「ある撮影監督の死」 6月22日、僕が日本映画界の中で一番大好きなカメラマン、篠田昇さんが、肝不全のため亡くなった。享年52歳。早すぎる死だ。 篠田さんは、1978年に、東陽一監督の「サード」で、撮影助手として参加。 85年に、相米慎二監督の「ラブホテル」で撮影監督として本格的なデビューを飾る。 以後、井筒監督の「宇宙の法則」や利重剛監督の「ベルリン」、天海祐希や金城武、豊川悦司の共演で話題となった「ミスティ」など、大作、話題作で活躍。 だが、彼の名前を決定的に世に知らしめたのは、岩井俊二監督とのコンビネーションだったと思う。 「ラブレター」でのソフトフォーカスとハンディカメラの多用、ゆっくりと撮影された長回しによる映像空間は、心に染み渡る叙情性を演出していた。 「スワロウテイル」でのスピーディーなカット割り、「四月物語」での雨の美しさ、「リリィシュシュのすべて」での新技術のカメラによる映像的な挑戦。 そして、岩井監督との最後のコンビ作となった「花とアリス」では、登場人物達の心情を上手く風景と同化させていたと思う。 篠田さんの映像の魅力は、「いつか見た懐かしい風景であるとか、その時の色彩」なのではないかと思う。 それは、「その場面に出くわした事がある」とか、「どこかの場所に似ている」とかいったものではなく、 そうした「空気や匂いのようなもの」が、どこか懐かしさを感じさせてくれるのである。 ある意味、自主映画の映像のような温かさと手作り感に似ていると思う。 そんな篠田さんの映像を、新作をもう観れないんだと思うとひじょうに残念だ。 が、篠田さんの仕事についた幾人かの撮影助手の人が、おそらく篠田流映像マジックを継承してくれるだろうし、 なによりアーティストは、その仕事が後世にまで形として残っていくというのが、アーティスト冥利に尽きるというものだろう。 遺作となった行定勲監督の「世界の中心で愛を叫ぶ」は、個人的には好きな作品ではないけれど、篠田さんの手掛けた作品の中では、 最大のヒットとなり、たくさんの人の目に篠田さんの映像が、インプットされたという意味では、ファンの一人としては嬉しい限りだ。 でも、僕が最後に篠田さんに贈りたいメッセージは、やはり映画「ラブレター」のクライマックスで、 中山美穂が朝の雪山に向かって叫ぶあのひとことなのである。篠田さん、お疲れ様でした。
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