オオカミのいた鳥取砂丘
(鳥取市鳥取砂丘)

鳥取砂丘には、その昔、狼が住んでいたという伝説がある。
以下がその伝説である。

むかしむかし、鳥取砂丘にはたくさんのオオカミが住んでいました。
オオカミは、砂丘の中にある浜街道を行き来する旅人や村人たちを襲っていました。
そして、ご馳走を奪ったり、手足に噛み付いたりもしました。

「困った事じゃ。いたずら狼がいたんじゃ安心して通れやしない」
村人たちは、毎日のようにそんな噂ばかりしていました。

ちょうどそのころ、浜坂の村に金兵衛という知恵と勇気のある大工が住んでおり、
「ようし、わしがなんとかして狼を退治してやろう」と、言い出しました。

ある日の事、仕事に使っているノミを出し、丁寧に砥ぎました。それを布に巻いて懐に入れ、
夕暮れ近い浜街道を一人で
駟馳山(しちやま)の方へ歩いていきました。

気味の悪いほど、静かな夕暮れでした。
金兵衛は、ふと後ろに何者かの気配を感じました。

「狼の奴、とうとうやってきたな」 彼は懐に手を入れました。 狼は次第に近づいて来ました。

「そろそろ跳びかかってくるころだぞ」 金兵衛は、わざとそ知らぬふりをしながら、
懐からノミを出し、ゆっくりと布を解き始めました。

その時でした。「ウオーッ」という、すさまじい唸り声をあげた狼は、大きく跳びあがり、
金兵衛目掛けて襲いかかりました。

「エイーッ」と、彼は両手でノミを自分の頭の上に、真直ぐに翳しました。

「ザーッ」

たしかに手ごたえがありました。「ギャオーッ」という叫び声をあげた狼は、
血しぶきをあげながら、金兵衛の足元に、ばったりと崩れ落ちてしまいました。
狼は、金兵衛の翳した鋭いノミに、腹をえぐられていました。

そんなことがあってからというもの、鳥取砂丘には、狼が一匹もいなくなりました。

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