バカ漫画 其之参拾弐 | |
「中国入門」 やっかいな隣人の研究 〔飛鳥新社〕 (2005年8月15日発行) 画・ジョージ秋山 監修・黄文雄 |
(C)ジョージ秋山
バカ漫画32弾は、前回に引き続き歴史系ネタ。それも、物議を醸してころしそうな近現代史。 でも、あまりにも内容がアレですし、作画は超大御所で敬愛するジョージ秋山先生ですし、 時期的にも、こういうの大流行しておりますからタイムリーですし。つくづく、芸人ですな>自分。 まずレビューに入る前に、地球上の人類について解説したこちらの文章をご覧下さい。
まったく間違ってるわけじゃありませんよね。 ただ、直後にサド隊員が的確にツッコンでます。
仲人口と同様、話半分以下だと思った方が吉。黄先生、明らかに悪意・敵意がありますし。 ではまず、その黄文雄先生ご本人についての解説(Wikipedia)。 この方を歴史学者(それも台湾出身ですし、東洋史の専門家)だと思ってる方。それ勘違いです。 学歴は、早稲田大学商学部卒。明治大学大学院文学研究科博士前期課程修了。 専攻は西洋経済史(それも、マルクスとマックス=ウェーバー)。 しかし書いてる本は、ほとんど専門外の東洋史。(本人もそのこと講演会でネタにしてます) 西洋経済史専攻で、且つ東洋における陰謀を語るわけですから、やはりそこに登場しますは 闇の組織「フリーメーソン」ですよ!!(大爆 *参考 バカ漫画『空手大戦争超人伝』の中でもフリーメーソンは、ちょっくら紹介しております。 氏の著作『罠に嵌った日本史』の中では、フリーメーソンと中国(孫文・蒋介石・宗家三姉妹)との 闇の繋がりが6頁にわたって述べられておりまして、なかなかに読み応え(笑)があります。
……むう、なかなかカッチョいい表現です。正しいかどうかは別にして。 はっきりと言えるのは、こりゃ間違いなく歴史学者の文章じゃありませんね。 台湾ペンクラブ賞を受賞されておりますし、この人、小説家ではないかと。往年の五島勉みたく。 *五島氏の名誉のために言っておきますが、文章力・説得力にかけては黄氏の方が遥かに劣ります念のため。 ちなみに、現在の氏の著作にはフリーメーソンは登場しなくなってしまいました わざわざフリーメーソン登場させなくても、陰謀は中国が一手に引き受けてくれるからでしょう。 さて、本題に入りましょう。まずこの本を一読してみて一言。 ジョージ秋山先生、手ぇ抜き過ぎです(涙)
てゆーか、本人が描いてるのかな、これ? こんな手抜きの絵で、個人的に大好きな魂のふるさと『デロリンマン』は見たくなかったな。 絵もそうですが、引用されておる写真も、かなりいい加減なシロモノです。 まず、P.50〜51の写真の背景に使用されております新聞記事。 そして内容ですが、決して間違っちゃいないけど正しくもない記述のオンパレード。 細かな部分をピックアップすれば………やっぱり間違いだらけですねこれ(笑)。
多少なりとも南京虐殺論争に理解のある人なら、すぐにお分かり頂けると思いますが、 もはや、論争の初歩の初歩レベル。全文(てゆーか、一行ごとに)ツッコミ所だらけ。 いま時、中高生でも、もうちとマシな論陣張りますぜ。 @ 対立してるのは、多数説・中間説と少数説。 否定派は、学説上歯牙にも掛けられてない。 否定説を唱えているのは、専門外の学者や素人。流行ってるのはネット内のみ。 あ、政界もですね。 少なくとも、こういう質問・疑問を呈するような人は、否定説(トンデモ)に分類されますのでご注意を。 A 誰が主張してるんだ、こんな説(笑)。 主張してる人物とその内容を、具体的に。―→解答 しかし、中国政府ですら主張してない数を以て中国を批判するとは、なかなかの度胸です>黄先生 B 犠牲者数「三十万人以上」との判決出たのは、南京軍事法廷です。その判決を下したのは中国国民党。 数字を受け継いだのが中国共産党。共産党も国民党もごっちゃごちゃ。何ですか、「協議の結果」てのは(笑) C 主張はしても強制はしてません。現に、日本の学者で「三十万人」説を採る人ほとんど存在しませんし。 そこで、満を持して黄文雄先生が持ち出す南京虐殺の真実とは、これですよ。 『東晋以来の中国歴代王朝による南京虐殺からのコピー説』(P.75) 日本側にも虐殺を示す史料があるのですが、そういうのは視野にも入らず華麗にスルー。
まず、一つ言えること。黄文雄先生を除いては、 こんな説を採ってる学者は誰一人おりません。 当たり前です。王朝が交替するってことは戦争があるわけで、その際に虐殺が起きるのも当然。 そこから導き出されるのは、かつて中国人が虐殺したことがあるという結論だけで、 日本軍が虐殺していないという結論には結びつきません。論理が相当飛躍してます。 ついでに言えば、黄文雄先生。P.90でこんなこと言っておられますが、
現王朝が自らを正当化し、前王朝がどんなに極悪かを証明するため勝手に歴史をつくった、と。 つまり、前王朝が虐殺の記述を大袈裟に誇張した、というように考えが至らないものかと思うのですが。 実際、日本軍による南京虐殺の中国側主張の犠牲者数30万人も、誇張されてるとは思います。 (もうちょい正確に言えば、そもそも虐殺の定義が異なるので、日本側の研究と同列に扱えない) でも、白髪三千丈のお国柄などと批判する人でも、かつて中国が行なった虐殺の記述だけは、 何の批判もなく受け入れるんですよね。 どして? 東晋以来の中国歴代王朝による南京虐殺が、誇張されてないと、どうして言い切れるのか? てゆーか、実際こういう記述って、かなり誇張されてるんですが。
ついでに言えば、大袈裟・誇張した表現というのも、中国だけの専売特許じゃありませんし。 黄文雄先生による中国の歴史や現状に関する記述は、一事が万事そんな感じ。 細かい間違いやら、中国に負けず劣らずな大袈裟に誇張した表現やらが多数見受けられます。 逐一、レビュー書いていくのも面倒なんで、ヒマがあれば列挙するかもしれません。 更に、中国人の残虐性を強調するため、20頁ほど費やして中国での人肉食について それはもお嬉しそうに 内容が、桑原隲蔵の『支那人間に於ける食人肉の風習』『支那人の食人肉風習』や 井波律子『中国のグロテスク・リアリズム』からの剽窃とかいうのは、ひとまず置いといて。 (注・桑原隲蔵も、学問の世界では一面的・短絡的との評価をされております。念のため) こういうカニバリズム(Wikipedia)は、人間心理(少なくとも文化人類学的な)の面から考察すべきでしょう。 大昔の、それも凶悪な事例だけを積み重ねて、今の中国人も残忍だと決め付けるような手法って、 印象操作って言うんじゃないの? 某新聞の印象操作に過敏に反応する人なら、こういう印象操作にも過敏に反応しましょうね。 確かに、中国に人肉食の記述ある文献は少なからずありますが、その大部分が飢餓によるもの。 各王朝の末期にもなると戦乱と飢饉などにより、深刻な食糧不足になっておるからでありまして 食う物が極限まで無くなれば、そりゃあねえ。 ちなみに、P.156〜157でも以下のように書かれてます。
絵にすれば、こんな感じでしょう。 ・ (注・残酷画像) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ あ、ごめんなさい間違いでした。 これ、ジョージ秋山先生の大傑作にして大問題作 『アシュラ』 冒頭部分。 巻頭カラーで、豪快に人間を喰ってます。 直後に有害図書指定も喰らって、 マガジン回収騒ぎになったりしてます。 しかし作品自体は、(この本と違って)非常に面白いです。考えさせられます。一読をお勧めします。 この作品、中世の日本が舞台ですが、「唐書」昭宋本記に描かれた惨状とそっくりそのままです。 人間、極限状態になれば、理性もモラルも吹っ飛ぶものですな。日中問わず。 しかしまさか、ジョージ秋山先生の絵で、再び人肉食が見れるとは思わなかったよ西手新九朗。 いや、飢餓とは関係なく戦争相手への敵愾心を煽るために、敵兵の肉を食べていたではないか と言われる方も多かろうと思います。これもその通りです。日中問わないのも。 (あと、「敵の肉を喰らう」てのは、恨み骨髄なのを示す慣用句でもありますので、額面通り解釈するのもどうかと)
更に付け加えれば、黄文雄先生の故郷。台湾人による食人の文献もあったりするのですが。
ちなみにこの書籍の著者・武田雅哉氏は、この記述の少し前(P.186)に、 「中国の史料には (中略) 改竄の手が加えられることが、しばしばある」 と書いておられます。 「ぼくは新たに刊行された『史料』なるものについては、ただいまの諸事情によって『創作』された 『文学作品』であるとみなして、寛大このうえない心で鑑賞し、楽しむことにしている」 とも。 しかし、黄文雄先生などは中国の史料(それも古典)を、まんま信用されてるのでありますから、 上記台湾原住民による倭肉食も、黄先生の厳格なお立場からはまんま信用しなくては(笑)
いや、この本にも納得できる部分が、ないわけじゃないんですよ。 小泉首相を前に、中国の
この部分は、確かにその通り。慧眼だと思いました。 ただ、これも別に中国に限ったことでありませんが。 一人っ子政策→少子化 と言い換えても、充分に意味は通じるんですよねこれ。 例えば、お隣の韓国でも少子化は、日本以上に進行してますし教育はアレですし。 しかし、我が国でも少子化進行しまくり。教育制度はまだマシですが、半強制的に詰め込まれる 面白味のない義務教育よりも、好奇心で見るネット情報の影響もそれに勝るとも劣らないと思われ。 ……んで、リアル愛国戦隊大日本なサイトは、ネットの中に山ほど見受けられますし。 ぶっちゃけ今の状況。日中韓による中華思想 同士の罵り合いに見えて仕方ないんですよ。 あと、今の日本の政治家さんって、世襲議員とか多いじゃないですか。それも無茶苦茶に。 政治資金規正法もザルだった当時の、しかも与党議員の息子なんざ、 うちら一般貧乏庶民からすれば、やっぱ金持ちのボンボンですよ。 現に、某都知事の息子たちとか、過保護に育てられた子供達にしか見えませんし(笑) (ちなみに某都知事の現行不一致の過保護な教育方針は、『トンデモ本の世界R』P.52〜61参照のこと) 黄先生の言が全面的に正しければ、 過保護に育てられた子供達である日本の政治家は、 愛国教育による中華思想に回帰して、自己の欲求を抑えられずに犯罪に走る …ということにわけですな。わはは、何てリアルな(笑…えませんねコレ あと、気になったのがP.251〜252で小泉首相に黄氏が迫るシーン。
任期後半の首相の過激な言動とか見てて、少々不安だったんですよ。 ……まさか小泉さん、こんな本、読んでたの?と。 前首相は、読んでませんよね? さて。最後になりましたが、個人的には黄文雄先生の評価を決めかねているところです。 つまり、黄文雄先生の目的は何なのか。その正体はどういう人物なのか。 ★心の底まで日本に染まり切った、超絶な自虐的台湾人 ★そういう風に見せかけている、実は真の愛国的台湾人 こういう本を大量に出してるわけで、そのスタンスは親日を通り越して媚日なのは間違いない。 しかも、『台湾は日本人がつくった―大和魂への「恩」中華思想への「怨」』、 『日本人が台湾に遺した武士道精神』、『台湾は日本の植民地ではなかった』 などなど、 台湾の愛国者(てゆーか、国粋主義者)や、日本に侵略された当時の世代から見れば、 激怒しそうなタイトルの本が並んでおりますし、極めつけはあの地図(P.98)ですよ。 日本(それも昭和初期までの)を愛するが故に、台湾人としての誇りを忘れ果てて日本に媚を売り、 自分の愛するあの頃の日本に戻そうとしている自虐的台湾人。表面上は、そうとしか思えません。 しかし反面、黄文雄先生って台湾独立建国連盟の日本本部委員長なんですよね。 そんな立場の人が、「台湾が日本に侵略され、統治されたのが正しい」みたいな主張するかな、と。 この本の中でも中国を非難してるんだか、日本をバカにしてるんだか分からん部分もありますし。 そこで思いついたバカ仮説(笑)。黄文雄先生の隠している真の目的は、 「日本を利用して台湾独立を実現せしむる」 日本と友好関係を保った上で、日中を敵対関係に仕向け、そのドサクサに紛れて独立を宣言する。 これなら台湾は少しも痛みません(傷つくの日中だけ)。国益に合致します。戦略的に正しいです。 こんな売国的主張をしている黄先生の元に、台湾の愛国者からヒットマンが送られてこない理由も分かろうというもの(笑) 多分、前者で間違いないと思うのですが、陰謀論っぽい後者も捨てがたいんですよね(笑)。 もし後者だとすると、台湾独立のために踊らされる日本人てなマヌケ極まる構図になりますし、 口先三寸で自国の利益になるように、一つの国家を躍らせるの、無茶苦茶格好いいですし。 まぁどちらにせよ、別に中国を嫌うのは自由ですし批判するのも結構ですが、その根拠は正確に。 少なくとも、こんなトンデモに 踊らされるようじゃ論外ですよ♪ |
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このレビューを書くにあたり、黄文雄先生と同じ早稲田大学卒の友人に監修を頼みました。 黄先生と違い、残念ながら(?)その友人、史学科(中国近現代史)専攻です。 多謝であります。(正確には、監修はまだですが) |
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