白兎海岸


有名な「因幡の白兎」伝説の舞台となった神話の香りをわずかに残す海岸、そこが白兎海岸である。
そして、国道九号を間にはさみ、道路向こうに大きな森がある。そこに白兎神社がある。
神々が往来した神話の地も、現在では交通量も多く騒がしい限りである。
さて、この地に伝わる伝説、「因幡の白兎」を紹介しよう。

国造りの神“大国主命”が、まだ“大己貴神(おおなむちのかみ)”と呼ばれていた頃。
どういうわけか、
“大己貴神”は兄弟の八十神たちにひどく憎まれ、乱暴されたり、
無理難題をあびせられていた。
ちょうどその頃、因幡の国に世にも美しくまるで花のような八上姫がいた。
その美しさは国中の評判になり、八十神たちは彼女をひとめ見たい、娶りたいと考え、
因幡の国へ旅することになった。長旅なので、たくさんの荷物が必要となった。
そこで大きな袋に荷物を詰め込み、弟の
“大己貴神”にかつがせて出雲の国を旅立ったのである。
“大己貴神”は不平も言わず重い袋を背負っていたが、あまりにも重いので兄神たちより
ずっと遅れて歩かねばならなかった。

八十神たちはやがて因幡の国へ入り、波の静かな海岸を歩いていると、波打ちぎわに
一匹の白ウサギがうずくまって泣いているのに出会った。ウサギの体は赤くただれ、とても
痛々しい感じだった。八十神たちはからかい半分で口々にこう言った。
「おお可哀相に。皮を剥かれているではないか」「そうじゃ、良い事を教えてやろう」
「海でその体を洗い、高尾山に登って潮風に吹かれよ。」「たちまち元通りになるぞ。やってみるがよい」
白ウサギは早速八十神たちの教えに従ってみたが、良くなるどころか痛みが増すばかり。
気が狂いそうになって山から駆け下りてグッタリし、泣いているところへ
“大己貴神”が通りかかった。
「これ白ウサギよ。そんなに涙をうかべてどうしたのじゃ」

ウサギは涙で潤んだ目で“大己貴神”を見上げ語り始めたのだった。
「はい。本当の事を申し上げます。私はしばらく隠岐の国へ行っておりました。けれども日が経つにつれて
早くこの国へ帰りたくなり、思案の末、ワニを騙して仲間を集めさせ、陸までワニの背橋をかけさせたので
ございます。望みかなった私は嬉しくなり、その上にのって渡っていたのですが、もう少しのところで嘘がばれ、
皮を剥がされてしまったのです・・・もともと私が悪かったのです」
そして白ウサギは八十神たちに出会った事を全て話した。頷きながら黙って聞いていた
“大己貴神”
「悪かった事に気づけばそれで良い。さぁ、すぐに川の水で体を洗い潮を落としなさい。
そして熟したガマの穂を敷いてその上にくるまるのじゃ。急ぐが良い」といたわりながら言った。
“大己貴神”の言った通りにしたところ、白ウサギは元の美しい姿になった。
「本当にありがとうございます。あなたは本当に心優しい神様です。お兄さんたちは八上姫を
娶ろうと先を争って行かれましたが、姫はあなたのものです。私が姫にあなたの心を伝えましょう」

白ウサギの言った通り、八上姫は“大己貴神”の妻となる事を喜んで承知し、やがて二人は
仲良く手を取り合って出雲の国へ帰っていったのだった。

白兎神社

さて、この「因幡の白兎」伝説、みなさんは“昔話”としてよくご存知だとは思う。
しかし、この話は“アマツカミ”“クニツカミ”、そして“大和朝廷”“出雲大国”の関係をも物語っている。

八十神が白ウサギに“海水で体を洗う”ように指示しているが、これは天照大神の系統の“アマツカミ”では
“禊(みそぎ)”として身を清めたり、穢れを祓ったりする行為であり、決して意地悪の為にしたことではない。
しかし、この物語の軸は
“クニツカミ”を中心とする“出雲大国”であり、“アマツカミ”を中心とする“大和朝廷”ではない。
俗な言い方をすれば、派閥の違う行為なので“意地悪”として書かれたのであろう。

また、八十神の荷物を“大己貴神”がかついでいるシーンがあるが、“アマツカミ”である八十神の荷物を
“クニツカミ”である“大己貴神”がかつぐというシチュエーションは、地方の“出雲大国”が中央の“大和朝廷”
吸収合併されたということが読み取れる。

しかし、“出雲大国”は弱国であったかというと、そうではなさそうである。
政治的かけ引きもあったであろうが、10月は出雲だけが
“神有月”であるし、近年相次いで発掘されている銅鐸や
銅矛、多くの遺跡が
“本当に強大な国”だったのではないか、と静かに物語っている。

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