多鯰が池


岩美郡福部村に多鯰が池という大きな池がある。
松の植わった小島が目に付く周囲3キロばかりの池だが、池の北側は砂丘が落ち込んで、
水は澄んだ色を見せている。
そこには、地元の者なら誰でも知っている民話がある。

その1ツが“おたねさん”の物語である。

今の国府町宮の下あたりに、評判のいい心優しい長者がいた。
ある年のこと、福部村の細川という村から
“たね”という女が長者の家にやとわれた。
”たね”は色白で器量良しだったので、みんなから「おたね、おたね」と呼ばれ、かわいがられた。

冬になって、長者の家の者みんなが囲炉裏の周りに集まり話に花を咲かせていた。
誰かが「体が温まると何か冷たく甘いモノが食べたいなぁ」と言うと、それまで黙って聞いていた
おたねが「私が冷たくて甘いモノを見つけてきましょう」と言い、雪降る夜なのに気軽に外へ出て行った。
しばらくすると、大きなザル一杯に熟した柿を持って帰ってきた。
みんなは「まるで舌がとろけるようだ」と口々に絶賛し、
おたねに感謝した。

そんなことが度々あった。

ある日、「おたねさんはいったい何所からあんなにウマイ柿を取って来るんだろうなぁ」
「誰かが後をつけてみたらどうだろうか?」ということになった。
そうとは知らない
おたねは、湯山の池までくると、池の中の小さな島に泳ぎ着き、柿の木に登った。
するすると木に登るその姿は月光に照らされ、後をつけていた者の目にはっきり映った。
その姿は半人半蛇だったのです。驚いた彼は飛んで帰り、みんなに喋ってしまった。

自分の本当の姿を見られたと知ったたねは、それきり長者の家には帰らず、池の中に身を隠してしまった。
おたねがいなくなってから、あれほどさかえていた長者の家は、どういうわけか衰えてしまったという。

おたねさんは福を齎す“福の神”の一種だったのだろうか?


弁財天の社

池(水)に蛇の伝説があれば、弁天さまの伝説がセットになっているのが定説(^^;であるが、
多鯰が池にももちろん弁天さまが祀られている。
飢饉の時、雨乞いの願掛けを弁天さまにしたら雨が降り豊作になったという伝説もある。

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