★日本海新聞18年7月23日掲載「亀も空を飛ぶ」紹介文

自立する戦禍の子たち

  陸自のイラク撤退が始まりました。そのイラクの北でトルコの西にある、山岳地帯を中心にしたクルド地域(クルディスタン)の話です。
  舞台は二〇〇三年春、イラク北部クルディスタン地方の小さな村。イラン、イラク戦争、湾岸戦争などで荒廃したこの地方に、再び新たな戦争が始まろうとしている。この村では子どもたちが地雷を掘り出して仲買人の男に買ってもらっている。仲買人は国連の出先機関にそれを売るのだ。
  少年サテライトは、掘り出した地雷の値段交渉から、地雷撤去を依頼する地主たちとの交渉までを一手に引き受けて、子どもたちから慕われている。ある日サテライトは、難民の少女アグリン、赤ん坊のリガー、両腕のない兄ヘンゴウと知り合う―。この先は皆さんと一緒に見たいと思います。
  はるか昔の十字軍の戦いから今まで、戦争が日常的にあった人々がいたということ。そして、中東第四の民族でありながら、トルコ人、アラブ人、イラン人という三つの強大な民族の作った国々の間に分散して住んでいるということ。時にはその三つの国々の戦いで同属同志で争ったりもした。アメリカや旧ソ連からの気まぐれとも思える軍事支援は子どもたちが子どもらしく生きてゆくことには使われなかった。子どもたちは、ほとんど大人に頼ろうとしない。この映画の感動の一つは、子どもたちが何とか自分たちだけで生き延びようとしていることにあります。
  監督が言うには、アグリンはクルディスタンなのだそうです。この映画を撮る前に絶望的な気持ちになっていたが、イラクで手や足を失った男の子たちと一緒に映画を撮っていて、彼らからエネルギーとか、人生へのあふれるような情熱をもらったとのこと。子どもたちは強くて、一日を大切に過ごし、素晴らしい魂を持っている。クルド人は厳しい状況に適応するために、自分たちの文化の中に二つのことを保ち続けてきた。一つはユーモアで、冗談を言ったり笑ったりすること。もう一つはリズムが激しい、明るい音楽です。
  九日にプレイベントを行い、その資料と映画パンフレットを参考に紹介しましたが、やはり本編を見ないことには分かりませんね。

(米子シネマクラブ会員 宇田川靖) 



感 想 集

★「亀も空を飛ぶ」という一見不可解なタイトルと、何かを必死に訴えているような少女のまなざしが、強烈な印象を与えるポスターに心惹かれつつ鑑賞したこの作品は、たぶんこれまで見た映画の中で5本の指に入る作品だと思う。
  戦争映画や反戦映画は過去にも沢山あるが、この映画は2003年のイラク戦争前夜のクルディスタン地方を舞台に、「今、そこにある戦争」を描いているぶん、リアルで生々しい。
  この映画は2つのパートを持っている。ひとつは戦争孤児となった子ども達のリーダー格であるサテライトと呼ばれる少年と仲間達。干しだした地雷を買う仲買人に売って生活している。手足を失った子どももいるが、驚くのは彼らの実にあっけらかんとした明るさである。子ども達は生き生きとして、生命力に溢れて見える。
  もうひとつは難民の少女アグリンと、盲目の子どもリガー、両腕のない兄へンゴウの3人家族である。この家族は、戦争のもたらす悲劇を凝縮し、象徴的に描かれている。弟のように見える子どもが、実はイラク兵に蹂躙されて生まれたアグリンの子どもであることを知って愕然とさせられる。アグリンは子どもを殺し、自分も死ぬことによってその犯罪を断罪しようとする。
彼女の絶望と決意が、画面からひしひしと伝わってくる。しかし兄のヘンゴウは、妹の心情を思いやりながらも、祝福されずに生まれて来た子どもに愛情を注ぐ。このふたつのパートは、サテライトがアグリンに抱く好意と、ヘンゴウに抱く対抗心によってつながっている。
  そして地雷原に迷い込んだリガーを救おうとして、サテライトが負傷するという事件によって一体になる。アグリンはリガーを泉に沈め、自身は断崖から身を投げる。
結局生き残った者が、より多くの悲しみを背負う。両腕のないヘンゴウが、肩で涙を拭うシーンが忘れられない。このような体験をした子ども達は、将来きっと戦争のない平和な国をつくってくれると思う。(広田静子)

★余りに思い現実をほとんどリアルタイムで、作品に仕上げた監督に対して、又この作品に関わった全ての人達に何と声をかければいいのでしょう。力のこもった、心のこもった映像作品として印象に残ります。

★戦争の悲惨さの中でたくましく生きる子供達。いつになったら世界から戦争がなくなるのでしょうか。(63歳)

★今も世界各地で戦争をしている所があることを思い、そこでの一番の被害者は子供たちであることを思い知りました。今はとても切ない気持ちでいっぱいです。(米子市 57歳)

★言葉も出ない惨状でした。世界中決して有ってはいけない、無くしたいことです。観て良かった。

★観終わって何ともしばらく言葉が出なかった。立ち上がれなかった。事実は、このようなものではないだろう!あまりにも表現しつくせない事だけに子供を通して、そのほんの一部を淡々と描いたものであり、切り取ったということかもしれない。主人公の少年達の生き様は開高健の「アパッチ」を連想した。少女の瞳のなんとかなしげなこと。(女性 60歳)

★以前は素朴なイランの子どもの映画を見た。今回は悲惨な戦争映画。今はひどい時代になったものですね。元気な子供達に幸せを祈りたい。第2次世界大戦を思い出し胸が詰まってしまいました。(竹内すみ 80歳)

★痛々しさを感じました。戦争がなければ作り出されなかったであろう人々の境遇がつらいです。(米子市 34歳 女)

★イラクの実情の一端を見て苦しい程になった。なんという悲惨!私たちの受け取っている情報の貧しさ、片寄りを知らされた。(境港市 60歳)

★あー、すごすぎて書けない。

★悲しすぎる。でも力強い映画だった。大人は何をしていうのでしょう(伯耆町 47歳)

★地雷を仕掛けられた土地に住む住民の生活が如何に悲惨なものであるか、そしてその理由が何であれ、紛争が長引けばながい程苦しい生活を強いられるのは女、子供をはじめとする国民の弱者であること……時はすぎても日本の敗戦当時の状況とちっとも変わりはしないこと……貧しき故に辛苦の多かったことなど重ね合わせ、改めて「戦争」はあってはならない、してはならないことを認識したところです。(米子市 70歳 男)

★はじめはコメディぽくて、子どもがかわいいなあと思って観ていたけれど、最後かわいい子どもが殺されたりする場面になると、すごく胸が痛くて思い気持ちになりました。(米子市 32歳)

★何とも感想を伝えがたい。こんな現実もあるのかと平和ボケした頭には大変なショック! 仕事帰りにかけつけて眠くなることが多いのに、目を見張って最後までくいいるように、世界の片隅にある、現実を見つめ続けていた。(米子市 58歳 女)

★戦争の悲しさを強く感じた。幼い子供達が必死に生きていく姿に涙を禁じ得ませんでした。(米子市 67歳)

★戦争の犠牲になるのはいつも弱い子供、女性たちだという事がよく分かります。沢山の心身に障害を持った人達のケアは長い年月が必要だろうと思った。

★とても重たい映画でした。出演者が子供だけに痛い程悲しみが伝わってきた。戦争がもたらす悲劇でした。あまりに切なくてまだ胸がドキドキしています。(米子市 57歳)

★近代的なパラボラアンテナよりも、昔ながらの予言が正確だという面白い話でした。戦争の悲惨さを別の角度から見せられた映画でした。

★日本社会と全く異なる事象なれど必ずどこかでつながっている事実。子供の行為は大人の原因と結果の反映なのでしょう。(米子市 50歳代)

★痛々しい中でもたくましく生きる子供たち。不安を抱えながらあの状況のなかで正しい判断は出来ない。戦争反対。(米子市 70歳)

★こういう作品を見ると、どうして戦争がなくならないのかと悲しくなります。“これが現実”なんて冷めた目で見て語るのは本当につまらないことだと思います。

★いつの時代も戦争は子供を巻き込んでいくものだということを思い知らされる映画でした。背景の白い部分と字幕の白が重なって読みづらいところがあったので少し疲れました。(米子市 48歳)

★戦争の恐ろしさをもっと世界中に伝えなければ!(60歳)

★戦争になるということは、こういう事だ。新聞記事とかTVのニュースで知ることではなく、日常生活が悲惨なものに変わる恐ろしさを感じた。(米子市 48歳)

★家でゴミ捨て場で働く少女をTVで見てここに来てこの映画を見ました。しばらくつらい気持ちが続くと思います。(米子市 50代)

★淡々と描いてあり、重く苦しくなった。知らないことがたくさんあると感じた(米子市 32歳)

★暗い話なのに子供達が活発に生きているのには心が痛んだ。(米子市 41歳)

★ただ、悲しい(井山)

★やるせない

★重い映画だったが子どもにとっての戦争。大人以上にむごいきずをうける(米子 N:O)




      
[戻る]