヤノンのEF-Mを探してるんですけど。」と言ってもこのカメラの存在が知られていないときた。
「そんなカメラ、あるんですか?」
ありゃりゃ。

失意の日々を送っていると、友人から「YAHOO!オークションに出品されている」とのタレコミがあった。紆余曲折を経て入手に成功した。落札価格はオークション開始価格と同額だった。不人気なのか、存在が知られていないのか。かくいうわたくしもつい先日まで存在を知らなかったのだが。

手許に届いたEF-Mは小振りで軽いカメラだった。EOS-1と較べればあまりに小さく、ミラーショックも大きい。2つのボタンを同時に押しながら行う露出補正もEOS-1の背面ダイアル操作に較べれば随分と不便ではある。
それでもカメラ任せにせず、自分で写真を撮る、が実感できる、それもEOSシリーズで。もちろん正統EOSでもフルマニュアルは可能なのだが、マニュアル撮影のためのEOSである、というコンセプトが妙に小気味いい。
露出やシャッタースピードはともかく、フォーカスがマニュアルというのはEOSなのにどうも違和感が、という声もある。ただわたくしの被写体はその多くが花であり、マクロレンズを多用する。マクロ撮影にマニュアルフォーカスはつきもの。ゆえに個人的にはまったく抵抗がない。

しばらくはEF50mm F1.8をつけっぱなしにしてみよう。
ひょっとすると、最強のサブカメラになるのでは。そんなワクワク感たっぷりのカメラである。