心は、ときどき立ち止まる 映像メディアの新たなる革命になるか。岩井俊二監督最新作「花とアリス」 数年前からスーパーやコンビニなどで、人気を博している「食玩」に5月から新商品が登場した。 DVD付チョコレートである。ネスレが、キットカット発売30周年を記念して作った¥300の「食玩」である。 DVDには、鈴木杏と蒼井優を主役にした恋愛ドラマのメイキングが収録されていて、ドラマの本編は、インターネットで公開されているという仕組み。 このインターネット上映というメディアも斬新な試みではあるが、この点について触れていると紙数が足りなくなるので、そろそろ本編の話に入ろうと思う。 ストーリーは、二人の女子高生それぞれの初恋物語。(なんか簡単すぎるストーリー紹介だが、16分の短編フィルムなので、そんなに凝ったストーリー展開ではない。) この、キットカット食玩シリーズは、全3期の構成になっていて、第1弾が冬の話、第2弾が春の話、第3弾が夏の話になる予定だそうだ。 そうした少女達の揺れ動く心情を、それぞれの四季を背景に(秋はどこで出るのか、たぶん・・・!)ノスタルジックに描いていく「花とアリス」。 監督は、この手の映画を撮らせたら右に出るものはいないのではと、思わせるくらいの達者な演出の岩井俊二。 本作では、脚本も音楽もCM用のクリップも彼自身の手によるものだ。「ジャムフィルム」の「ARITA」や編集監督を手掛けた「六月の勝利の歌を忘れない」で、消化不良を起こしていた方には、本作はど真ん中のストライク作品である。 冬の寒空の空気感、白い息とまばゆい朝陽。通学の生徒達で溢れている田舎町の駅のプラット。 誰もが遠い昔に、どこかで目にした様な懐かしい光景が、この作品の主役であると僕は思う。 それは、風景自体を懐かしむのではなく、その風景を観ていた自分の気持ちを懐かしく思い出すための作業ではないか。 二人の女子高生は、その思い出の旅の案内人なのではないだろうか。 BGMは、今をときめく宇多田ヒカルでも平井堅でもなく、クラシカルなメロディー。好きな彼氏を隠し撮りするのは、写メールではなくカメラ。今時の女子高生を主人公に置きながら、このピュアすぎる初恋物語は、「現在」を描こうとしているものではないような気がする。 「リリィシュシュのすべて」で、リアルな中学生の心情を描いた岩井監督が、「花とアリス」では、古き良き時代の青春映画に帰還している。 それは、どんなに時代が流れようが、どんなに十代の少年少女の気持ちが複雑になろうが、心の奥底は、なんら変わるものでは無いということを描きたかったのかなあとこの短編を観ていて感じた。 「リリィ」が、「青春時代の思い出の闇」の部分を描いたものなら、この「花とアリス」は、「まんざら捨てたものではなかった青春時代の思い出」を描いた作品であると思う。 「花とアリス」上映サイト
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