口腔乾燥症

口腔乾燥症とは 唾液について 口腔乾燥症の検査 口腔乾燥症の諸影響
口腔乾燥症の治療 口腔乾燥症と歯科衛生士

1:口腔乾燥症とは
唾液の分泌低下や過剰な口腔粘膜水分の蒸散よって
口腔内が過度に乾燥する状態を指します。





2:口腔乾燥症のセルフチェック
 口の中は、唾液によって常に湿った状態にあるのが普通です。
 しかし何らかの原因によって唾液の働きが損なわれると、いろいろな不都合が生じます。
 次のような症状がある場合には、要注意と考えてください。

     1 口が渇く(唾液が出ない))
     2 口が渇いて話がしにくい
     3 食事の時に飲み物が必要である
     4 夜間、飲水のために起きる
     5 舌がひび割れる
     6 味覚が変わった  
     7 口角炎を起こしやすい 
     8 口臭が気になる
     9 虫歯がたくさんある

     3個以上の該当項目があれば口腔乾燥症の可能性が高いといえます。

3:口腔乾燥症の原因
唾液の機能
  唾液には下記のような様々な働きがあります。
  しかし、何らかの原因でこの唾液の分泌量や性状が変化して、口腔乾燥症が発症します。

  唾液の作用
    @物理的作用
        1)潤滑作用
            粘膜を唾液が覆うことにより、咀嚼・嚥下・発声を容易にする。
        2)粘膜保護作用
            唾液粘液(ムチン)の被覆により各種の刺激から粘膜が保護される。
        3)咀嚼の補助作用
        4)洗浄作用
           口腔内入った微生物・異物・食物残渣等は唾液にトラップされ、嚥下されて胃液よって処理される。

    A化学的作用
        1)消化作用
           アミラーゼによるデンプンの消化。意義は少ない。
        2)溶解作用(溶媒作用)
           食物中の味質を溶解し、味覚の発現を助ける。
        3)緩衝作用
           酸・アルカリに対する中和作用。温度の希釈。

    B生物学的作用
        1)抗菌作用
            リゾチーム、ペルオキシターゼ、ラクトフェリン、ヒスタチン、分泌型IgA(SIgA)、
          等の抗菌因子が抗菌作用を示す。
        2)排泄作用(溶媒作用)
            体内に投与された薬物の一部は唾液中に排泄され、血中濃度を減じる。


A:口腔内に起因する口腔乾燥症の原因
@口呼吸
 口腔乾燥の限局的要因として口呼吸があげられます。
 口呼吸は、鼻炎やアデノイドによって二次的に起こる場合もあります。 
 長時間の口呼吸は口腔内を乾燥させ、口腔粘膜の痛みやプラークの増加を引き起こすため、歯周病やカリエスの発症を助長します。

A嗜好品の過剰摂取
 コーヒー・紅茶・緑茶に含まれるカフェインやたばこは、粘膜に対する刺激となります。
 またニコチンやカフェインは高い利尿作用を有するため、一時的に脱水を起こし唾液分泌が抑制されます。

B摂取水分量の不足
 全身の機能を円滑にするには、成人の場合1日あたり体重の1/20の水分摂取が必要とされています。
 たとえば体重50kgの人では1日に2.5Lの水が必要ということです。
 そのうちの一部が唾液分泌に利用されます。
 食事などで自然に摂れる水分量は1.5Lといわれていますので、残りの1Lは食間に摂らなければならない計算になります。

C不十分な咀嚼回数
 咀嚼回数の減少は、唾液腺の萎縮と唾液分泌の低下をもたらすことが知られています。
 これは食生活のあり方にも関連しています。
 たとえば幼児期にあまり咀嚼しなくても食べられる食物を中心とした食生活を続けていると良い咀嚼習慣が身につかず、結果的に唾液分泌低下を引き起こすことがあります。
 軟食や流動食を多く摂っている場合や、早食いになっている場合にも注意する必要があり、このような習慣は成人してからでなく、小さい頃から習慣づけることが大切です。


D微量元素摂取不足
 微量元素のうち亜鉛は細胞が新しく作られる際に重要な役割をしています。
 不足すると亜鉛原子を必須とする体内酵素がうまく働かなくなるため、細胞の再生が円滑にいかなくなります。
 亜鉛摂取不足が直接口腔乾燥症の原因とはなりませんが、唾液分泌低下と合わさると粘膜細胞の再生が阻害され、口腔乾燥症の自覚および他覚症状を助長することになります。
  亜鉛が不足する原因としては、
     1)亜鉛を多く含む食品がバランスよく摂取されていないこと
     2)体内の亜鉛の吸収を妨げる食品添加物を含む加工品の過剰摂取または、服用薬剤が 原因の場合。

E歯磨剤の過剰使用
 多くの歯磨剤にはラウリル硫酸ナトリウムが含まれており、粘膜を刺激したり乾燥した粘膜の炎症を惹起することがあります。


B:全身状態に起因する口腔乾燥症の原因
口腔乾燥はさまざまな全身状態の変化や全身疾患に関連しています。
@シェーグレン症候群
 シェーグレン症候群は、唾液腺や涙腺などの外分泌腺が障害を受ける原因不明の全身性自己免疫疾患です。
 30ー60歳の女性に好発します。
 症状として、口腔乾燥症(ドライマウス)、ドライアイ(目の乾燥感、異物感)が特徴的ですが、そのほかにも多彩な全身性病変を併発する場合があります。
 病理組織像では、涙腺、唾液腺に代表される外分泌腺においてリンパ球を主体とした細胞浸潤がみられます。
 本症は一次性のものと、関節リウマチ、強皮症、全身性エリテマトーデスなど、他の自己免疫疾患に合併する二次性のものに二分されます。
 さらに一次性のものは、涙腺と唾液腺のみに病変が限局する腺型と、リンパ節、肺、肝臓、腎臓などに病変が波及する腺外型に分けられます。
 また一部の症例では悪性リンパ腫などの造血系腫瘍を併発するために、リンパ増殖性病変とも考えられています。
 
Aシェーグレン症候群以外の唾液腺病変(全身性)
 肉芽腫性病変として、耳下腺にサルコイドーシス、梅毒、結核などがまれにみられます。 また全身性アミロイドーシスでは、導管や腺房周囲の間質にアミロイドが広範囲に新着し、実質の圧迫萎縮をきたすこともあります。
 それ以外にウイルス性疾患として、ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎(おたふく風邪)、サイトメガロウイルスによる巨大細胞封入体症などがあります。

Bホルモン・代謝系の異常
1;糖尿病
 糖尿病では血糖値が高いときに口渇、多飲、多尿などが生じます。
 一般的に血糖値が150~300mg/mlの時期には無症状であることが多く、300mg/mlを超えると症状が現れます。
 口渇は高血糖にともなって尿糖が増え、これによって強制的に尿が多く出ること(浸透圧性利尿)が原因です。
 糖尿病は1型糖尿病、1型糖尿病、その他の特定の機序・疾患によるもの、妊娠糖尿病に分けられます。
 特に1型は激しい自覚症状を伴って突然発症することが多く、放置すると昏睡に至り生命の危険もあります。
 2型は無症状であることが多く、自覚症状が出たときには多くの合併症を生じている可能性があります。
2;尿崩症
 尿崩症は、下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモン不足、または腎臓がこのホルモンに反応しないために尿量が以上に多くなる病気です。
多尿により脱水状態になり、口渇を訴えるようになります。
3;甲状腺機能亢進症、機能低下症
 甲状腺機能亢進症では、代謝が活発化し、心機能亢進、交感神経興奮が高まって動悸、多汗、易疲労感などとともに口渇が生ずることがあります。
 逆に甲状腺機能低下症では、新陳代謝が低下し、全身ら浮腫が生じて、口渇が生ずることがあります。
4;その他
 がんや副甲状腺機能亢進などに伴って、高カルシウム血症が生ずると、初期には多尿に伴う口渇があります。
 副腎皮質機能亢進症によるCushing症候群では耐糖能の低下や低カリウム血症を引き起こします。
 原発性アルドステロン症では高血圧、低カリウム血症を生じ、口渇を生ずることがあります。

C体液・電解質異常
 高温、脱水、乾燥などで体内の水分量が減少したときには、恒常性を維持するために外分泌が極力抑制されるようになります。
 そのほかにも、嘔吐、出血、下痢、腎障害などで電解質異常が生じたときにも口渇が生じる可能性があります。

D放射線被爆による障害
 がんの治療や骨髄移植患者では、放射線療法が行われますが、腺組織は放射線への感受性が強いため、頭頸部への照射によって唾液腺組織が障害を受けることがあります。
 過去においては機能が失われた例も多かったのですが、現在では照射法が工夫されて軽減化が図られています。

E神経性要因
 頭頸部の外傷や手術、延髄疾患、脳腫瘍、脳炎、自律神経失調症などにより唾液分泌にかかわる神経が損傷された場合、神経の種類および損傷部位によって支配領域での唾液分泌に影響が出ます。
 ストレス、精神的緊張、神経症などで自律神経系に影響を受け、体の水分の減少を伴わずに口腔乾燥感を感じやすくなることがあります。
 うつ病患者については、抗うつ剤の副作用だけでなく、うつ病自体の身体症状として口腔乾燥が発現することも多く、この場合の口腔乾燥は重症となりやすいようです。

F服用薬剤との関連
 高血圧の薬、睡眠薬、抗うつ剤などの服用で口腔乾燥感を自覚する人の割合が高くなります。

G加齢
 以前は唾液腺組織が増齢により減少するという病理学的研究から説明されていましたが、その後の多くの研究によって否定されてきています。
 唾液腺は巨大な分泌腺で余力があり、増齢による腺実質の減少は口腔乾燥症を引き起こすほど分泌量を減少させないと考えられていますが、口蓋腺の唾液分泌は、年齢に伴って減少するとされ、これが分泌量の正常な高齢者でも口渇を訴える1つかもしれません。
 また増齢の影響として動物実験などではムチンなどのいくつかの唾液成分が減少すること、抗うつ剤により唾液分泌量の減少率が増大したり、初老期での唾液分泌の回復が遅延することが報告されています。
 高齢者の口腔乾燥症は増加しており、これは全身疾患の有無、薬物の服用、生活習慣の問題、飲水行動、口腔機能低下などとの関連が深いと考えられます。