さあ、春です。何か始まりそうな予感です。 よく映画の話をする時に、まだ観てない人のためにその映画の面白さを説明するのに、まず物語で説明してしまう事が多い。 でも、極端に言ってしまえば、言葉で説明できてしまうものって、何も映像である必要は無いわけで、活字である小説や語る事によってドラマが進行していく舞台とかでもいいわけである。 では、映像で語る映画とは、どんな作品なのか。 それは、映画全体の零囲気とか観る者の感覚を刺激する物という気がする。 私自身前は、映画に対して骨太なテーマ性やら人間を鋭く描いた作品こそが、素晴らしい映画(最初に理屈ありき)たる物と思っていたけど、 今は、「なんだかワケ判らんかったけど、この映画面白かったわあ。」と言わせしめる力技の映画の方が、より映画的な魅力に満ちているのではないかというような気がしているんですが。 主人公の女の子は、東京の大学に進学するため北海道から上京してくる。 が、彼女が、東京へやって来たそもそもの理由は、憧れの先輩に会うためだったのだ。 岩井俊二の脚本、監督による『四月物語』は、こんな話である。 では、この作品は、そんな恋愛モノの映画かというとそういうたぐいの作品ではない。 四月という日本独特の季節感が主人公といったほうが正しいと思う。 桜、入学、引越し、出会い、といった四月的な行事を踏まえながら、人生の新しいスタート。 これから何かが始まっていく様な新鮮な予感といったものが、台詞でなく映像を主体として語られていく。 岩井作品は、『ラブレター』でもそうだったが、誰でもが入り込み易いストーリーをレールに引いて、実はちょっと違うところに彼の狙いは存在しているというのが彼の独特のスタイルである。 この『四月物語』にしろ、『ラブレター』にしろ、観終わった後、作品の余韻が心の中で静かに広がっていって、何とも心地が良い。 そうした、新しいさわやかな風をぜひ感じて頂きたい。
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