モンスターペアレント問題 「子どもの幸せ」を
地域支援体制の重層化図れ
本当に起きたこと
「モンスター(怪物)ペアレント」が学校に出没している。学校への利己的
で理不尽な要求に熱中する保護者のことだ。その虚偽の告発がいかに恐
ろしいか。2003年に起きた事例が象徴する。
『稀代の鬼教師か、冤罪か』(「中央公論」06年1月号)、『でっちあげ:福
岡「殺人教師」事件の真相』(近著)を報告した福田ますみ氏らによれば、
小学生の親の虚偽の告発によって「いじめ教師」に仕立てられた担任が、
日刊大手A紙や後追い各紙、週刊B誌の「殺人教師」報道とワイドショーな
どのマスコミから袋叩き。市教委による研修と停職6カ月の処分に加えて、
民事告発まで受けた。原告側弁護士550人対被告側は当初0、学校も市
教委も原告追認のなか、原告側のねつ造が暴かれ、07年3月、原告敗訴
が確定した。久留米大精神神経科医師の診断書によるPTSD(心的外傷
後ストレス障害)を理由とする5800万円の損害賠償請求も棄却。本件では
教師が奇跡的に勝訴したとはいえ、こうしたケースから教師を守る体制の弱
さを改めて浮き彫りにした。
愚痴を繰り返して授業が始まっても教師を教室に行かせない。しつこい電話
を毎日かける。深夜、「飲食店へ出てこい!」と脅かす。暴力団組員による行
政対象暴力的なクレームも。授業妨害するわが子の問題行動の正当化、わ
が子への特別待遇を要求する形からエスカレートして、校長、教育委員会な
どに問題を持ち込む。そのしわ寄せは、教師に集中する。
文科省の委託で昨年(2006年)7〜12月に行われた教員勤務実態調査に
よれば、全国の公立小学校教員の75%と中学校教員の71%が「保護者や
地域住民への対応が増えた」と答えた。「授業の準備時間が足りない」と嘆く
教員も、小学校78%、中学校72%に上る。重圧から心を病み、教職を辞する
教師も後を絶たない。教師の自衛手段も進む。東京都の公立校の場合、個人
で訴訟費用保険(教職員賠償責任保険)に加入する教職員は、2000年の
1300人から07年には2万1800人、3人に1人となった。
しかし果たして、教師を“生け贄”にすれば済むのか? 「問題親」の特異な
例に矮小化しても解決策になるまい。学校に限らず社会保険庁や市区町村
役場、警察、旧国鉄、郵便局など公務員全体の職場への不信感が背景に介
在するのも否めまい。「統治」機関として出発した公務員組織が「サービス」機
能を期待されている。親や教師への「友達感覚」の深化もあろう。親や生徒が
「敬意を払ってくれない」との教師の嘆きの裏に「人間性」でなく権威・権力の
要素が根強いなら「ないものねだり」に等しい。問題の根は深い。
支援チームを結成
教師にしわ寄せするだけでなく地域社会で取り組むため、教育再生国民会
議は本年(2007年)6月1日に決定した第二次報告で「学校問題解決支援チ
ーム」の設置を求めた。この方向に添って文科省の池坊保子副大臣(公明党)
は副大臣会議で、モンスターペアレント対策に取り組む姿勢を表明。各教育委
員会では、医師や警察・教師OB、臨床心理士ほか多彩な人材による支援チ
ームや教員研修などの対応に着手した。学校協議会のような組織を通じて連
携の重層化を促す方向も大切だ。生け贄探しでなく「子どもの幸せのための教
育」豊穣化へ、親も教師も地域社会も英知を結集しなければならない。
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