無駄のない適切な機能訓練を行うためには、正確な問題点の把握が必要不可欠です。
 すなわち、診査によって問題点を剖出し、そこの強化訓練を行います。
 そのためには、以下の項目についての診査が必要に成ります。
 厳密に系統立てて診査項目を分類することは困難ですので、便宜的に以下の様に分けました。、
T:基礎的状況の診査
1:歯牙
      @う蝕、(詳細はう蝕へ)
      A歯周病(詳細は歯周病へ)
      B歯牙欠損
2:義歯
      義歯の有無、適合度、破損状況
3:咬合状態
      咬合支持の状態 、顎位の安定性

4:口腔衛生状態
    専門的には各種の口腔衛生指標が有りますが、スクリーニングと しては以下の状況を把握します。
       @食物残渣  
       A歯石  
       B歯垢  
       C義歯清掃状態

                    食物残査                            歯石
            

                   歯垢の付着                       義歯の汚れ
                  
U器質的・機能的診査
1:口唇の診査
  (1)器質的診査
     @色調 : 正常は赤橙色  (暗紫色=チアノ−ゼ  白色=貧血 等)
     A口角炎の有無
     Bその他の器質的以上(口唇炎、ヘルペスなど)
         カンジダ性口角炎   
  (2)機能的診査
     @口唇閉鎖の可否
     A口唇突出(口笛)の可否
     3口角牽引の可否
     C口角下垂の有無
              
           


2:舌の診査
  (1)器質的診査
      舌の形(萎縮、肥大等)
     表面性状(舌苔、カンジダ症等)

          

  (2)機能的診査
      舌の運動
     味覚(主に問診による)

         
              1)両側性舌下神経麻痺:舌の突出不可。
              2)一側性麻痺:舌を突出させると麻痺側に曲がる


3:頬の診査
  (1)器質的診査
       頬粘膜性状(粘膜疾患)
         

  (2)機能的診査
        頬の運動:膨張、吸綴



4:軟口蓋
  (1)器質的診査
      口蓋部の各種疾患(外傷、膿瘍、口内炎、腫瘍など)

            

  (2)機能的診査
      @カーテン徴候
         一側の迷走神経麻痺がある場合には口蓋垂が健側に傾く。
          咽頭後壁も健側に牽引される。
           

      A軟口蓋反射
         軟口蓋の刺激で軟口蓋の挙上の減弱
5:開口度
   (1)正常開口量
      最大開口時の上下中切歯間距離で、 38mm以上の開口量(3横指)
      高齢者では関節結節の吸収が起こる ため、これ以上の開口量が予想されます。

            
   (2)開口度減少の原因
      顎関節症、リュウマチ性顎関節炎 、咀嚼筋の拘宿


V:その他の診査(粘膜他)

1:口腔乾燥症の診査(詳細は口腔乾燥症へ)
  (1)臨床的視診判定(柿木)
      各種の診査方法が有りますが、この柿木先生の方法が最前であるように考えます。
         0度(正 常) : 乾燥なし(1〜3度の所見がなく、正常範囲と思われる)
         1度(軽 度) : 唾液の粘性が見られる。
         2度(中程度) : 唾液中にの小さい唾液の泡が舌の上に見られる。
         3度(重 度) : 舌粘膜が乾燥している。(ほとんど唾液が認められない)
        0度                1度               2度             3度
         

2:味覚障害
  (1)味覚の診査
       スクーリーニングとしては問診を重視
  (2)味覚検査
     @電気味覚検査法
        電気味覚計という器具を使い、弱いプラスの電気を流して刺激レベルを変化させ、味を感じ取れる度合いを調べる方法。
     A濾紙ディスク法
        甘味、塩味、酸味、苦味の4種類の味をそれぞれ染み込ませた濾紙を舌の上にのせます。
        それで味が感じられるかどうかをチェック する方法。
        濾紙に染み込ませた味が全部で5段階ある。
     Bソルセイブ
        試験紙は食塩(NaCl)含有量0、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、.6mg/c  の7種類が1セットになっています。
        各々の試験紙を舌に乗せ、どの食塩含有量の試験紙を塩か  らく感じるかにより、食塩味覚閾値を判定します。
        栄養指導や塩分感受性テスト用として利用されます。
                    


3:舌苔 
  (1)舌苔とは
       角化が亢進して伸びた糸状乳頭に、食物残さや細菌およびその代謝産物が付着し て舌苔が形成されます。
       舌苔は全身状態と関連していて、舌粘膜をするためのある種の防御反応とも考えられています。 
     @正常な場合の舌苔
         舌の色には舌本体の色のほかに舌苔の色、着色物の色があります。
         正常な説の場合、白い苔が全体に薄く均等 についています。
            
     A白い苔が分厚くなる場合
         糸状乳頭が増殖したり、腐敗した粘液や脱落した上皮細胞が積み重なる状態。
         脱水や唾液分泌の低下による自浄作用の低下、消化管の感染症などの場合によく 見られます。
         カビの一種であるカンジダ菌が異常に増 殖している場合もあります。
            

     B灰色や黒色の舌苔
        さらに病状が進行して重くなった場合など 高熱や脱水、炎症性疾患、感染症、唾液pHの変化などとの関連があります。
        口腔内の常在菌のバランスがくずれ菌交 代現象をおこすと舌苔が黒〜褐色に着色します。
        舌に黒い毛が生えたように見えることがあります。
        これは黒毛舌と呼ばれ、長期間抗生物質を服用した場合などによく見られます。
          
     C舌苔に黄色の着色
         熱や病気が進行した時に認めることもあります。
         慢性胃炎や胃下垂、消化吸収不良でも薄 黄色苔が形成されます。
         病状が進行すると黄色の程度が強くなる 傾向があります。
         また喫煙本数の増加とも関連しているといわれています。

          
     D無苔
        無苔は舌乳頭の全体的な萎縮によると考 えられます。
        疾患の重度慢性化、長期化の場合に見ら れ、慢性的な栄養不良が考えられます。
        微量元素や鉄分が不足した場合などにも見られます。
          

  (2)舌苔と口腔機能
     病的な舌苔の発症は、何らかの全身的原因が有ると考えなければなりません。
     それが間接的に口腔機能を障害している可能性もあります。
     直接的にも、味覚障害、舌機能の減退をもたらす可能性も有ります。

  (3)舌苔のケア
    まず最初に舌苔が出来た原因を探ることが重要です。
    @原因として考えられるもの
       上部消化管障害、熱性疾患、栄養障害
       口腔乾燥症、口腔カンジダ症 等
    Aケアの実際
       最初に原因に対する治療を行います。
       次に対症療法的に舌苔の除去を行う必要がある場合も有ります。
       その時には無理な力で除去すると傷がつきやすいので、軽い力での
       清掃や保湿を中心として口腔ケアを行うことで改善します。
4:カンジダ症 (詳細はカンジダ症へ)
  (1)カンジダ症とは
      カンジダ症はCandida属菌種により引き起こされる日和見感染症です。
    @表在性カンジダ症
       皮膚・粘膜を侵す
    A深在性カンジダ症(内臓カンジダ症)
       消化管、気管・気管支・肺、腎・尿路系、その他の深部臓器を侵す。
  
      また、口腔カンジダ症は、多彩な肉眼像を呈し、以下の4型に分類されています。  
        1:急性偽膜性カンジダ症
        2:急性萎縮性(紅斑性)カンジダ症
        3:慢性肥厚性カンジダ症
        4:慢性萎縮性(紅斑性)カンジダ症
  (2)カンジダ症と口腔機能
      舌苔発症と同様に、口腔機能の減退が生じる可能性が有ります。

  5:その他の粘膜疾患(詳細は粘膜疾患へ)



W:総合的診査 (摂食嚥下状態の診査 )
1:問診 の再確認
  嚥下障害の可能性を推測するには事前の問診が極めて重要になります。
  再度確認して下さい。
   (1) 摂食嚥下障害が疑われる既往疾患
      @ 脳血管障害     
           脳梗塞、脳出血等                    
      A 神経・筋疾患
              パーキンソン病、進行性筋萎縮症、  筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症
           重症筋無力症、ギラン・バレー症候群
      B その他の脳疾患 
              頭部外傷、脳炎、脳膿瘍、脳腫瘍等                  
      C 口腔疾患
          口腔腫瘍、顎骨骨折等
      D 咽頭・喉頭疾患  
           咽頭・喉頭炎、咽後膿瘍 、 咽頭喉頭腫瘍等
      E 食道疾患
           逆流性食道炎、食道潰瘍、アカラジア 、食道裂孔ヘルニア 、食道腫瘍等
      F その他    
             神経性食思不振症等

  (2)誤嚥を疑う病歴                                                     
      @ 誤嚥があった
      A 肺炎(発熱)を繰り返す
      B 脱水、低栄養状態がある
      C 拒食がある。
      D 食事時間が1時間以上。      
      E 食事中、食後にムセや咳が 多い。
      F 食後、嗄声がある。               
      G 夜間に咳き込む。

2:摂食嚥下機能
  (1)先行期
    @認知症レベル  
      T:何らかの痴呆を有するが、日常生活は家庭内及び社会的にほぼ自立 している。
      U:日常生活に支障を来すような症状、行動や意志疎通の困難さが多少みられても、誰かが注意していれば自立できる。
      V:日常生活に支障を来すよう な症状・行動 や意志疎通の困難さがときどき見られ、介護を必要とする。
      W:日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが頻繁に見られ、常に介護を必要とする。
      M:著しい精神症状や問題行動あるいは重篤な身体疾患が見られ、専門医療を必要とする。
    A従命状況
        良、困難、不可
    *臨床検査として以下の検査があるが、必要な場合には専門機関に依頼する。
         長谷川式スケール(HDS-R)、
          Mini-Mental State Examination(MMSE)

  (2)準備期
      準備期の診査としては前述の器質・機能的診査が該当する。
           歯牙 義歯 咬合状態
            口唇 舌 頬 軟口蓋 開口度       
           唾液 味覚 うがい
  (3)口腔期・咽頭期
     @各種反射
        1)下顎反射
            下顎前歯部に開口させようとする力を加  えると、不随意的に閉口する
        2)軟口蓋反射
            軟口蓋の刺激で軟口蓋の挙上
        3)嚥下反射
            奥舌領域を刺激したときに起こる不随意 的な飲み込み反射。
        4)咽頭反射(催吐反射)
             咽頭後壁の刺激で反芻運動を生じる
     A舌骨の動き
         嚥下司の舌骨の動きを触診で確認します
          
        Bむせ 嗄声
         食事中または食後のムセ、湿性嗄声の有無を観察します。 
      Cうがい   
        うがいは、口唇、舌、頬、軟口蓋の筋組織と、各種神経の協調性を要求されるものであり、かなり困難な動作。

     D  RSST:反 復 唾 液 飲 み テ ス ト(Relative Saliva Swallowing Test)
       a:使用器材
            人工唾液 :口腔乾燥症を呈する患者には人工唾液(サリベート)を使用しています。
       b:方  法
          @唾液分泌良好例
              1)被験者を座位とする。薬杯を座位の状態にある患者の健手に渡す。
              2)験者は被験者の喉頭隆起・舌骨に指腹をあて30秒間嚥下運動を繰り返させる。
              3)被験者には、「出来るだけ何回も”ごっくん”と飲み込む事を繰り返してください」と説明する。
             4)喉頭隆起・舌骨は嚥下運動に伴って指腹を乗り越えて上前方に移動し、また元の位置に戻る。
             この下降運動を確認し、嚥下完了時点とする。
          A口腔乾燥例
            上記の1)−4)の方法に先立ち、人工唾液を口腔内に2ー3回噴霧する。
       c:判 定
             嚥下運動時に起きる喉頭挙上→下顎運動触診で確認し、30秒間に起こる嚥下回数 を測定する。
                     3回以上=正 常   3回未満=異 常

  (4)体幹機能
      下顎:牽引  (可、否)
        頸部:硬直  (−、+   ROM=      )      
       上肢:問題  (−、+         ROM=      )           
       下肢:問題  (−、+         ROM=                     )
       体位:       (立位、座位、臥位)    
        体位保持の必要性(無 有 )( back rest、座骨座り、仙骨座り)
        呼吸状態    (良、異常)
X:まとめ
 
以上、診査すべき項目を羅列しましたが、これらをその施設の状況に適合する様な診査表を作成して置くことが望ましいと考えます。
 また、実際の診査では、外側から行って下さい。
 すなわち、頭部(先行期)、頚部、上肢、下肢の順で行い、最後に口唇から口腔内へと進めます。
 参考までに、当院で使用している診査表の一部をを添付します。





    


T:基礎的状況の診査 歯牙について う蝕、歯周病、歯牙欠損
義歯について 義歯の有無、適合度、破損状況
咬合状態 咬合支持の状態、顎位の安定性
口腔衛生状況 食物残渣、歯石、歯垢、義歯清掃状態
U:器質的、機能的診査 口唇の診査 器質的診査、機能的診査
舌の診査 器質的診査、機能的診査
頬の診査 器質的診査、機能的診査
軟口蓋 器質的診査、機能的診査
開口度
V:その他の診査(粘膜他) 口腔乾燥
味覚
口腔粘膜の状況 舌苔、カンジダ症、粘膜疾患など
W総合的診査 問診事項の再確認
各種反射
先行期   
認知症レベル  従命状況
準備期
口腔期・咽頭期
体幹機能
  口腔機能の診査方法