ゴルフ13さんの手による反発磁気回路型カートリッジの進化は止まるところを知りません。
今回はゴールデンウイーク前という絶好な時期に、最新の同軸マグネットを使用したステレオカートリッジと、逆ハの字型ステレオカートリッジの改良型を送って頂く幸運に恵まれました。
こういう新たな発想を次々と具体化していかれるゴルフ13さんには感心するばかりです。
■同軸マグネット型カートリッジ
さて、同軸マグネット型カートリッジの構造ですが、N極とN極同士の反発する磁石を同心円に配置することによって発生する反発磁気を利用して発電する仕組みです。
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中心には円形、その外側にリング状のマグネット | 反対CHの写真 中心のマグネットは外側のマグネットより突き出ている |
写真のように同軸に配置されたマグネットからは、コイル側に向かって同心円状に反発磁気が発生していますので、コイルの全周を使って効率的に発電できます。
コイルは、カンチレバーに特殊なプラスチック製のアングルを介して45度の角度をつけて取り付けられています。
この辺りの工作は大変精巧ですね。
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白色のアングルを介してコイルが取り付けられている | リード線は黒色の接着剤状のものでダンプ処理されている | |
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使用した回転シェルは長谷川さん作 当初は真鍮プレートを用意していましたが、急遽アルミプレートに切り替えました |
ゴルフ13式軽量アームに取り付けて試聴 |
試聴に使用するアームは長谷川さんに製作してもらったゴルフ13式軽量アームです。
このアームは08年1月の試聴の際にも使用しましたが、アームベースやカウンターウェイトをリニューアルしてもらいました。
カウンターウェイトは、出来るだけアームの回転軸に近い位置でバランスさせた方が音が良いのですが、元々がカーボンシェルを使ったモノラルカートリッジ用に調整したアームでしたので、今回はシェルに軽い部品を使ってようやくバランスが取れました。
MCトランスにはピアレスのSLC−1と長谷川さんの自作トランスを併用します。
針圧は1.5gの指定がありましたが、ピアノ・ソロなどの特定のレコードで左CHが少し不安定になります。
色々と探った結果、1.4g前後が一番安定しました。
音質について
最初のLPを聴いた後の第一印象は、普通だなあと感じました。
聴き手に精神集中を強いるような威圧感がありませんし、常用のピカリングやゴルフ13さん作のモノラルカートリッジのバランスと比べても違和感がありません。
当然「普通」である訳はなく、反発磁気回路カートリッジに共通した反応の速さや情報量の多さを持ち合わせていますから、これは非常に完成度の高いカートリッジと感じます。
チャンネルセパレーションも十分で、左右にきちんと広がります。
早速、手持ちの様々なジャンルのLPを次々と聴きました。
以前のステレオカートリッジとの大きな違いは、「音が痩せない」ことです。
低音から高音まで音の厚みと軽やかさが保たれ、空間情報も豊富です。
一方で、以前のステレオカートリッジにあった独特の反応の速さを感じさせる「凄み」は後退しています。
そして予想したとおり、新旧取り混ぜた様々なLPで楽しい音楽を聴かせてくれました。
ことさらオーディオ的なことに感心が偏ることがなく、安心して音楽に没入できます。
これは本当に凄いことだと思います。
この完成度の高さの理由は何なのでしょうか。
クロスコイル型や逆ハの字型、リンク型と違うところは、
・クロスコイル型や逆ハの字型はN−S極間の磁気を利用するが、同軸マグネットはN−N極間の反発磁気を利用する
・クロスコイル型や逆ハの字型はコイルの一部を使って発電するが、同軸マグネットはコイルの全周で発電する
・リンク型はリンクの介在による共振性のキャラクターがあるが、同軸マグネット型はリンクが存在しない
などが考えられます。
■逆ハの字改良型カートリッジ
さて、ゴルフ13さんからは同時に逆ハの字型カートリッジも届きました。
08年1月に聴かせて頂いた同型のものとは、マグネットの配置が異なっています。
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マグネットが直角に配置されている | これは以前に試聴させてもらった同型のマグネット配置 左の写真と比較してください |
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コイルは楕円状に成型されている | ボディはコムプライト |
写真でも分かりますが、コイルはかなり扁平な楕円に成型されています。
このカートリッジも軽量アームに取り付け、針圧1.5gで試聴を開始しました。
アームに取り付け直後は少し強ばった印象ですが、2〜3日後は聴き易くなってきました。
音質について
同軸マグネット型を聴いた後の比較では、音がやや細身で腰高のバランスの印象です。
高音の切れ味が鋭く、ヴォーカルは少しハスキー。
前回に試聴させて頂いた同型カートリッジはステレオ音場が狭かったのですが、今回は十分左右に広がっています。
そして、以前にも感じた、独特の反応の速さを感じさせる「凄み」があります。
とりわけギターやパーカッション類の切れ味は魅力です。
LPを選ぶ傾向があり、70年代後半や80年代のポップス系のLPでは録音操作のアラを抉り出すようなところがあって、人工的なエコーなどをはっきりと認識させます。
しかし、前回の同型カートリッジより様々なLPへの対応力は向上していると感じました。
山下達郎やスティービー・ワンダーもそれなりに楽しめます。
この辺りは、アームのリニューアルも影響しているかもしれませんね。
ところで、試聴も今日が最後という日、LPを聴いている途中で突然右CHの音が途絶えてしまいました。
カートリッジをよくよく観察してみますと、コイルからの極細リード線とやや太いリード線の半田部分が切れているような、いないような・・・・。
すぐにゴルフ13さんに連絡してお詫びしましたが、この後、別の方にも試聴して頂く予定のカートリッジでしたので、大変恐縮しました。
試聴を終えて
今回のカートリッジは以前より完成度が高まっていると感じました。
逆ハの字改良型は様々なソースへ対応できていると感じますし、チャンネルセパレーションも向上しています。
とりわけ同軸マグネット型は、今まで聴かせて頂いたステレオカートリッジの中では、我が家の装置と一番相性が良いように思います。
反発磁気回路のモノラルカートリッジに音味が近いと感じました。
さて、アームをRS−A1に戻してピカリングを聴きますと、何とも反応の遅さと空間の狭さが気になりました。
しばらくは自宅でLPを・・・・・聴けそうにありません。
(08年5月)