★日本海新聞2008年2月17日掲載 「善き人のためのソナタ」紹介文

壁の向こうで何が起こっていたのか?

  のっけから変な質問をお許し願いたい。ポケットにはわずかばかりのお金。映画を見に行くか、それとも昼飯を食べに行くか。
あなたならどっち? ちなみに私は……。
  壁崩壊前の東ベルリン。国家保安省局員のヴィースラーは劇作家と、その恋人の女優が反体制である証拠をつかむよう命じられる。
成功すれば出世が待っていた。早速、盗聴器を通し、彼らの監視を始める。
聞こえてきたのは、自由な思想、愛の言葉、文学、そして美しいソナタ。
それを聴いたとき彼は、生きる歓びにうち震え、今まで知ることのなかった新しい人生に目覚めていく。
  監督は三十三歳のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。
彼は監視国家の真実を探るため、関係者への取材、記録文章のリサーチなど四年をも費やしたという。
アカデミー外国語映画賞ドイツ代表。ロカルノ国際映画賞の観客賞など。ドイツ映画史上、“最も素晴らしい作品である”と賞賛された。
  思えば、人間というものは壁を作りたがる。壁の向こう側とこちら側では別な世界が存在し、容易に越えることはできない。
しかし、この主人公のように芸術の力によって心の壁を越えることだってあるのだ。
そして、いつしか壁を越えたいという意志が寄り集まって大きなうねりとなり、ベルリンの壁の崩壊をもたらしたことは歴史的事実なのだ。
  さて、最初の質問に戻ろう。ちなみに私は映画だ。
一食のために出会えたはずの、生きていくための元気、勇気―などとの出会いを失いたくはないからだ。
芸術は腹を満たすことはできないが、心を満たすことはできる。
映画を見ることは、日常のなかの「壁」を越えることに似てなくはないだろうか?

  

(米子シネマクラブ会員 添谷泰一) 



感 想 集

★盗聴・密告社会の恐ろしさが伝わってきた。自由の内で最も重要なものは精神の自由だと学生の時教わった。精神の自由のない社会に生きる厳しさがひしひしと伝わってきた。それにしても最後まで真実をかくしたまま、地味な仕事を続けたヴィースラーの生き方も感慨深い(命がかかっていたのもあるが)。直接の接触は無かったが、著書の中で呼びかけた言葉に男の友情の様なものを感じる。あの時代を生き抜いた者どうしが分かりあえる感情だろうと思う。(高松知恵子)

★スバラシかった。薄っぺらい東批判でなくて‥‥。芸術、人間性、自由など考えさせられた。(伊地知)

★善悪を出来ない東西ドイツの話。西側になって良かったが東側だったらどうするか。(坂本義文)

★都会に住む友人から1年前に、いい映画なので是非観るようにと勧められていました。アンケートでトップに選ばれ、今日の例会を待っていました。期待通りの作品で、ラストの「謝辞」を見たときは涙が溢れてきました。現在の盗聴、追跡装置は高度になっていて、こんなものではないだろうと思いました。個人保護法が進んでいる中で、それ以上にプライバシーは守られていないのではないかと不安になったりしています。(M.T.66歳)

★ファシズム国家の恐ろしさを描写した映画。現代の日本でも存在しているかも知れず、もっと多くの人に観てもらいたい映画。(S.M.68歳)

★どんな体制下でも人の良心は強いものだ。感動させられた。けど自分自身はどうなのか、これからの課題です。

★人間の考えは善と悪がかならずあり、どちらにもなってしまうものですネ。かわらない人間でありたいものです。人の心の中にひそむ恐ろしさを感じました。(55歳)

★感動した。大尉がどの瞬間に人の心に気づいたかゆっくり、ゆっくり思い返してみたい。そろそろ脱会と思っていたが、思い返すことに‥‥。(米子市 60代)

★戦争によって分断された国の悲しみを感じる。周囲の不信と疑いの中で主人公の行為に暖かい人間的な心を知ってほっとした。(米子市 61歳)

★キャスト、内容、音楽等々、大変よく作られていた。現代においても、この社会において、少なからず同じことが起こっている。ヒューマン(善)が人間にとって最後のとりでだと思う(米子市 50代)

★権力に携わる者に対する批判の自由が制度として保障されることが真に必要と感じさせられた。何が彼を立ちなおらせたのか。人間性(良心)か。最後は良心に帰着するかも知れない。(67歳)

★国の体制により、人の一生が左右される事の恐ろしさを感じた。その中で、音楽が果たした役割は大きかったと思う。どんなに厳しい体制の中で仕事をする人自身をも、真の人間にかえしたのだから‥‥。(米子市 69歳)

★期待以上に良かったです。ここ数回のうちの一番秀作だと思います。楽しいだけの映画でなく、歴史などを知るきっかけとなることは、映画がもたらす最大の産物の一つだと思います。(米子市 女性)

★深い「おもい」が折り重なったすばらしい映画だったと思います。権力は腐敗すると言いますが、社会主義の国は、そうだったというだけでは片付けられない問題だと思います。大切なのは制度ではなく、品性と心の自由だと思います。最後までドキドキする、すばらしい作品でした。(伯耆町 48歳)

★第2次大戦後、国が分断されたドイツの悲劇は、現在なお二分されたままになっている南北朝鮮半島の国民的悲劇と何ら変わりはしないだけに、仮にも大戦後の日本国も分断されていたら‥‥と思いをはせると、国民の意志ではどうにもならない国家的悲劇を生み出す危険性があることを改めて思い知らされた‥‥。そんな思いを重ね合わせての2時間15分でした。(米子市 71歳 男性)

★社会主義国家の東ドイツでは、盗聴器までしかけられて本当に大変でした。でもそれをうまくかわしてくれた恩人がいた。体制は違っても人間の心は通じるものがあると思いました。心に残るすごくいい作品でした。

★最後に本を買うシーンが良かったです。「感謝をこめて HGW XX/7にささげる」が良かったと思いました。(米子市 34歳)

★当時の東ドイツが20数年前と思うとゾッとします。でも、現在おかしいことをおかしいと言えない自分もいる。(米子市 30代)

★社会主義と芸術とか、そういうコメントはともかく感動しました。良かったです。(60歳 女)

★良い映画だった。感動である。スパイが善人になって最後まで善き人で貫いたところが‥‥。(映画好きな50歳 女)

★ドイツの景色、音楽はじめて!(62歳)

★久しぶりに、じっくり「ええなあ」と思う映画でした。(米子市 50過ぎのおばはん)

★東ドイツが監視社会であったことは驚きでした。戦前の日本の特高警察を思い出させます。とても良く出来た映画です。感動しました。(米子市 56歳)

★見ごたえのある映画だった。ラストの厳しい生活をしながらも眼の輝きが胸に焼きついた。なお、この映画に関したプレイベントで東ドイツの歴史やソナタについて(聞いたのが良かったです)。(青い蝶)

★社会主義国に値しない社会主義国の暴挙が二人の男を通して、ひじょうに冷たく告発されていた。ただ残念なのは「善き人のソナタ」が、もう一つ鳴り響かなかったこと。(終りの字幕の際には結構鳴っていたのにナ)(米子市 60歳)

★いつも真のある作品を有難うございます。

★結末に救われました。重い内容なのでどうなるかと思いました。

★魅力的な作品は最初の5分間で決まる。その通りの緊迫感溢れる出だしで、ハラハラドキドキでした。ラストは、こうあって欲しいと願う設定、調和。甘すぎるかなとも思いますが、カタルシスはありました。

★壁が崩れる3ヶ月前のベルリンを訪れたことや、東ドイツ出身の知人がいて、とても興味深く見ました。ありがとうございました。ヴィースラーの気持ちが変わっていく過程が今一つよく描かれていない気がしました。(中田裕子)

★決して派手な作品ではありませんが、味わい深いいい映画だと思いました。また、ラストシーンがすごく感動的でした(ハリウッド映画にないような終わり方)。切ないながらも温かい気持ちになりました。「この一言しかあり得ない」という台詞が最後に用意されていました。(田中英治)

★最初の方はよく理解できなかったけど、終りの方は迫力があり良かった。それにしても権力はおそろしいものだと感じた。(松本正巳)

★後半になるほど、やり取りがわかってきてひきこまれた。(54歳 女)

★ベルリン崩壊以前の東ドイツの事情が解って良かった。そして映画もスリルがあって良かった。(R.H.)

★いい意味で予想をうらぎられつつ楽しめた。

★ラスト、泣けました。

★東ドイツ、西ドイツの対立がよく理解できた。東西の人々の苦悩もよく解った。

★権力に屈せず、純粋な行動力に胸を打たれました。(土井)

★手堅い構成の作品で、安心してみれた。東の崩壊の時期の一側面をしっかりととらえられていた。東側に居たら自分も権力にとりすがるかもと思うし、かつて日本もそうした側面を持っていた時期もあった。自殺は社会主義でのみ多いのではなく、現在の我が国においては主義の理由はとらないが、実質自殺者は増えている。(女性)



      
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