松江藩札の概要

　延宝2年（1674）6月、松江地方では豪雨による大洪水が発生、氾濫した濁流は城下一帯へ、松江城は三ノ丸まで浸水、孤立しました。このとき家屋の流失1450戸、死者229人と記録に残っています。藩ではその歳入欠損を補うため幕府に届出をし、延宝3年（1675）藩札を発行しました。これは山陰地方で最初に出された藩札で、全国に見てとても早く発行された札の一つでした。ただ、この札は資料がなく詳細がわかっていません。
　新修島根県史には「まず札座が設けられ、延宝3年5月頃から札銀が発行されるようになった（中略）翌年には早くも偽札が現れるなどして著しく貨幣価値を低めた」とあり、松江市史にも「最初の札銀発行は延宝3年のことであって、その前年たる延宝2年は大水害のあった年なので、松江藩札は実にその結果であった」と書かれていますが、延宝6年（1678）松江城下の火災で記録が消失してしまい、どんな札であったのか、どのような経過で制作されたのかなど詳細が伝わっていません。また鳥取藩のように藩札に干支や年代が書かれていないため、今まで研究されてきた文献でもある程度推測に頼っているのが現状です。
　この山陰最初の藩札も約10年後の貞享３年（1686）札騒動が起こっています。これは、紙質が劣悪なため藩札が破れるなどし信用が低下、物価が高騰したためと言われています。
　また、広瀬・母里藩は松江藩の支藩として松江藩より1世紀以上後に銭札を発行しています。その他、この地域の特徴として連番札という独特の様式の札が使用されていました。これは藩札の信用が低かったため裕福な商人が自分の土地を担保に札を発行していたのです。　
　隠岐地方は松江藩預り地でしたが幕府領のため松江藩の藩札ではなく私札が主に使われていました。