裁判員制度 運用へ細部まで目配りを
PRアニメも登場。進む啓発活動
実施まで2年切る
戦略は細部に宿る――これは、小泉政権下で構造改革路線の推進役を
果たした竹中平蔵・現慶応大学教授が、著書『構造改革の真実 竹中平蔵
大臣日記』の中で用いた言葉だ。大改革を成功させるにはグランドデザイン
がしっかりしているだけでは不十分であり、制度運用上の細則にまで目を配
る必要性があることを説いている。
この指摘は、戦後最大の司法制度改革の柱の一つとして2004年5月に
成立、約2年後の2009年5月までに施行が予定されている裁判員制度に
も当てはまる。
欧米の先進民主国家では国民が裁判に主体者として参加することは当然
の権利と考えられ、そのための制度である陪審制や参審制がしっかりと根
付いている。裁判員制度は参審制の日本版であり、3人のプロの裁判官と、
有権者名簿からくじで選ばれた6人の裁判員の計9人が一緒に刑事裁判に
臨み、証拠調べから有罪無罪の決定、さらに有罪の場合は刑罰の重さも評
議で決めて判決を下すことになる。
裁判員制度の対象になる事件は、「法定刑が死刑または無期懲役・禁固
の事件」と「故意の犯罪行為で被害者を死亡させた事件(一部例外あり)」。
殺人罪や傷害致死罪などの重大な事件であり、昨年(2006年)の統計で
見ると全国で3111件(全刑事事件10万6016件の3%)になる。これを基
に、国民が裁判員(補欠要員である補充裁判員も含む)に選ばれる確率を
最高裁が計算したところ、裁判員は年間約3万人必要になり、全国平均に
すると年間、国民4160人に1人の割合となった。
裁判員になるのは国民の義務だが、法成立から間もない時期の世論調査
などでは、「自信がない」「人を裁けない」「仕事が多忙で無理」などの理由で、
裁判員制度に対して消極的な意見が大半だった。しかし、政府を先頭に最高
裁、検察庁、日弁連の法曹三者が地道な啓発活動を続け、法務省もこのほ
どPRのためのアニメを制作した。世論調査ではまだまだ積極派が多数を占
めるまでにはならないが、認知度は高まるなど一定の成果も表れてきている。
また、最高裁の働き掛けなどで、社員が裁判員になった場合、有給休暇や
特別休暇扱いにする方針を明らかにする企業も増えたことで会社員の不安
感も減少。さらに、刑事裁判自体を短期間に終了させるため、公判の前に争
点を詰めておく公判前整理手続き(2005年11月導入)によって、裁判員対
象事件でも、大半は3日間で判決が下せることも明らかになり、裁判員として
の拘束日数の不透明感に伴う消極姿勢も払しょくされつつある。
裁判員は司法民主化に不可欠であるばかりか、国民自身を「統治の主体者」
と自覚させる教育機能を発揮する可能性を秘めた大事な改革だ。成功させる
ためには、抽選によって裁判員候補に選出されてから、実際に裁判員として
判決を下すまでのあらゆる段階で、国民に不安感を与えない仕組みを構築し
ていくことが大切になる。
改革の理念を生かせ
現在、最高裁が制定した裁判員規則に基づいて裁判員の辞退が認められ
る理由や、裁判員を選任するときの面接方法など、細かな制度設計が進めら
れている。裁判員は主権者である国民に新たな負担を課す制度だ。「刑事裁
判への一般市民の良識の反映」という改革の理念を実現するために、国民の
視点で着実に準備を進めてほしい。
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