作品解説 「プチ・パンドラ」

 今を遡る事10数年。(株)一水社から出版されていたマンガ雑誌「プチ・パンドラ」(1984〜87年。12号まで不定期刊行された)で、森野先生は「万寺タツヤ」というペンネームでデビューされた。

 その当時、万寺センセイは妖怪マンガの巨匠「水木しげる」先生の門下生、即ち水木プロの社員であった。

 デビューでイキナリの連載をかかえた万寺センセイは、“水木”で鍛えられた敏腕を奮いつつ、独自のセンスのスパイスをきかせ、次々に傑作を発表していったのである。ただ、発表媒体である「プチ・パンドラ」が亜流誌(所謂成年コミック)であったため、同誌に掲載されている他のエロマンガの中に埋没していたのも事実である。(成年コミックの主役は、あくまでもエロマンガなので仕方ないのではあるが・・・)

 だが、実力派である万寺センセイがそのまま埋もれてしまうわけが無かった!「プチ・パンドラ」休刊以降にも万寺センセイに出版ギョーカイからお声がかかり続けて現在に至っているのが何よりの証拠ではないか!見ている人はヤハリ見ているのだ!

 そんな当時の作品は、現在入手困難であるのだが、掲載された各作品を解説紹介させていただきたく思う。


「文明快化」
 望み通りの地位を得られる「百成座の壷」を探し求める素浪人「多雷珠石(たらいぎょくせき)」は、その持ち主である正体不明の「夢魔王(むまおう)」と対決する。夢魔王は、日本の西洋化を嫌い、異文化の恐怖を見せ付けるという名目で村の人々を悩ませていたのだ。村人との協力でナントカ夢魔王を倒し、壷を手に入れた珠石。しかし、占い師が壷をイキナリ割ってしまう。それは、その壷を手にした者は夢魔王となってしまう、という末路がまっているからなのだが、珠石は納得がいかず、その村を後にしたのだった。


「墓場の少女 蚊取」
 ある村に住む少女蚊取は、昔お世話になった遺族のおぼっちゃんを「預か」り細々と暮らしていました。しかし、貧乏のため万引きや髪を売ったりして生活していました。ある冬の寒い日、八ツ目ウナギを取りに行った時の事です。あやまってソレに処女を奪われ、帰り道に坊主に強姦され不老不死の霊薬を飲まされたのでした。クリスマスの夜、蚊取の家へチョコレートが放り込まれました。喜んで食べるおぼっちゃん。しかし、毒入りだったため、即死してしまいます。途方に暮れる蚊取の前にイキナリ現れる八ツ目ウナギ男!「万引き娘に天誅!」と、哀れ蚊取は首だけになってしまいますが、死ぬこともできず「生」を噛みしめるのでした。
 タイトルからも想像出来るように某名作アニメのパロディ風。その実パワー溢れるギャグマンガなのだが、全体的にダークな笑いが漂う一作。


「核 大変」
 五日もメシ抜きで行き倒れる主人公「桜甚六」は八重山諸島を旅行中、劇団「溺恋一座」に助けられる。その劇団は、最近「餅肌財閥」のおぼっちゃまから原発をつくるために立ち退きを迫られていた。おぼっちゃまは説明会と称して全島民を公民館に集め、核融合炉「ベティさん一号炉」で一掃するつもりでいた。しかし、誤っておぼっちゃま自身が核融合炉に落ちてしまいモンスターに変身してしまうが、桜の水牛クソ爆弾によって倒される。
 全編通して一貫した毒々しさが「ここち良い」秀作。


「WUXI」
 時は大戦中。「世界」を知りたいがために軍人になりたがらない青年信介は父親の反対を押し切って日本を出航した。だが、その船は沈没。やがて信介は親切な中国人に助けられ色々と世話になる。そのうち、大名人の筆による「目玉の無い幻獣」の名画を見せられるが、信介はつい、目玉を入れてしまう。そうこうしている時に、地元ヤクザが押し入って来て中国人の娘をさらっていってしまった。信介は刀を引っさげ助けに行くが、あっさりやられてしまう。しかし、苦し紛れに放った筆が奇跡を呼び起こし、大名人の「幻獣」を召喚、ヤクザを一掃する。あぁ、ペンは剣よりも強しか。
 「当時は“怒り”しかなかった(笑)」と語る万タツ作品群の中でも異色な哀愁漂う傑作。

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