過疎化の悪循環に歯止めを
中山間地の再生は国の重要課題
集落消滅に危機感
先の参院選では農山村を多く抱える「1人区」ショックが与党を襲った。
世界を覆うグローバリズムの潮流に対抗するため、企業や金融機関の体質
強化を支援してきた政府の改革路線は当然だったが、中山間地や過疎地
を重視し、地域社会の安全・安心を図る政策が十分、浸透していなかったこ
とは認めなければならない。
総務省の2005年度版「過疎対策の現況」によると、過疎地域は人口では
全国の8・9%(約1125万人)だが、面積では54・0%(約20万4000平方
キロメートル)と国土の半分以上を占めている。これらの地域は人口減少、
高齢化、財政難などの打撃を受けている。政府はこれまで、国土保全や生
活環境の格差解消に取り組んできたが、一層加速しなければならない。
これらの地域では高齢化が深刻だ。過疎地では65歳以上の高齢者比率
が27・1%と全国平均よりも約10%高く、逆に若年者比率は14・4%と6%
近く低い。
高齢化が進む一方で、若年者の比率は低下の一途。この影響で、過疎地
域の集落では冠婚葬祭や耕作に支障を来すところも増え続けている。国土
交通省のアンケート調査(04年)によれば、全国の約2割の市町村が「集落
消滅の可能性がある」と回答している。また、同省の調査(06年)では、こう
した機能を維持することが困難になっている集落は、2900以上に上るという。
人口構成の変化とともに、所得の低下や財政力の低迷で、小・中学校や、
病床数の減少など、教育、医療・福祉面でも大きな不便を強いられている
地域は少なくない。過疎に伴う生活の不便や行政サービスの低下が新たな
過疎を生むという悪循環に歯止めをかけなければ、地方の活力は減退して
いく。中山間地は国土保全や環境保護に寄与しており、その機能の低下は
国力の衰えにもつながる。
過疎の進行に歯止めをかけるため、政府は産業振興や生産基盤の整備な
ど多方面の対策を進めているが、期待されるのは都市との連携だ。都市住民
による田舎との出会いや観光など、グリーン・ツーリズムが脚光を浴びている
が、交通の拠点づくりや受け皿の整備が求められている。
地域にある木の葉や花を商品化した徳島県上勝町の「成功」はよく知られ
ている。知恵と工夫でビジネスチャンスが生まれた事例である。どのように
都市とつながり交流していくのか、自治体の取り組みを支援する態勢が必要だ。
都会に出た団塊の世代と残された過疎地域を結ぶことも大きな課題である。
「豊かな自然のなかでの生活や子育て」のため、過疎地に転入する人も少な
くない。職業のあっせんや相談窓口の整備も課題である。
移転、再編の試みも
さらに集落の孤立化を防ぎ、行政サービスの提供を図るために集落の移転
や再編も進められており、活力ある集落形成に期待がかかっている。
これからの日本は、「世界市場での競争に勝ち抜く」ことを重視した国づくり
とともに、「地方分権」を進め、安心して暮らせる地域社会の形成を急がなけ
ればならない。
ただ、高度成長時代のように、増え続ける税収を地方に回すことは難しい。
都市部やアジアとの結び付きを強めながら、過疎化を防ぎ、地域の活力を高
める取り組みが求められている。
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