「古き良き時代  私の愛した日本映画!
       クエンティン・タランティーノの問題作<キルビル>を斬る」

 この映画には、この監督の愛したいろいろな日本映画が2,3分に1度くらいの割合で登場する。
 これは、正統なアクション映画にあらず。一時期コメディ映画のジャンルで、パロディ系のコメディ映画が流出したが、(「フライングハイ」や「ケンタッキーフライドムービー」、「裸の銃を持つ男」等。)あのジャンルに位置する作品として見た方が楽しめる映画である。
 タランティーノと私は、同い歳である。タランティーノのオマージュは、主に日本映画が活気のあった頃の時代の作品が多い。
 特にラストの雪の庭園の対決シーンは、ルーシーリューの藤純子さんばりの役作りもさることながら、セットの作りや照明の当て方まで、東映黄金期の絵作りそのものだ。
 これを「外人」が撮ったなんて、今の日本の映画監督はいったい何を先輩達から学んだのだと悔しいくらいだ。
 私なぞこうしたシーンを見せられたら、それまでの現代の日本の描写がおかしいなどというような、当たり前の批判などねじ伏せられてしまった。
この映画にみる日本映画の傑作達は、そのほとんどが名作とは言われない、繰り返しTVや映画雑誌のクラシックの特集などでは取り上げられないB級と言われる、半ば埋もれてしまっている作品群だ。
 それらの多くは、人々に感動を与えるような大きなテーマを持った作品ではない。軽やかなフットワークで、観客達に一瞬の現実離れした世界を魅せるための娯楽映画である。
 黄金期の日本映画には、確かに勢いで作ったような駄作も多い。名作として残されるような、その年の映画のベスト10ではなく、意外と11位から20位くらいまでの作品に拾い物があるのではないか。
 私が、小学生の頃が日本映画の最盛期の最後の辺りだったと思うが、あの頃は米子の街中のいたるところに映画のポスターが貼ってあって、
子供ながらに「お竜さんの映画ってどんなんだろうなあ?」とか「千葉真一って強そう!」なんて思いながら、朝日町にそびえる2階建ての朝日座を見上げながら、「観たいなあ、観たいなあ」って銀幕のスター達に憧れたもんでした。
 「キルビル」のエンディングロールで、名曲「怨み節」が流れた時にはしてやられたと思った。日本映画の黄金期の主題歌の名曲が、「映画館」で体験できるとは。
 しかも、私の少年時代の思い出を甦らせたのが、この外人の撮ったへんてこりんな映画だったなんて。
 でも、日本映画に対して100%の愛情のこもった、懐かしくも嬉しくなるようなハリウッド製の日本映画でした。


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