★日本海新聞2007年8月24日掲載 「麦の穂をゆらす風」紹介文

戦争の悲劇、庶民の視点で

  緑豊かな草原に、麦の穂をゆらして風が渡っていく。一見のどかなアイルランドの田園風景。
しかしそこではイギリスの支配からの独立を求めて闘う、多くのアイルランド人の血が流されていた。
  物語は独立戦争から内戦に至る1920年代のアイルランドを舞台に、医師をめざす主人公のデミアンとその兄、アイルランド共和軍(IRA)のテディを中心に、仲間たちとの友情、裏切り、兄弟のきずな、情愛、そして悲劇を、庶民の視点から描いている。戦争は人々のささやかな夢や希望ばかりでなく命さえも奪ってしまう。
家族は住む家を失い、ばらばらになり、はては肉親でさえ殺し合う。平和というものがどれだけ多くの人の犠牲の上に成り立っているのか、あらためて考えさせられる。
  戦後、多くの戦争をテーマにした映画が作られた。戦勝国を英雄視し戦争を美化するものもあったが、戦争の悲惨さ、非人間性を告発し平和への願いをこめた、ヒューマニズムを根底とする作品も数多く作られた。
戦争がいかに愚かな行為であり、それがたとえどのような美辞麗句によって飾られようと、破壊と暴力でしかないことを多くの映像作家たちが訴えた。
そして数多くの名作が生まれ、監督たちのメッセージは人々の心に深い感動を与え、共感をもって迎えられた。その伝統は今も絶えることなく受け継がれている。
  特に最近では、静かなる反戦映画と言われる『硫黄島からの手紙』、イラク戦争の現実を突きつけた『亀も空を飛ぶ』(米子シネマクラブ上映作品)、ルワンダ内戦を描いた『ホテル・ルワンダ』(同)など、質の高い作品が世に送り出されている。
  今回の『麦の穂をゆらす風』は、一貫して労働者や移民などの庶民の立場に立った映画を作り続けて来た、社会派ケン・ローチ監督(英)の2006年度作品。カンヌ国際映画祭で絶賛され最高賞パルムドールを受賞した。
  しかし、いくら世界的に高い評価を受けても、コマーシャリズムにのらない作品は地方都市ではなかなか上映されない。
そのような作品を掘り起こし上映する活動は、各地で草の根運動として続けられている。
  これは志半ばで戦禍に倒れた若者たちへのレクイエムであると同時に、現代に生きる若者とその家族たち、そして全ての平和を願う人たちへの熱いメッセージである。

(米子シネマクラブ会員 広田静子) 



感 想 集

★銃を持てば人間はこんなにも変るものか。冒頭のシーンで、イギリス軍がやっているのと同じ事を後半にやったし、兄弟や友人まで殺してしまうし。いっその事、日本がこの間までやった戦争みたい降伏してしまえば、次の一歩を進められたのか?自由ははたして本当に自由なのか?(宇田川靖)

★悲惨なアイルランド、でも戦争をした国ではどこでもたくさんな悲しい、苦しいことがあったことだろう。日本も本当の意味で独立したい。(伊地知典子)

★アイルランドに行ってみたいと思ったが、はかない夢。(坂本義文)

★“いったい何の為に?”そんな疑問ばかり浮かびます。本当の自由を得るために…自分の愛する人の為に、いったい何を守りたくて、何をえたかったのか、何が正しくて、何が間違っているのか…。それが分からなくなる戦争。(縄)

★余りにひどいviolenceに途中で退出しようかと思いましたが、最後まで観てよかったです。ひどい現実ですが、こういった歴史から目をそらしてはいけないと思いました。(28歳)

★人間の尊厳と愚かさがしっかりと描かれていましたね。戦いはどんな理由があるにしても決して赦してはならないと改めて感じました。(T.O)

★あぁー。悲しい。人間って悲しいですネ。(54歳)

★同胞で現在に至るまで戦いは続き、先月英国軍が引き上げたとのニュースを聞いたばかりだった。戦いは何も生み出さないと分かっているのになぜ戦うのだろう。(米子市 60歳)

★何ともやり切れない。アイルランドとブリテシュとの交戦はつい数年前まで続いていたと思う。この戦いの意味を繰り返し観ながら考えようとするのだが、むなしい悲しみがわきあがってくるばかり。人はこのようなことを繰り返す業を負っているのだろうか?いまも繰り広げられている戦争を思いながら、そしてこれからこの方向に向かうかもしれない日本を思った。(女性 60歳)

★アイルランドの歴史が学べて良かった。“人間の尊厳”を考えさせられた。“誰の為に戦うのか”“何の為に戦うのか”同士だった兄弟も最後には殺しあう羽目になるとは……いったい何の為に人は戦うのでしょうか(M.I.)

★内容がもう一つつかめぬまま、なんとか内容をと苦労した。まじめに事前研究に参加する必要を感じています。

★争いは人間の残虐性を露呈させるだけだと思った。本当の憎しみもない弟をも射殺しなければならなかった戦争のなせる力は恐ろしい。(米子市)

★ちょっとむずかしかった。戦争は今も続いている。殺し合いは絶対にやめなければいけない。最後のシーンはとても悲惨だった。(米子市 60歳)

★この映画に関わった人たちの強い思いは映像を通して伝わってはきますが、“とてもよかった”とか評価をするのは難しいです。見終わって何ともいえません。感想を話すような作品ではないです。言えば人事(ひとごと)のようになってしまうので。一人で静かに考えたいです。

★IRA成立の歴史でしょうか。こんな映画を観るときはやはり時代背景をきちんと踏まえてからでないとダメかなと思いました。重い映画でした。(59歳 女)

★色々な戦争がある。「何の為にたたかうのか?」「自分は正しいのか?」しかし、自分の友人、家族と戦う程、悲しい戦争はないと思えた。(米子市49歳)

★どの国でも戦争とは悲しみだけですね。

★とてもやるせない思いです。平和の為の……。平和より非戦を!

★同じ人間同士なぜ戦争するのか?悲しいことです。戦争は絶対してはいけない、結局人間の殺し合いじゃないですか。

★社会のしくみ、人間の誇りが、平穏な暮らしの邪魔をする…じれったくなるほどの憎み合い、こだわり合いですが、歴史の事実である以上、目をそむけてはいけないのですね。本当に「誰のための戦いか…」と思います。この時代にマイケル・ムーアがいれば…。武器を持っている男たちに「生産しろよ!」と言いたくなりました。ままならないんでしょうけど。(伯耆町 48歳)

★いつもありがとうございます。戦争映画は、いつも深い演出がなされていて何も感想等が言えない気持ちになります。

★見終わって「ああ見たくなかった」と思うくらいシンドイ映画でした。感想など話したくないとも思いました。それと同時に、私はアイルランドの紛争について何も知らなかったことを知りました。今回の映画は恐らくその写実性から事実に近い姿であるのでしょう。この映画に見られるように名もない普通の人達が不当な武力に立ち向かう姿は、かつてナチスが侵攻した国々の姿であり、日本が侵略した国々の姿であり、今イラクで現実に起こっている状況でもあると思い至りました。そして、それらがどのような事実であっても、それから目をそむけてはならないと思います。事実を知ることが無ければ、何も始まらない。仲間を処刑したデミアンが恋人を抱いて泣きながら「もう僕の心は何も感じなくなってしまった」と泣く場面に、かえって戦争のむごさを強く感じました。(都田悠子)

★観終わって悲しく切ない気持ちになりました。イギリスとアイルランドの関係に詳しくありませんが、日本もこんな感じで中国や朝鮮半島を制圧していたのだろうかとか、現在も世界のあちこちで行われているテロや民族紛争も同じだとうかと考えさせられました。(田中英治)

★今回はアイルランドの紛争について勉強になりました。戦争のそして暴力の持つ問題。暴力は暴力を生む。そしてそれは現代の世界にも終わり無く続いている。暴力では決して平和は持たらされないことを改めて考えさせられた映画でした。(米子市 52歳)

★何の為に人は戦うのか。命は重いし、うばわれてほしくない。自由な現代に生まれた私は幸せだと思う。救いがないラストシーン、それがあの時代の現実だったのだと思う。

★良いと聞いて入会までして見ましたが、射殺シーンや、拷問のシーンが多く、途中で気分が悪くなり退席しました。(吉村 郁)

★人間が怖い。

★初めから重い映画だった。ずっと胸が詰まったようなしんどい時間を過ごした。(米子市)

★現在でもテロを初め戦いが絶えない。嫌な時代なので、この映画は重たくて、辛い映画です。






      
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